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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
バカとオタクのコラボレーション
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トンボ公園でコラボ

 今日は日曜日である。

 色んな意味で疲れ切っていたため、家でゆっくり寝たかった。

 だが、朝っぱらからココが満面の笑みでギロチンドロップを仕掛けてくるのでオチオチ休息も出来ない。


「早く行きましょうぉ」

「まだ7時半だぞ」

「もう待ちきれる様子がございませんです」

「イベントは10時だから、いま行っても何もやってないぞ」

「こ、心が雄たけびを上げているのですぅ~」


 遠足へ行く前の小学生のように騒いでいた。

 人生初めてのイベントで心待ちにしていた漫画とのご対面である。嬉しさ満点で俺の顔を覗き込んでいる姿を見ると、「まあ、そうなるわな」と思う。

 寝ぼけ眼でノソノソ着替えていたら、早く早くとせがんでパジャマのズボンを下ろしにかかるココ。「お、落ち着け」という言葉を無視して強引に服を脱がされ全裸になる俺。薄ピンクの乳首を隠し、玉袋の横にあるホクロを興味深々で凝視されながら服を着た。


 時間的にはかなり早かった。このままだと8時半には到着してしまう。向こうへ着いた所で店はオープン前だし、施設は準備段階で中には入れない。公園で日向ぼっこをしているじーさんと一緒にハトにエサをやるくらいのものだ。

 しかしココは、俺の手を引っ張ってスキップしている。さらに久しぶりの地球とあってか、いつも以上にテンション爆上がりだった。

 町をブラブラしているだけで、「あれは何事ぞ」「この微妙な存在は」などと質問総攻撃を仕掛けてくる。

 特に自販機は懐かしさを感じたのだろう。ボタンを押しまくっていた。仕方がないので時間潰しにコーラを奢ってやった。


「喉が焼けつく痛さでございますね」

「初めてか?」

「これは何仕様なのでしょうか?」

「炭酸という飲み物だよ」

「単三?」

「それは電池」

「レシピの伝授などお聞かせ願いたい!」


 怒涛の攻めに遭った。

 チージョ星に炭酸飲料はないから不思議に思うのも仕方がない。パパの為に新商品の開発を考えているのだろうから質問攻めも許容する。

 ただ、気に入ったからといって3本も飲まない方がいい。トイレは公園に到着するまでないんだぞ。



 繋いだ手をブンブン振り回し、嬉しさ全開で飛び跳ねているココを親目線で「可愛いな」と思いつつ、コーラを飲みながらトンボ公園に辿り着いた。


 この公園、昔は何もないだだっ広い野原だった。小川が流れる長閑な風景で、無数のトンボが自由自在に飛び回っていた。

 幼稚園の頃に連れて来てもらい、トンボを追いかけまわした記憶がある。

 夢中で追いかけていたら足を滑らせて小川に落ち、助けに来た親父も足を滑らせて2人共にズブ濡れになった。それを見た母親が「親子だね」と下世話に笑い、ベビーカーの妹がスヤスヤ眠っていた。そんな思い出深い場所だった。

 それがいつの間にか開発が進められ、ビルや商店、住宅が密集する情緒もへったくれもない場所になってしまった。

 昔の懐かしくも長閑な景色を忘れないようにと「トンボ公園」と名付けられた。

 誰が決めたか知らないが、名前だけノスタルジックにして自然を破壊する行為を正当化しているようにしか思えない。利権の匂いがするのは俺だけか?


 話が逸れた。ごめん。


 公園のすぐ隣に市が運営する公共施設がある。名前は「コミュニティーセンター・赤とんぼ」で、ここの2階で同人イベントが行われるらしい。

 この施設は我が町と隣町の境にあり、俺らのテリトリーからは外れている。どちらかというと隣町が交通の便もよく出やすいため、町田美優の方が地元感覚である。そのため、この辺の商業施設はほとんど知らない。余程の用がない限りトンボ公園に来る事はない。 コミュニティーセンターにも入った事がない。


「た、隊長ぉ~」

「なんだ」

「トイレはいずこへ?」

「コーラ飲みすぎだぞ」

「もう限界値に達している模様」

「もう少しだ。我慢しろ」

「せ、聖水がぁぁ」

「せ……」


 お前は曲がりなりにもお嬢様なんだから、言葉遣いを慎みたまえ!


 ハの字でモゾモゾしているココをトイレに導き、ついでに俺もサッパリして2階の会場へ入った。

 体育館のような広々とした大型イベントとは違い、規模も小さく施設内もこぢんまりしていた。それでも訪れる人は結構いて割と賑わっていた。期待していたコスプレはいなかった。

 俺はココを引きつれてイベントブースを回った。


「あっ、ゴキブリマン!」


 Myブースから笑顔で手を振る町田美優が見えた。


「お、おう。久しぶり」

「お久です」

「のっけから悪いんだけどさ、ゴキブリマンは止めてくんない?」

「じゃあ、何とお呼びすれば」

「俺は宮本三次って言うんだ」

「三次さんですね。承知」


 初対面で大量のゴキブリ駆除グッズを見せつけられたら、名前よりそっちが印象に残るであろう。ゴキブリマンも致し方無いと思う。


「この子が電話で話した君のファン」


 そう言ってココを紹介した。


「お気に召しあそばして何よりです」

「わ、吾輩はココという若輩者でございますぅ」

「私は町田美優という不埒者です」

「美憂さんの作品は心地よく、憧れの胸中でして」

「なんのなんの。これくらいは昼飯と夕飯の中間です」

「新たなる作品をご尊顔できれば震える想い」

「腕に覚えアリ。好き好きに検閲を」

「至福!」

「こちらこそ悦!」


 会話が成立している所が凄い。波長が一緒だとスムーズなのか?


 ココはテーブルに並べられた本を手に取りページをめくった。


「おいココ。読めるのか?」

「読めませぬ」

「それじゃあ、意味分かんないだろ」

「意味は分からずとも誠意があれば」

「……」


 俺にはダメだ。言葉は通じないし理解出来ん!


 しばらく無言が続いた。

 ココは漫画に夢中で、美憂は何やらイラストみたいな物を描いている。レイヤーがいないイベントは、俺にとって退屈以外の何ものでもない。

 暇つぶしがてら全体をウロウロした。各ブースを回ってみたものの、元々興味がないのであっという間に飽きてしまう。喉が渇いたが、先ほどコーラを3本も買って所持金が3円しかなく飲み物も買えない。妹の貯金箱からもう少し拝借すれば良かったと後悔しつつ、給水機で喉を潤して近くに設置してあるベンチで横になった。





「ねぇ隊長。そろそろご帰還いたしましょう」

「うがっ?」


 揺り起こされて目が覚めた。


「終わったのか?」

「はいな」

「どうだった?」

「人類史上初ですね。この快感わぁぁ~」

「そうか。それは良かった」


 予想以上に嬉しかったようである。

 俺は体を起こし、再び美憂のブースへ行った。


「お疲れ様」

「どーも。乙です」

「どうだったの?」

「人生初ですね。こんな類まれなる時間を過ごしたのは」

「そうか。それは良かった」

「ココちゃんはすでに親友の域に入ってますぞ」

「そうか。それは良かった」

「2人のコラボ作品もスケールが偉大です」

「そうか。それは良か……コラボ?」


 俺がベンチで昼寝している間、ココは自分の作品を彼女に見せた。内容は丸パクリだったが、絵の上手さに驚いた美憂は「ぜひコラボを!」とノリノリだった。

 ココとしては、絵の描き方からストーリー制作まで覚えたいので都合がいい。勉強がてらコツや作り方を教えてもらい、その場で一緒に描いてみた。5ページくらいのショートストーリーだったが、互いに満足いく仕上がりになったという。


「まあ、楽しければそれが一番だ」

「有意義で貴重です」

「こういうイベントっていつもやってるの?」

「時と場合です。基本は月一ですね」

「誰でも参加出来るの?」

「全ての者が権利を主張出来ます」

「そうか」

「ゴキ三次も参加される手合いで?」

「だ、誰がゴキ三次だ!」


 俺には楽しみ方がよく分からん。まあ、本人たちが満足ならそれで良かろう。


「それでは美憂殿。吾輩はここで失礼つかまつる」

「この辺りを流浪する時があれば、またいつでも」

「これから漫画道を邁進する所存です」

「主の活躍は今後ぞ」

「心得て候」


 この感じからすると、美憂がココに武士道的な何かを教えたような気がする。それはそれで構わないが、お前は影響されやすいんだからほどほどにしておけ。


 美憂から大量の本を貰ったココは、ホクホク顔で施設を出た。

 外に出ると空は茜色だった。


「宇宙船まで送って行くよ」

「幸せの極意」

「何かいい作品は書けそうか?」

「それはまだ脳裏の端々で」

「まあ、始めたばかりだから徐々にやりな」

「身に染みるお言葉、震えの境地ですぞ」

「……」


 なあココ。以前から不思議なしゃべり方をしていたが、ここ最近は酷いぞ。特に美憂に会ってからは、脳をフル回転させなければ翻訳不可能なくらい難解なのだが。言葉の乱れは心の乱れに繋がるんだぞ。

 この分だとチージョ星へ帰ったら生活に支障を来すかも知れんな。


 夕焼け空を眺めつつ、ココは自宅へ帰って行った。


 施設を出た時、遥か遠くで男2人が言い争いをしていた。

 何やら本気モードでケンカをしていたので、あまり関わらないように無視して立ち去った。




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