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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第一部 可愛い彼女は宇宙人
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不思議な夏休みの始まり

 今日は友人たちと海まで来ていた。

 いわゆる悪友という奴らで、友則、克己の2人だ。

 こいつらを紹介しても何のメリットもないが超簡単に説明しよう。


 まず1人目は山田友則。幼稚園時代からの幼馴染である。

 奴を一言で表現すると。


『全生物の中の底辺に君臨する男』


 ゴキブリも含めて、だ。

 もし全国脳みそ足りない選手権があったとしたらぶっちぎりで優勝する。

 行動の9割がロクデナシで超合金並みの頑丈さを兼ね備えている事から、みんなに脳筋ゴリラと恐れられている。


 もう1人は今野克己。小4で一緒のクラスになった。

 こいつを紹介するのは簡単である。


『スペシャル変態』


 趣味は漫画、アニメ、フィギュアなど多彩だが、そのどれもが美少女系で妹系。

 いわゆるロリーというやつである。

 最近は俺の妹を隠微な目で見ている。まだ小5だぞ、おい!


 奴らの武勇伝を語ったら六法全書並みの厚さが完成してしまうので、それは後々にする。

 さて。気を取り直して本題に入ろう。



 俺らは朝の8時頃から最高の場所を陣取って準備万端整えていた。

 夏休みにやる事はたった一つ。青い海と白い砂浜で水着品評会である。

 夏の海は下準備が最も重要だ。人より先んじなければビーチはあっという間に満員御礼になる。油断して午後に行こうものなら座る場所さえ確保できないくらいだ。

 7時半に待ち合わせをしてチャリで30分かけて海岸まですっ飛ばし、360度見渡せる激熱スポットを陣取った。

 高鳴る鼓動と躍動する我が子を押さえているうち、ポツポツと人が増え始めてきた。色鮮やかな水着女子が続々と目の前を通り過ぎ、11時を回った頃には座る場所さえ確保出来ないほど賑わった。

 レジャーシートを敷いて日光浴する者。青く光った海で波と戯れる者。子連れで思い出作りしている者。ナンパ目当てで声をかけている者。それぞれが短い夏のひと時に精を出していた。

 俺ら3人は砂に埋まって別の意味で性を出していた。目の前をムチムチ、プリプリが通る度に審査する。


「おい三次、今の見たか?」

「え? どれだよ」

「あれだよ」


 友則は顎でクイッと指し、俺はその先を見た。


「おおー。すげぇーー巨乳!」


 思わず叫ぶほどの一品。


「ぜひ挟みたい」

「いや、揉みしだきたい」

「何だよあれ、もはや牛だな。ぜんぜん反応なし」


 克己は巨乳が苦手だった。巨乳よりちっぱいの方が萌えるというヤバめの性癖を持っている。


「三次。あれはどうだ?」

「ケツ、ブリンブリンじゃねぇか。堪らんねぇ~」

「あんなの単なるデブだろ」


 お前の好みはマニアック過ぎるんだよ、黙ってろ克己!


 それからしばらく水着品評会を堪能していた。昼近くになると太陽が俄然やる気を出して猛烈な勢いで海岸を照らしていく。

 俺らは朝早くから海岸の最もいい場所に穴を掘り、そこに両手だけ出して埋まっていた。既に3時間は余裕で埋まっているだろう。熱された土と密閉された空間でほとんどサウナ状態だった。

 ちなみに、なぜ穴に埋まっているかというと。油断するとあっという間にスカイツリーが完成してしまうから。埋まっていればバレない。という浅はかな考えだ。提案したのは友則という事で。

 午後になると本当に気温がヤバかった。だだっ広い海岸だけに遮るモノなど1つもない。パラソルなどというシャレた物を持っていない俺らに太陽は問答無用で総攻撃を仕掛けてくる。直射日光が容赦なく肌を痛めつけ、水分補給も間に合わないほど汗がしたたり落ちる。目眩もする。このまま干からびてミイラになりそうだ。


「うがぁー。もう無理!」

「なんだよ三次、根性ねぇな」

「お前ら、そのうち干からびるぞ」


 最初の脱落者として穴から這い出た俺は、体を起こして手元にあった水を一気飲みした。全身から吹き出した大量の汗と砂まみれの体が超絶気持ち悪い。


「ちょっと体洗って来るわ」


 そう言って海へ駆け出した。

 派手な水しぶきを上げて飛び込むと、熱された体が急速に冷やされ震えがくるほど気持ちがいい。寄せては返す波が薄汚い心を洗い流してくれるようだ。

 しばしの間、波に揺られて太陽を見ていた。


(そういやぁ、あの子は一体何者なんだろう)


 ふと、昨日の事が浮かんだ。

 本当は朝起きたら河原へ行きたかった。だが、俺らバカ3人の間には男同士の硬い約束事があり、裏切った場合「刑を執行する」という取り決めがある。

 以前、克己が約束を破った時は、河原の砂利で全裸ころがしの刑だった。

 そんなイカレた刑に処される訳にはいかない。昨日の事は極力忘れ、波に揺られて沸騰した頭と体を冷やした。


「そろそろ戻るか」


 海から上がって戻ろうとした時だった。急激に立ち上がったせいだろう。クラクラと軽いめまいを起こした。おぼつかなくなった俺は砂浜に足を取られ、そのまま前のめりになって倒れ込んだ。

 ちょうどその時、運の良い事にお姉さんが目の前を横切った。バランスを崩した俺は、通り過ぎるお姉さんのお尻にダイブしてしまった。しかも顔面から。


「キャアァァァーーー!」

「ご、ごめんなさい」

「ちょっと。何してるのよっ!」

「砂に足を取られてしまって……」

「ワザと?」

「ち、違います。偶然なんです」

「ホントに?」

「はい。本当です」

「うんもぉ~。いい加減にしてよ」

「すいません」

「偶然ならしょうがないけど、今度から気を付けてよねっ!」

「本当に申し訳ありませんでした」


 体を直角に曲げて謝った。いきなりの尻ダイブで動揺したお姉さんだったが、俺の誠意ある対応に納得したのだろう。多少怒り気味に、それでいてちょっと照れたように去って行った。

 そんな俺を驚きの表情で見ていた悪友2人。何だかすこぶるイヤな予感がする。未だフラフラする頭を左右に振りながら陣地へ戻った。


「おい三次、お前いつからそんな技編み出したんだ?」

「違うよ。偶然だよ偶然」

「嘘つけ! あのタイミング、完全に狙ったろ」


 友則がエロモード全開で問いかけてきた。隣で寝ている克己も同じく隠微な顔で俺を見ていた。

 こいつらがニヤけた表情をする時が一番危ない。妄想が妄想を呼び、良からぬ企みをしている可能性大である。


「クソ。こうしちゃいられん!」


 唐突に大声を上げた克己は、2番目の脱落者として砂から這い出した。


「俺もやってくる!」

「やってくるって、何をだよ」

「ダイブに決まってるぜ」

「お、おい。止めとけよ」

「お前だけオイシイ目に会うのは許せん!」


 忠告も聞かずに駆けだした。


 うわーーー。め、目眩がぁぁぁ。


 ワザとらしい叫び声をあげて目の前を歩く女性にダイブ……の予定だったが、タイミングが思いっきりズレて砂浜に頭から突っ込んでいた。


「ガハハハ。あいつバカじゃねぇの」

「ホント、いっつもタイミング外すよな」

「見ちゃいられんな」


 作戦が失敗に終わりションボリ戻って来た克己に薄気味悪い笑顔を浮かべる友則。こうなったら誰にも止められない。特にこの男は底辺の中のトップである。

 最終兵器が勢いよく砂を払って穴から出陣した。


「いいか、お前ら。俺が手本を見せてやる」

「よっ、真打登場!」

「俺の生き様ちゃんと見とけよ」

「待ってました。日本一!」


 掛け声に高揚した友則は、顔面エロで駆けだした。


 うわざぁぁーー。た、太陽がイジメるぅぅ!


 あからさまにワザとらしい叫び声を上げ、お姉さんに向かって倒れかかったと同時に胸を鷲掴みにした。そしてあろうことか両手を動かし始めた。遠くから見ても完全に揉んでいる。


「おい克己。あいつ本気で揉んでるぞ」

「バカの真骨頂だな」

「しかも下半身モッコリじゃねぇかよ」

「脳みそ底辺だからなぁ~」


 テントを張った変態中学生に胸を揉まれたお姉さんは、「きゃぁぁー-」という恐怖の悲鳴を上げた。その直後、近くにいた彼氏に猛烈ビンタを喰らっていた。

 友則、お前の生き様しかと見届けたぞ!


 もはやどうにもならないバカさ加減を遺憾なく発揮し、クタクタになるまで遊んで帰路に就いた。




 自宅付近に辿り着いた頃には、太陽が沈みかけて辺りは薄暗くなっていた。

 そろそろ腹も減ってきた。遊び疲れて体もダルい。早く帰って風呂へ入り、本日のお姉さんを堪能したい所だが……。

 どうしても昨日の事が忘れられず、あえて遠回りをして河原の土手をキョロキョロしながら自転車を走らせた。


(ここは地球ですか?)


 彼女の質問があまりにも意外だったため、遊んでいる時も頭から離れなかった。

 チラッと見ただけで記憶は曖昧だが、透き通った肌に黒髪ポニーテールが良く似合う子だった気がする。年齢的にはタメくらいで頭の良さそうな顔をしていた。

 ちょっとハーフっぽい雰囲気もあったので、もしかしたら転校生かもしれない。

 一刻も早く謎を解きたいと思ったが顔もうる覚えなうえ、こんなに暗くては探しようがなかった。


「明日の朝早く河原へ来てみるかぁ~」


 自宅へ戻った俺は、未だに残る柔らかいお尻の温もりを感じつつ、ベッドに入って爆睡した。





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