町田美憂からのお願い事
その日、俺はホームセンターにいた。
「リアリティーを追及するなら木材だろうな」
克己と友則がケンカをし、仲直りの印として奴を同人イベントに連れて行く約束をした。その際、コスプレをして参加するを条件に克己を納得させた。
完全に頭に来ていた克己だが、俺の狂ったアイデアを面白がって許可してくれた。
簡単に言うと「2人で奴おもちゃにして遊ぼう」計画である。
なるべくインパクトがあって、しかも会場内に爆笑が起こりそうな品を探し求めていた。
数ある木材の中から手頃な品を厳選していると。
「あれ、もしかしてゴキ三次で?」
会話をするのが面倒くさいと思わせる声がした。この呼び方から察するに……。
後ろを振り返ると町田美優が立っていた。
「奇遇の偶然すねぇ~」
「お、おう。久しぶり」
「何用の所存?」
「いや、まあ」
「隠れ蓑ですか。ゴキ三次とあろうお方が」
「……」
ココに慣れているので、この手のタイプは苦手ではない。ただ、会話を成立させるためには脳全体をフル稼働させる必要がある。日本語だけでも容量が一杯なのに謎解きの要素も加わるためCPUが熱暴走する。
「どのような塩梅でこちらへ?」
「……」
別に隠す必要もないので大まかな概要を説明し、近々レイヤーたちが集まるイベントはないかを聞いた。
「チャンス到来でございます」
「はい?」
「近々、我が町で開催する模様」
「それにはレイヤーも来るの?」
「体育館よりは小兵ですが、我が町では最大級です」
「そうか」
「狂ったレイヤーが多数参加しますぞ」
「マ、マジでか!」
この時点で妄想が唸りを上げて襲ってきた。セクシー刑事より過激な衣装だった場合、頭のクラッカーが弾けそうである。友則を笑えない自分がいた。
「ところでゴキ三次」
「……何?」
「ココ殿は元気かね」
「最近会ってないから知らないけど、元気だと思うよ」
「それではこれを彼女の手中に」
美憂はそう言って大学ノートと漫画を手渡してきた。
「何これ?」
「ストーリーメモと最新作にござい」
「ココに渡せばいいの?」
「さようの所業」
「……」
もう頼み事はうんざりなのだが……。
彼女はココが宇宙人だという事を知らない。美憂と会う前に「宇宙人だってバレちゃダメだぞ」と忠告した。俺の友達で外国のティージョ町から遊びに来ている、という設定にしていた。
まあ、美憂だったら宇宙人だろうが幽霊だろうが「心のベストマッチング」とか言って友達になりそうな気がするが。
「今回は力作の超大作でありますゆえ、自信にも満ち溢れている所存」
「分かった。そう伝えておくよ」
「有難き幸せ」
そう言うと、バレリーナのようにクルクル回転しながら立ち去った。
「……」
どういう帰り方をしても自由だが、BGMに合わせて踊りながら店内をウロウロするのは止めた方がいい。周りの人たちが狂気の目で見ているから。それが可能なのは5歳児以下だけだ。
美憂と別れ、友則生き恥計画の品を買い、家へ帰ってアイノデリモンクーを空へ振った。
ココへ ヒマだったら連絡をくれ by三次
そして寝た。
4日後。
「おはようござい!」
「ぐぇぇぇーーー」
ココのヒップアタックで強制的に叩き起こされた。
相も変わらず乱暴な起こし方である。
一瞬でお目めパッチリになった俺は、美憂から預かったノートと新作を手渡した。
「おおっ、これは新刊では」
「力作らしいよ」
「脳髄が駆け出すくらい素晴らしい出来栄えですねぇ」
「でも、日本語は読めないだろ」
「完璧ではありませぬが、少しは理解が働きますぅ」
「少しは読めるの?」
「はいな」
「……マジっすか」
前回会った際に語学を習ったらしい。美憂から「あいうえお表」を手渡され、漫画と表を見比べながら少しづつ覚えたんだとか。
俺よりも圧倒的に地球~チージョ間を往復する回数が少ない。俺なんか1千万光年を越えるほど惑星間を行ったり来たりしている。だが未だにチージョ語は読めないし理解出来ない。
「漢字は読めるのか?」
「まだそこまでのレベルには達していませんねぇ~」
「漢字をとばしたら意味分かんないだろう」
「そこは創造主の担い手で」
「……」
見た目的には「変わった子ちゃん」で、会話が成立しない「大変疲れる子ちゃん」だが、その実は真面目で頭が良いのかも知れない。
最初から覚える気ゼロの俺がとやかく言う権利はないが。
「ところでココ。今度の日曜ってヒマ?」
「日曜とは?」
「……休日の事」
「休日がどうしてくれたのでしょうか」
「今度の休みに同人イベントがあるらしいぞ」
「まことしやかかっ!」
「美憂も参加するって言ってたよ」
「美憂殿も?」
「ああ。そうみたいだ」
「参加希望は熱望なのですが……」
今度の休みに弁論大会決勝戦があるらしい。
夏休みの課題で「地球人とチージョ星人の違い」を書き記してクラスで発表した。すると、その内容があまりにも面白かったため、学校の代表としてチージョ星全国大会に出場が決まったんだとか。
「今度の休みに大会があるのでございます」
「そうかぁ~。残念だな」
「まさか学校代表に選ばれるとは想定外の所業でして」
「でも選ばれるだけ凄いじゃないか」
「妄想故の幻想かと」
「……」
言っている意味がこれっぽっちも分からないが、全国大会に出場出来るのは凄い事だと思う。俺が学校代表で選ばれる事など断じてありえない。万が一あったとしたら、かなり特殊な大会だろう。
全国選抜バカ選手権は友則にかっさらわれる。全日本エロエロ大会は克己がナンバー1の称号を得るだろう。
仮に俺が全国大会に選ばれるテーマは……。
変態中学生日本一決定戦か?
「頑張れよ。草葉の陰から応援するから」
「有難き幸せ」
「じゃあ、宇宙船まで送るよ」
「その前に隊長にお頼み申したい旨がありましてぇ」
「ん? なんだ」
「炭酸という名の飲み物を入手したい今日この頃ですぅ」
「なるほど。パパに持って行くのか」
「はいな」
地球で炭酸という衝撃的な飲料水を飲んだココは、パパにその旨を報告した。チージョ星にはない目新しい飲み物に食いついたココパパは、地球から持ってきてくれ。と彼女に懇願したらしい。
「何本くらい必要?」
「研究に使うので3~4本あれば成果が得られるかと」
「分かった。途中で買ってやるよ」
「隊長はいつでも良い男ですなぁ~」
「ま、まあ、それほどでも」
「何という高貴な出で立ち!」
「困った事があったら何でも言いな。俺が何とかしてやる」
頼まれればイヤとは言わない。褒められれば調子に乗る。宮本家に伝わる狂った血筋が今日も全開で顔を出していた。
ココはストーリーメモと新作漫画と数種類の炭酸飲料を抱えて帰って行った。




