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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
最高のおもてなし
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頼み事A

「ねぇ三次。この後って暇?」


 金曜日の帰り際、クラス委員の小池に声を掛けられた。


「まあ、暇と言えば暇だけど」

「ちょっと付き合ってよ」

「どこへ?」

「いいから!」


 腕を乱暴に掴まれて半ば強引に連れ去られた。

 この半強制的な誘い方は何なのだろう。普通は用件を的確に伝え、相手の判断を待って行動するのが筋だと思う。何の説明もなく、いきなり拉致られたのでは納得がいかない。

 まるで、チージョ星から来たポニテのちっぱい女に強制収容された感がある。


「どこへ行くんだよ」

「うるさいわね。黙って付いて来なさいよ」

「……」


 彼女の性格上、これ以上の質問は無理だと思われる。


 彼女の本名は小池翔子。同学年でも1、2位を争う頭の良さで成績は常にトップクラスだった。

 俺とは幼稚園時代からの幼馴染。出会ってから中2の現在に至るまで同クラスで、ホクロの位置さえ把握出来るほど顔を合わせている。

 見た目はラムと同じ黒髪ポニテ。スタイルは決して天下を取るタイプではないが、細身のスラっとした体系で悪くはない。胸についてはお互いのため……という事で。

 制服も校則の見本と言われるくらい超マジメっ子だ。しかも頭脳明晰、容姿端麗のため校内ではマドンナ的存在として君臨している。

 ただし……天は二物を与えず。

 性格がサバサバしているためか、それとも生まれ持っての所業か。

 言動が思った以上にキツイ。本人的にはバカにしているつもりはないのだろうが、言い方が冷たいと感じる時がしばしばある。


 以前、クラスの男子が「どうやって勉強してるんだ?」と問いただした所、「教科書を読めば誰でも分かるでしょ」と冷ややかに言われた。

 別の奴が「お前って顔は可愛いんだけどなぁ~」と言った。それに対し「あんたは顔もダメだけどね」と一刀両断した。

 俺がテストで前代未聞の2点を叩き出した時は酷かった。


「日本語分かる?」

「当たり前だ。日本語くらい余裕だわっ!」

「あんたの頭の中、カチ割って見てみたいわ」

「何だったら……見せてやろうか?」

「フッ。見せてちょうだいよ」


 そこまで言われて黙っている俺ではない。不敵な笑いを浮かべ後ろから羽交い絞めにした。

 通常なら「キャー」だの「変態」だの言われる所だが、小池は冷静に2本指を出してきた。


「ねぇ三次、これ何本に見える?」

「2本に決まってるだろう」

「目は割としっかりしてるのね」


 そう言った途端、全力で目つぶしをしてきた。ガッツリ目玉をえぐられた俺は床を転げ回って悶絶した。


「まだまだ修行が足りないわね」


 小池は笑いながらその場を立ち去った……。


 さらに、一度でも自分の中で物事が決定してしまうとテコでも考えを曲げない。相手が何と言おうが「何か問題でも?」と端的に片付けられてしまう。

 口調があまりにも淡々としているため、誰かが「担々麺」というアダ名を付けた。しかしそんな世迷言に翻弄されるタイプではない。「幼稚園からやり直したら?」と小馬鹿にされ、アダ名を付けた奴は髪の毛をむしりながら悔しがっていた。

 要するに、頭も良くて容姿も綺麗で非の打ち所が無い様に見えるが、性格に若干の難あり物件である。

 これを世間ではツンデレと呼ぶらしい。ちなみに俺は心の中で「毒女」と呼んでいる。




「おい。そろそろ説明しろよ」


 無言のまま後ろをトボトボ付いて行くと、ショッピングモールに辿り着いた。


「ここよ」

「モールに何の用があるんだ?」

「ちょっと、ね」


 ショッピングモールは我が町で最も人が集まる場所だった。近くにはホームセンターもあり、食事処も充実している。土日になると人込みで窒息しそうになるくらい活気がある。この町に住む人のほとんどが訪れると言っても過言ではない。

 俺は商店街の方が好きなので足げく通う事はないが、何かの折には必ずここへ来て用を済ませている。


 小池が立ち止まった場所は雑貨屋だった。モールには何度も足を踏み入れているが、雑貨屋に入るのは初めてである。こじんまりした店にはアクセサリー類や女性用小物がひしめき合っていた。

 彼女は迷う事無くハンカチが並べられているコーナーへ向かった。


「なあ、いい加減に説明しろっての!」

「ねぇ。どれがいいか選んでよ」

「はぁ?」

「三次の好みのやつでいいよ」

「……何を?」

「ハンカチ」

「何故に故?」

「いいから!」


 マジでいい加減にしてくれ。この際、彼女が何を考えているのかはどうでもいい。意味不明の状況を詳しく説明して欲しいのだ。


「何で俺がハンカチを選ぶわけ?」

「プレゼント用よ」

「誰に?」

「ナイショ」

「……」


 女という生き物はよく分からん。誰かの為のプレゼント用なら初めからそう言えばいいと思う。相手の名前を告白する必要はないし、彼女が誰にプレゼントしようが俺には関係のない事案である。勿体ぶった感じで連れて来られて状況を把握出来ない苛立ちの方が100倍大きい。


「よく分かんないけど、これ」


 数十種類ある品物の中からガーゼで作られたピンクのハンカチを選んだ。


「へぇ~。三次って少女趣味なのね」

「ってか、男物か女物かも聞いていないのだが」

「この店に男物があると思う?」

「いや、まあ」

「店内を見て状況を把握しなさいよ」

「なっ……」


 何故、この場でダメ出しまでされなきゃならんのだ。ミステリートレイン並みの謎を抱えたまま付き合ってやっているのに。


「そう言えば、三次って彼女居るんでしょ」

「ま、まあ」

「彼女にも何かプレゼントしたら?」

「何かって?」

「そんなの知らないわよ。自分で決めなさいよ」

「……」


 頭が爆発しそうなくらいイライラしたが、ラムにプレゼントするのも悪くはないと思った。

 今までお世話になっていながら何の恩返しも出来てない気がする。気の利いた言葉もプレゼントもした事がない。一応、恋人という立場である以上、ちょっとした気遣いはさらに愛を深めるだろう。

 隣にリボンコーナーがあったので、適当にピンクのリボンを手に取った。


「ふーん。彼女って髪が長いんだ」

「ポ、ポニーテールか……な」

「可愛いの?」

「ま、まあ」

「だったらブルーの方がいいと思うよ」

「なぜ?」

「何となく」


 ムキ―っとなって、キーっとして暴れ出したくなった。

 この状況から見て奢ってくれるのかな。と思ったが「調子に乗るな。自分で買え」と怒られ、それぞれの物を自分で買って店を後にした。


「今日はありがとね」

「いや、まあ」

「また月曜日にね」


 小池は満足げな顔でその場を立ち去った。



 一言いいか? 何故。何のために。その目的は。

 俺はポケットの中のリボンを力強く握りしめた。





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