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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
バカとオタクのコラボレーション
115/136

ケンカの原因はバカの極み

 月曜日。


 この2日間、ココに振り回されて疲れはピークである。頼み事をされたら断れない性格が仇となっている。

 ダヨ~ンとした体を引きずりながら学校へ向かった。


「おはようさん」


 扉を開けると、教室内が殺伐とした空気に包まれていた。

 何が起こったのか分からないが、ピリピリムードである事は間違いない。気まずい雰囲気が漂う中、席に座って勉強の準備を始めた。

 するとそこへ、クラスで最も頭が良くイケメンでモテモテの寒川という男がやって来た。


「おい三次。何とかしてくれよ」

「は? 何が?」

「このままじゃ落ち着いて授業が出来ないよ」

「だから何がだよ」


 意味の分からない忠告を受けた。それに便乗するようにクラス委員の小池も現れた。


「ちょっと三次。責任取ってよね」

「だ・か・ら。何がだよっ!」

「友達でしょ」

「……で?」

「バカを止めるのがバカの役目でしょ」

「て、てめぇー」

「あんたは頼りになる男だと思ってたんだけどね」

「お前らいい加減にしとけよ。内容が逐一分からんのじゃぁぁーー」


 そう叫ぶと、寒川と小池は例の奴らを指さした。


「あいつらがどうしたんだよ」

「実はな……」


 寒川の話によると。


 朝、学校へ来た克己が自分の机を見て仰天した。机からイスに至るまで全てにロリ系雑誌やら2次元系のヤバイ画像の切り抜きが貼られていた。そして中央に「裏切者は滅」と書かれた紙が置いてあった。

 犯人を即座に察知した克己は、友則がトイレへ行っている間にイスに画鋲を貼り付けた。

 知らずに座った友則は「ぶぎゃぁぁ」と叫び、奴のケツが画鋲だらけになった。


「コラ克己。テメェー!」

「……」


 克己は完全無視でダンマリを決め込んだ。その態度にイラっときたのだろう。近寄って机を蹴り上げた。それでも黙秘権を貫く姿勢に頭の回路がブチ切れた友則はドロップキックを炸裂させた。

 さすがの克己も我慢の限界である。教室を出て行ったかと思いきや、バケツを持って現れ大量の水をぶっかけた。


「何すんだ。この変態ロリ野郎がぁぁ」

「BBA専門の腐れポンチ」

「なんだとぉ~。もういっぺん言ってみろ」

「貴様は脳も腐りかけてるぜ」

「やんのか、テメェー!」

「やんねぇーよ。バカに構ってる暇はない!」

「せ、戦争勃発じゃぁぁぁーー」


 周りを巻き込んで壮絶な小競り合いが始まったらしい。

 消しゴムを投げつければシャーペンが飛んでくる。教科書を投げると鞄が飛んでくる。隣近所の奴らはたまったものではない。巻き込まれて文句を言ったら最後。集中的に狙われるであろう。

 そんな状況を目撃し、朝からクラス中が嫌~な雰囲気になったため寒川と小池は「授業の妨げになる」と思い、2人に忠告しに行った。

 しかし人の話を聞くような奴らじゃない。「うるせーよ」の一言で片付けられて取り付く島もなかった。

 クラス全員が「これを止められるのは三次しかいない」と、俺が来るのを待っていたらしい。


「頼むから何とかしてくれよ」

「何とかしろって言われても……」


「三次。いい加減にしなさいよ!」

「……」


 寒川や小池のみならず、クラス中がすがるような目で俺を見ていた。


「分かった。とりあえず1時間目が終わったら話を聞いてみる」


 そう言って2人を納得させてその場を収めた。


 再び面倒くさい頼み事である。頼まれたらイヤと言えない性格を変える以外に、この難を逃れる方法はなさそうだ。

 面倒くさいと思いながら奴らを見ると、克己は大量の張り紙に囲まれて憤慨していた。ブツクサ言いながらビリビリ剥がしていたが、ボンド的なモノでくっ付いているのか、なかなか剥がせずに「ムギィ~」としていた。

 もう一方を見ると、全身ズブ濡れで克己を睨んでいた。しかも顔や手が真っ黒に染まっていた。たぶん、バケツの中に墨汁を大量投入したと思われる。

 昔からこの手のケンカはだいたい友則が原因だ。奴が何かしらの頼み事をし、こちらが約束を果たせなかった時に起こる現象である。

 3人の中では温厚で滅多な事では怒らない克己が墨汁入り水を投下するのは、相当頭に来ていると推測する。


 授業中にも関わらず、空中に何かしらの飛行物体が飛び回り、微妙な小競り合いが続いていた。教師が注意しても収まる事はない。10分に1回のペースで「滅」と叫ぶバカがいて、その直後に丸められたゴミが大量に飛んで来る。周り近所の奴らにバシバシ当たっていたが、みな歯を食いしばって耐え忍んでいた。


(まずは克己からだな)


 クラス中の懇願視線を浴びながらファンキーな時間を過ごした。



 ようやく1時間目の授業が終わり、涙目の連中を背に克己を廊下へ呼び出した。


「おい克己。一体何があったんだ?」

「あの野郎。絶対に許さん!」

「いいから話してみろ」

「……」


 ここ最近、俺と克己が2人でギャハギャハ言いながら盛り上がっていた。友則が会話に入ろうとしても内容について行けず困惑していた。

 野生児の直感は鋭い。2人の楽し気な様子を不審に思った友則は、克己を捕まえて追及した。


「もしかして同人イベか?」

「そうなんだよ」

「……で?」


 洗いざらい白状させられた克己は、仕方なしにイベントへ連れて行った。だが、この間のトンボ公園で開催されたイベントは小規模だったためレイヤーはいなかった。

 そう。奴の目的はセクシー刑事だった。

 エロ根性満載で乗り込んだがセクシー刑事どころかコスプレもいない。地味な連中がモソモソ話をしながら作品を売買しているだけだった。


「約束が違うじゃねぇか」

「そんな約束してないぜ」

「セクシー刑事はどこだよ!」

「今日は来ないって言っただろう」

「貴様ぁ~。裏切ったな」

「イヤだったら帰れよ」

「欲求不満で帰れるかぁぁぁ」

「お前、完全にイカレてんな」


 頭のヒューズが弾け飛んだ友則は、


「フルチン刑事じゃぁぁーー」


 そう叫んで服を脱ぎ始めたらしい。

 慌てて駆けつけた警備員が取り押さえようとしたが、暴れ狂う友則を大人しくさせられなかった。ちょうどその時、警官が施設内の巡回に来ていた。以前、下着ドロで捕まった時に一悶着した例のBカップ警官である。

 憧れの彼女の顔を見た途端、我に返った友則は土下座をして謝った。本来は迷惑条例違反で逮捕案件だが、誰にも被害が無かった事を考慮して2人共にイベントを強制退去させられただけで済んだ。

 たぶん、俺が昼寝をしていた時の惨劇であろう。


「もうあそこのイベには行けなくなったよ」

「……エロが脳に来たか」

「俺の楽しみを奪いやがって!」

「……」


 友則の言動は分からなくもない。楽しみにしていた分のショックが大きかったのだろう。前日は欲汁が大量放出されて眠れなかったと思う。

 それに奴は意外にも「焼きもちやき」である。

 自分のいない所で2人が楽しい事をしている。その状況に心が狂おしい交響曲を奏でて海馬が砕け散ったのだろう。さらに、好みの女性警官に優しくたしなめられた事で千切れた回路が復活したと思われる。

 元々、仲間を一番に考える奴である。頼まれたら絶対に断らない性格で、自分を犠牲にしてでも助けてくれる熱い漢だ。愛読書である男塾から多大なる影響を受けていて、そんな奴が意味不明の言動で仲間を困らせたりはしない。


「今回は俺に任せておけよ」

「いくらお前の頼みでも許さないぜ」

「まあまあ。そう熱くなんな」

「……で、どうすんのよ」

「ムヒヒヒッ」

「……」


 俺の隠微な笑いに何かを悟ったようだ。怒りが少し収まった克己を解放して10分の休憩時間が終わった。

 席に座って友則をチラッと見ると、理科室から三角フラスコを持ち出して何やら怪しげな液体を製造していた。


 ようやく辛い2時間目が終わった。俺はその足で友則の所へ行った。


「お前、克己とケンカしたんだって?」

「何だよ。この裏切者が」

「は? 俺がいつ裏切ったんだよ」

「奴と2人で楽しい事をしたらしいじゃねぇか」

「たまたまだよ」

「俺をのけ者にしやがって」


 案の定、焼きもちであった。


「そう吠えんなって。一旦落ち着けや」

「ウッセーんだよ。あっち行けや。この鬼畜やりちんがっ!」

「いいのか? 本当にあっちへ行って」


 そう言いながら携帯の画像を見せた。


「ガフッ。こ、これは何事だ!」

「どうだ。目が覚めたか」

「も、もしかしてセクシー刑事?」

「ピンポーン。大当たり」

「これが夢にまで見た……」

「生で見たいか?」

「見たい。是非見たい!」

「生尻感が半端ないぞぉ~」

「マ、マジか!」

「布の面積が極小だぞぉぉ~」

「うがぁぁ」

「不埒な部分が見え隠れだおぉぉぉ~」

「みればちょもでんがぁぁ」


 頭のネジが数十本単位で外れ、日本語すら忘れてしまったようだ。


「今度連れて行ってやるよ」

「マジか!」

「その代わり、お前もコスプレしろ」

「何でだよ」

「レイヤーと一緒にやれば間近で鑑賞出来んだぞ?」

「……コスプレって、何に変装するんだよ」

「お前が大好きなキャラだよ」

「男塾か!」

「お前の漢を見せてやれ」


 単純バカである。この時点で既にやる気がみなぎって瞳が炎になっていた。


「とりあえず克己に謝って来い」

「い、いや。それは……」

「奴がいなきゃエントリーすら出来んかもしれんぞ」

「でもぉ……」

「生尻を見たくないのか?」

「み、見たいが……」

「御託を並べるな。お前は漢だろ。オラ、返事はどうした!」

「は、はい!」


 威勢よく返事をすると、克己の所へ走って行った。


「克己君。ごめんなさいぃーー」


 教室内に響き渡る声で頭を下げた。

 その姿に安堵の表情で一息ついたクラスメイトだった。


 仲直りはこれで良しとして。それより友則、このフラスコの中身は何だ。

 アンモニア臭がするんだが?





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