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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第一部 可愛い彼女は宇宙人
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最終日 別れの時

 早朝5時。既に気温は30度を越える勢いだった。


 宇宙船の停泊している場所は、いつも遊んでいる河原のさらに上流にあるらしい。川上へ行くほど森が深くなり、誰も足を踏み入れないエリアに突入する。人の手が入っていないため、木々が鬱蒼と生い茂っていて道すらない。少しでも油断をすると払い除けた枝がビーンと跳ね返って額を直撃する。


「いてぇな。くそぉ~!」


 生意気に向かってくる枝をなぎ倒しながら道なき道を進んだ。文句タラタラで森の奥まで歩みを進めていると、草陰からガサッガサッと何かが動く音がした。全身がビクッと反応し、冷たい汗が背筋を伝った。この辺にクマは生息してない。という事はヘビだろうか。

 俺は爬虫類系が苦手だ。ニョロニョロと動くさまもそうだが、あの細いスリット状の目を見ると2つの袋がギューッと縮みあがる。その辺に転がっていた木をひっつかみ、行き先を威嚇しながら進んだ。


「オラ、かかって来いや! 俺は天下無敵の宮本三次だ!」


 ガサッ、ガサッ。


「ヒィィィ」


 棒を投げ捨て、我が子をギュッと握りしめた時。


「ばぁ~」

「ひょえぇぇーー」


 ラムがケタケタ笑いながら顔を出した。


「アハハハ!」

「な、なんだラムかよ」

「ビックリした?」

「べ、別にどうって事ねぇよ」

「三次ってば可愛いね」

「うるせーよ」


 その笑い方からして、既に見つけていた可能性が高い。ビビってる俺を見てイタズラ心が芽生えたのだろう。なかなかの悪女ぶりである。

 可愛い顔をして性根の悪い女の後ろを付いて行くと、生い茂った木々が急に途切れて少し広めの空き地的な所に出た。


「へぇ~。こんな所あったんだ」

「知らなかった?」

「何度も来てるけど知らなかったな」

「ちょうどいい隠れ家でしょ」

「確かに」


 確かに隠れ家としては丁度いい。広くもなく狭くもなく。ここに小屋を建てたら本当に秘密基地になりそうな場所だった。

 ただ、目の前には木々に囲まれた広めの空間が広がっているだけで、目的の宇宙船らしき物体は見当たらなかった。


「ねぇ、ところで宇宙船は?」

「目の前」

「何もないけど?」

「私、何人でしょう」

「何人って、痴女星人だろ?」

「チージョ!」


 そう。同化である。ラム同様、宇宙船も同化出来るのだ。誰が来たって発見されないはずである。


「どうやって同化を解くの?」

「こうよ」


 ラムが指を上下に動かすと、パッと宇宙船が姿を現した。

 見た瞬間、何とも言えない歯がゆさを感じた。


「……これ宇宙船?」

「そうよ」

「恐竜のタマゴじゃなくて?」

「失礼な!」


 自慢げに宇宙船をポンポンと叩くラムには申し訳ないが、俺の想像していた宇宙船とは全く異なっていた。

 ベタなイメージだと円盤型。もしくはガンダムに出てくる木馬とか、宇宙戦艦的な代物だった。

 目の前にあるのは、どの角度から見ても巨大生物の卵にしか見えなかった。

 車ほどの大きさで、楕円形の丸っこい形をしていた。翼や尾翼はない。窓も付いていない。全面真っ白でツヤのあるツルツルボディー。割ったら中から美味しそうな黄身が出てきそうな……。


「ところでさ。扉もないようだけど、どうやって入るの?」

「こうよ!」


 そう言うと、ラムは宇宙船の中へ消えて行った。


「ちょっと待て。同化の能力がなきゃ入れないのかよ!」

「まあ、そういう事ね。ハハハハ」


 中から笑い声が聞こえた。

 こいつ……本気で性格悪いかもしれん。


「ウソよ!」


 船内から声が聞こえ、機体の一部が音もなくスッと開いた。


「本来はこんな扉はいらないんだけど、何かあった時のために付けてるの」

「何かあった時って?」

「急に能力が低下したり、誰かに乗っ取られた時の脱出用とか」

「そうなんだ」

「チージョ星人じゃないと開けられないわ」

「ふ~ん。凄い仕組みなんだね」

「遠慮なく入って」

「お邪魔しま……す?」


 戸惑いながら中へ入ると、これまた音を立てずに扉が閉まった。

 期待膨らむ船内は……意外や意外、女の子の部屋だった。

 花柄のシーツにハート模様の枕カバー。質素な勉強机にピンクの大型クッション。本棚に小難しそうな本が並べられていて、ハンガーには色とりどりの洋服が綺麗に吊られていた。これでぬいぐるみがあったら、ザ・女子の部屋であった。


「あのう、コックピットは?」

「コックピット? そんなのないわよ」

「じゃあ、操縦とかは?」

「操縦なんてしないわよ」


 ラム曰く、この宇宙船は意識と同化し、思う方向へ飛んで行ってくれる。自分の行きたい所へ自由自在だと。

 ただし、一度も行った事のない未知なる場所、バリアの張っている世界に関しては別だという。


「ラムってさ、地球に来た事ないんだよね?」

「写真や資料を見て意識を集中させれば可能だけど」

「けど?」

「集中が途切れると別な場所へ移動する事もあるのよね」

「それ、危なくない?」

「行きたい場所を強く願えばいいのよ」

「宇宙船にお願いするって事?」

「私は絶対にここへ行く!って決めればいいの」

「た、大変だね」

「要するに強い決断力ね」


 てっきり寝てれば着くものだと思ってた。初めての場所へ行くためには集中力が不可欠で、それと同時にブレない決断力が必要らしい。2時間もの間、集中力と強い意志を維持するって並大抵の精神力では難しい気がする。

 テスト期間中は勉強に集中して「絶対に握らない」と誓っても、我慢できずに力強く握りしめる俺には無理だと思われる。


「でも、一度訪れた場所だったら寝てても着くわ」

「じゃもう地球はお手のものだね」

「ハハハ、そうね」

「アハハハ!」


 2人で笑った。何か知らんが楽しかった。これで最後の別れなのに、また会える気がして嬉しかった。


「そうだ。これ、お土産」


 俺はリュックから花火セットを渡した。花火をあんなに喜んでくれたから、もしかして花火セットは喜ぶんじゃないかと思い、あの後夜店に買いに行った。


「ありがとう。昨日の花火、一生忘れないわ」

「これはおもちゃの花火だけど、意外と楽しいから友達と遊んで」

「うん!」

「……」

「……」


 しばらく微妙な空気が船内を包み沈黙が続いた。

 もう少し話をしたい。できれば傍にいたい。けれど、ラムにはラムの生活があり、俺には俺の暮らしがある。

 10万光年という想像もつかない距離を縮めることは不可能だ。いくら努力したとしても、そこに愛があったとしても……。


「じゃ、そろそろ帰るよ」

「うん」

「元気でな!」

「……」


 俺はラムに背中を向け、唇を噛みしめながら入口へ向かった。

 背中越しで見えないがラムも泣いているような気がする。でも振り返ることは許されない。振り返ったら最後、もう二度と離れたくなくなるだろう。

 人生、出会いと別れが基本。出会ったという事は別れの第一歩なのだ。これからも繰り返しながら生きていく。そうして成長していく。仮に永遠というものがあるならば、それは心の中に存在するのだろう。

 こぼれ落ちそうな涙を堪えて入口付近に立った。ドアは閉じられているため、地球人の俺では開けられない。「ラム、ドアを……」そう言いかけた時、ドア付近にボタンらしきモノを発見した。

 ラムにお願いするより自分の手で開けよう。未来とは、自ら切り開いて行くものである。俺は迷う事なく押した。


 フィーーン、フィーーン。


 船内にけたたましいサイレン音が鳴り響いた。何が起こったのか分からず後ろを振り返ると、ラムが驚いた表情で俺を見ていた。


「あのう、何これ?」

「もしかして、そこのボタン押した?」

「うん。ドアが開かなかったから」

「ダ、ダメよ。それ!」

「なんで?」

「それ、緊急用脱出ボタンなのぉぉー-!」


 なっ……んですとぉ!?




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