頼み事B
「ねぇ三次。今日ってヒマ?」
「にょえぇぇーーー」
ポータブルDVDの再生ボタンを押した瞬間、目の前にラムが現れた。慌てて停止させようと思ったら背中越しに覗き込んできた。
「なにそれ?」
「いや。大したモノじゃないよ」
「何か動いているよ」
「こ、これは映画だよ」
「映画?」
「物語というか、娯楽というか……」
「男の人と女の人が歩いているけど」
「れ、恋愛もののラブストーリーだよ」
「ふ~ん。変なの」
チージョ星には物語仕立ての娯楽がないため不思議に思うのも無理はない。小さい画面の中で人が動いている事自体が理解不能だろう。
「と、ところで何の用だ?」
隙を狙ってさりげなくDVDの電源を切った。
町の風景から始まったのは幸いである。いきなり室内から始まる恋愛モノだった場合……考えただけで身震いがする。
「今日ヒマ?」
「まあ、大してやる事はないけど」
「ちょっと付き合ってよ」
「どこへ?」
「いいから!」
腕を乱暴に掴まれて半ば強引に宇宙船へ連れ去られた。
この半強制的な誘い方は何なのだろう。普通は用件を的確に伝え、相手の判断を待って行動するのが筋だと思う。何の説明もなく、いきなり拉致られたのでは納得がいかない。
まるで、同級生のちっぱいポニテ女に強制収容された感がある。
「どこへ行くんだよ」
「うるさいわね。黙って付いて来なさいよ」
「……」
昨日といい、今日といい。俺は何かに祟られているのだろうか。
ミーーン、 ミーーン。
セミの鳴き声がした。
セミのオスは羽化後すぐに鳴ける訳ではなく、数日間小さな音しか出すことが出来ないのだという。自分の置かれている状況を把握できない俺は、体を震わせながら小さい声で泣いた。
そして辿りつた先は、またしても雑貨屋だった。
「ここよ」
「ここって……俺、中に入れないのだが?」
「大丈夫よ。ここは知り合いのお店だから」
ラムはそう言って壁に消えて行った。鼻くそを丸めながら待っていると窓が開いて手招きされた。
イソクサムーンのショップ売り場には入った事があるが、商店街のお店に入るのは初めてである。いつも同化という高い壁にぶち当たっているため、チージョ星のお店はほとんど知らない。
窓からコソ泥のように店内へ入ると、メガネが似合う小柄なショートカットお姉さんが笑顔で対応してくれた。
ラムは一目散にハンカチコーナーへ足を向けた。
「ねぇ。どれがいいか選んでよ」
「はぁ?」
「三次の好みのやつでいいよ」
「……何を?」
「ハンカチ」
「何故に故?」
「いいから!」
デジャブかと思うくらい同じシチュエーションである。
「何で俺がハンカチを選ぶわけ?」
「プレゼント用よ」
「誰に?」
「ナイショ」
「……」
よく分からんが、数十種類ある品物の中からタオル地で作られたブルーのハンカチを選んだ。
「へぇ~。三次ってブルーが好きなんだ」
「いや、まあ」
「てっきりピンクを選ぶかと思ってた」
「なぜ?」
「だってスケベだから」
「べっ……」
別にラムが悪い訳ではない。小池が悪い訳でもない。あえて言うなら俺の運が悪いだけだ。
「そう言えば、三次って妹さん居るよね」
「ま、まあ」
「彼女にも何かプレゼントしたら?」
「何で妹にプレゼントしなきゃなんないんだよ」
「普段から世話になってるでしょ」
「あんな奴の世話になった覚えは……」
確かに世話になっている気がする。彼女の貯金箱は俺の財布として利用されている。あまりにも頻繁な略奪行為に最近は設置場所を移動されて金策に困っていた。天井裏まで探したがマジで見つからなかった。
仕方がないので克己や友人たちと「月一オークション」を開催し、色んな物を売り捌いて急場を凌いでいる。
さすがに何度も開催しているとバレる。親父に告げ口され、頭の形が変わるほど叩かれた。最終的には「1年間お小遣いなし」という状況にまで追い込まれた。
よく考えれば、全て身から出たサビである。
「ほら。たまには兄としてプレゼントしなさいよ」
「……」
確かに、ここで優しい兄を演じてプレゼントの一つもすれば、略奪行為を許してもらえるかもしれない。
ラムの言葉を信じ、リボンコーナーでブルーを手に取った。
「妹さんって髪長かったっけ?」
「最近伸ばし始めたらしい」
「だったらピンクの方がいいと思うよ」
「なぜ?」
「何となく」
この店にサンドバックがあったら破壊するまで殴りたい気持ちを押さえ、リボンを購入した。
一言いいか?
付き合わせた理由は何だ。そして当たり前のような顔で奢って貰うその態度を何とかしろ。
ナンパ後に連れて行くぞ。マジックミラー付きトラックに!
俺は両ポケットに入っているリボンを同時に握りしめた。




