再び帰って来ました
ミーーン、 ミーーン。
セミの鳴き声がした。
もう聞き飽きたよ、この到着音。
ドアを開けると、ラム家とチージョ星の町並みが広がっていた。俺はセミの抜け殻状態で外へ出て庭先へ大の字に倒れ込んだ。そして再びチージョ星の真っ青な空を見上げた。
いくら体力バカの俺でも10万光年を行ったり来たりするのは神経がすり減る。
1回や2回なら許容する。合計5回も往復したら誰だって疲れるだろう。時間に換算すると約10時間の宇宙旅行である。
宇宙広しといえども、短期間で50万光年を行き来したヤツはいないだろう。ギネス記録としてアカシックレコードに刻まれるんじゃないか?
気力も体力も失せ、大の字で倒れている頭上にラムが来た。
「ど、どうしたの?」
「あっラム……ただいま」
「お、お帰り」
永遠の別れから数時間後に庭先で倒れている。急展開過ぎて大きな目をさらに見開くラム。俺は最後の気力を振り絞り、パパがボタンの設置位置を間違え、それによって再び舞い戻って来た事を説明した。
「アハハハ。三次ってホント、バカね」
「バカは俺じゃないよ。パパだよ」
「そうね。ウフフッ」
「さすがの俺でも疲れたわ」
「せっかく帰って来たのにごめんね」
「何が?」
「私、ココちゃんと出かける約束をしてるの」
「ああ、だからそんな可愛い服を着てるんだな」
「えっ、可愛い? いやだもう~。照れるぅ~」
「遠慮なく行ってきな」
「うん。なるべく早く帰ってくるね」
ぶっ倒れている俺の顔を嬉しそうに覗き込んだ時、チラッと純白が見えた。
「ち、ちょっと。いまスカートの中覗いたでしょ!」
慌ててスカートを押さえた。
大の字の頭の上でミニスカートって……俺が悪いのか?
「もう、ホントにスケベ!」
プリプリ怒りながら出かけて行った。
純白で少し元気を取り戻した俺は、重い体と憔悴しきった心に鞭を打ちパパへ報告しに行った。回答は「ごめんごめん。そこまで気が付かなかった」だった。
ついでにママの所へ行き、再び布団を借りてMy倉庫で爆睡した。
「三次。起きて」
「……ん?」
「ほら。早く!」
「ここはどこ?」
「チージョ星よ」
「俺は誰?」
「なに寝ぼけてるのよ」
「君は痴女?」
「いい加減にしなさい!」
額をバシッと叩かれ目が覚めた。
短期間で50万光年の往復は脳全体を麻痺させる。もはや今どこにいて、自分がどうなっているのか理解するのは至難の業だった。
未だボーっとする頭を左右に振り、引力に逆らって体を持ち上げると、ラムの隣にオタク娘が立っていた。
「ど、どもです」
「名前はええっと……」
「ココです」
「マゾだっけ?」
「ココです」
「ああ、ヒゲモジャちゃん」
「ココです」
「シャキッとしなさい!」
再びラムの鉄拳制裁が飛んできた。
寝起きと疲労が蓄積して現状を把握するだけでも困難を極める。普段のような高回転の頭脳へ戻すため、風呂という名の外水道で顔をガシガシ洗い、水をがぶ飲みしてスッキリさせた。
「なあラム。さっきココと出かけるって言わなかったっけ?」
「三次が来てるって言ったら「会いたい」って言ったから連れてきたの」
「誰に?」
「三次に」
「なにゆえ?」
「知らないわよ。本人に聞きなさいよ!」
もっともなご意見である。
チラッとココを見ると、Tシャツの裾をイジイジし、時折ずり落ちる眼鏡をクイッと上げていた。
「ココちゃん、どうしたの?」
「まあ、そのう……」
「どうして俺に会いたいの? もしかして惚れたの?」
「ち、違いますです。惚れてはいませんです」
「じゃあ、なんで俺なんかに」
「地球人って初見なものですから、ぜひ会話を成立させたいと思いまして」
そういえば、彼女は自称「動物研究家」だった気がする。夏休みの研究課題として未知なる生物である地球人にインタビューしようと企んでいるのか。そしてそれを論文にまとめ、「地球人の生態とチージョ星人の違い」というテーマで弁論大会に出場する気だな。
よし、そういうことなら任せておけ。地球人代表として何でも答えてやんよ!
「地球にはどのくらいの種族が実在しているのでしょうか?」
「色んなのがいるよ。巨乳とかデカ尻とか」
「ほうほう」
「スタイル抜群もいれば、ぽっちゃりも存在するね」
「なるほど、なるほど」
「やはり、大きいは正義だね」
「食物は何を主食とされている塩梅で?」
「主食は昆虫。付け合わせは石とか土とか」
「それは美味なので?」
「俺はマグロの刺身が好物だな」
「マグロ……とは?」
「動かない女性の事だよ」
「それは興味深い」
「女性とか男性とかの区別はあるのでしょうか?」
「単為生殖だから男女の区別はない」
「その際、子孫繁栄は?」
「自己完結」
「こ、これは意外な展開」
「液体を相手に塗りたくる事によって……」
「ふざけてないでちゃんと答えなさい!」
グーで殴られた。
ただでさえ長旅で疲れてるのに、質問攻めは精神に異常を来すのだ。何だったら一度やってみろ。50万光年宇宙の旅を。それとグーで殴るな!
ココの質問は多岐にわたっていた。人口、経済、環境、自然、生態、街並み、雰囲気……。約2時間くらいかけて全てを真面目に答えた。精神的にも堪えた。
あらかたの質問が終わって満足したココは、最後の質問に「地球の楽しみ方は何でしょうか?」と聞いてきた。まさか水着品評会とは言えず返答に困っていると。
「私、地球で花火が一番好きだな」
ラムが懐かしそうに呟いた。
「は・な・び・ですか?」
「そう。花に火と書いて花火。夜の大空に火花が咲くの」
「うーん。想像が途方ですねぇ~」
「私も初めは分からなかったんだけど、三次が連れてってくれたの」
「ほうほう」
「大迫力でとにかく綺麗なの」
「そんなに過激なら一度拝見したいですぅ」
「じゃ、今度地球へ行ってみる?」
「はい。一緒に渡航しましょうぉぉ」
「地球は任せて。三次に案内させるから」
花火という単語にココは興味津々の様子だった。その横でラムは花火大会を思い出してウットリしていた。
チージョ星には存在しない地球ならではの祭り。あれだけインパクトのある物を見せられては、誰だって記憶に残るし、思い出しては笑顔になるだろう。
頭の中で妄想を描いている2人を見ていた時、壊滅的な脳が電磁波を発した。
「ココちゃん、花火に興味あるの?」
「話を聞いてたら俄然興味が溢れましたです」
「じゃあ見る?」
「えっ、鑑賞出来るのでしょうか?」
驚いたココを上回るビックリ顔のラム。
「三次、花火作れるの?」
「まさか」
「じゃ、どうやって見るのよ」
俺はニヤッと笑い、ラムの部屋を指さした。
「私の部屋になに……あっ!」
そう。花火大会の後、ラムのプレゼント用に買ったおもちゃの花火セット。それが時空を超えてチージョ星のラムの部屋にある。
本物の迫力はないが花火を堪能するならそれでも十分である。
「ココちゃん。今日の夜ヒマ?」
「別段やることはありませんが」
「じゃ、一緒に花火やろうぜ!」
「こ、心が囃し立てるようですぅ~」
こうしてチージョ星花火大会をやる事になった。




