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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
バカとオタクのコラボレーション
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ココの新たなるチャレンジ

 ドスーン。


 心地の良い安らかな眠りの最中、何者かのエルボードロップが俺の胸に炸裂した。


「ぐげぇぇ」

「おはようございますですぅ」

「し、心臓が止まったぁぁぁーー」

「それは光明」

「て、天変地異か!」

「お目覚めですかな?」

「……ココ?」

「はいな」


 心肺停止のまま飛び起きると、満面の笑みで覗き込んでいた。


「どうしたんだよ急に」

「隊長に見てもらいたい逸品がありましてぇ~」

「見てもらいたい物?」

「そうですぅ」


 朝っぱらから強烈なエルボーを叩きつけられ、目が覚めた途端に訳の分からないお願い事をされた。

 チージョ星人はいつも唐突にやって来る。前もって連絡してくれたら有難いのだが通信手段がない。こちらの都合などお構いなく一方的に襲撃される。10万光年も離れているので致し方ない事。ならば、もう少し優しく起こしてくれてもいいと思う。いきなり現れてのエルボーは、心肺停止に直結する。


「ちょっと待て。とりあえず着替えるから」

「心よりお待ち申し上げる所存ですぅ」


 眠い目を擦り、ベッドから這い出して洋服を……。


「なあ、何でこっちをジーっと見てるの?」

「隊長の裸体は見慣れておりますです」

「いや、そうじゃなくて……」

「恥ずかしがるには及びません。ありのままですぅ~」


 生まれたままの姿を凝視され、体の奥から湧き立つ恍惚感と羞恥心が快楽に変わる高揚感を押さえながら着替えた。



「で、見てもらいたいモノとは?」

「これなんですがぁ」


 1冊の本を手渡された。ページをめくって中身を確認すると漫画だった。

 やっぱりそう来ると思っていた。

 前回、将来の夢と語る防衛軍への道。そのマストアイテムであるウォーターガンを放りっぱなしで漫画を持って飛び去った。この時点で防衛軍への道は諦めたと推測する。そしてたぶん、これから漫画道をひた走る。と、豪語するであろう。


「隊長ぉ。閲覧くださいぃぃ」

「それは構わないけど、防衛軍はどうしたんだ?」

「これからは漫画道を進みたく存じますぅ」

「……」


 手渡された漫画に目を通した。

 チージョ語で読めなかった……。


「チージョ語で読めないんですけど」

「あっ、気が付きませんでしたです」

「日本語に翻訳出来る?」

「それは出来ませぬ」

「うーん」


 以前、ラムに「いい加減に言葉を覚えろ!」と説教された事がある。

 確かに言葉の意味を理解したら楽しいだろう。色んな人とコミュニケーションが取れれば、新たな考えや価値観が生まれて人生が深くなると思う。

 だが、勉強しようにも基礎がまるで分からないのだ。

 たぶんチージョ星にも「あいうえお」はあると思うが、そもそもチージョ語の「あ」を日本語に訳せる人がいない。

 仮に一生懸命勉強したとして、俺の頭で「あ」~「ん」まで50音を覚えるのに何年かかるか。さらに単語の意味を理解しなきゃいけないのだから、下手をしたら100年以上かかるかもしれない。日本語さえままならないというのに。


「お前はどうやって日本語の漫画を読んだんだ?」

「読んでませんです」

「はい?」

「絵を見て想像しただけですぅ~」

「……ある意味、スゲェーな」


 漫画家や作家は想像力が必須だと思う。0から作り上げるのは並大抵の大変さではない。出来ない者にとっては物語を作れる事自体が凄い。そういった意味ではココに才能はありそうだ。

 ただ、想像力なら俺だって負けてはいない。例の底辺2人と共にアダルト映画館の前で「もし自分が監督だったら」というテーマで語り合っている。

 真っ白で無機質な宇宙船で頭がぶっ壊れないよう、瞑想という名の妄想で常に右脳を鍛えている。

 ココに出来て宇宙を駆け巡る三次様に出来ない事などない。

 俺は気合を入れて絵と文字を見つめた。




 ココは剣を取った。


 相手は宇宙のならず者アタマク・サイダー。


「お主、吾輩の剣に敵うとでも妄想しているのか」

「貴様なんぞチョロくさいわ」

「命を粗末にするでなかれ!」

「その高慢ちきな鼻をへし折ってくれるわ」


 交わった剣が火花を散らした。

 腕前は互角。互いに一歩も譲らず耳をつんざく金属音がこだまする。


「なかなかやるな、そちも」

「もし負けたら好き放題にするが良い」

「そうか。その言葉は捏造ではあるまいな」

「戦士に二言はない!」

「それではちょっとだけ本気を見せるべし!」


 ココの剣が怪しく光り、そのままアタマク・サイダーの剣を真っ二つにした。


「シャンプーとリンス。相性は抜群なのである」

「く、くそぉ。情けは無用だ。やれ!」

「これから主はリンスインシャンプーだ。期待しているぞえ」


 ココは剣を鞘へ戻すと、高笑いしながらその場を去った。



 たぶん、こんな感じだと推測する。


 内容そのものは町田美優と瓜二つで完全な丸パクリであった。ただ、絵はすこぶる上手い。漫画を見た事がないにも関わらず、動きが伸びやかで主人公が生きているようだった。

 美憂の絵を模写したとしても圧巻の上手さである。


「ど、どのような塩梅でしょうか」

「内容はパクリだけど絵は上手いな」

「ありがとうです。一昔前に画家を目的としていたもので」

「が、画家!?」

「お教室に通っていたのですぅ」


 絵画教室に通っていたのなら上手さも納得いく。漫画と写実の違いはあれど基礎は出来ているのだろう。

 俺は読む専門で描いたり作ったりというのは苦手だ。頭の中の想像を自由に表現出来る人を羨ましく思う。もちろん専門家でもないので他人の作品を評価するなどおこがましい。それを省いたとしても文句の付けようがないくらい上手い。


「ストーリーがオリジナルなら完璧だな」

「お褒めの言葉、光栄至極に存じますぅ」

「せっかくだからオリジナルストーリーを考えたら?」

「それがですねぇ~」


 ココは一瞬躊躇った。


 チージョ星には漫画や小説といったストーリー仕立ての娯楽が無い。TVも映画も存在しない。事実の基づいた歴史書や文献のみのため、物語とは何ぞや。という事になっている。

 生まれて初めての漫画に心を奪われたココは、「自分も描いてみたい」そんな欲求にかられて制作してみた。しかし、起承転結も知らなければストーリー進行さえ見出せない。どういう展開にして良いのか途方に暮れた。そこで、美憂の作品を真似してみた。

 出来上がった漫画を見た時、体中の貪欲汁が溢れまくり得も言われぬ快感が全身を包み込んだという。


「この解放感はたまりませぬぞ」

「そ、そうか」

「もっと勤勉すれば、更なる泉へ辿りつけるかと」

「うーん」


 漫画なら俺もいくつか持っている。内容はガツガツの男系で少女がトキメクようなストーリーは皆無だ。妹の部屋にもあるが、彼女はまだ小5のおぼこなため年齢層が若干下の子供っぽい雑誌しかない。最近はファッション雑誌なるモノに興味を示し、色気づいたエロババアになっている。


「隊長なら欲求不満を消去出来るかと思ったのですがぁ」

「……」


 俺を頼って10万光年先までやって来た。瞬間移動が出来る者にとって地球までの2時間弱は想像を絶する大変さである。それでも尚、こうしてやって来たのだから漫画に懸ける情熱が溢れているのだろう。

 そんな彼女の落胆する顔を見ていると鼻腔がチリチリする。

 エロ系なら克己に連絡すれば一発である。奴に「面白いのをピックアップしてくれ」とお願いしたら、「自慢の一品」と豪語して数百冊単位で運び込んで来る。しかし内容がヤバ系のため、ココに見せたら「メスロリティンカー!?」と恐れ戦きチージョ星へ飛んで帰るだろう。幼気な少女にそれは刺激が強すぎる。

 使わなさ過ぎて蜘蛛の巣を張った左脳をフル回転させた。


「ん!?」


 その時、空っぽだった脳室が脊髄液で満たされた。


「ココ。ちょっと待ってろ」


 俺はそう言って名刺を手に携帯を取った。






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