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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第四部 素晴らしき親友ども
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危険な甲賀者

 朝、学校へ行ったら全員に笑われた。


「お前、その顔どうしたんだ?」

「は? 顔って?」

「ピエロみたいだぞ」

「え?」


 サッパリ忘れていた。

 日本は現在、秋の気配が漂う季節。太陽は緩く淡い光を放ち始め、町全体の木々が色付き始める今日この頃である。

 俺はチージョ星の太陽熱でガンガンに肌を焼き、真夏のプール終わりみたいな顔色をしていた。しかも、克己に貰ったヘンテコなサングラスをしていたため、その部分だけ日に焼けず、浅黒い顔に四角と三角の白肌が絶妙なコントラストで映えていた。


「なんだぁ~。今度は大道芸人を目指してるのか」


 質の悪い男にしっぽりと肩を抱かれた。


「例の女の趣味か?」

「うっせーんだよ」

「女が出来ると男って変わっちまうからなぁ~」

「変わってこの顔じゃ変態だろうがっ!」

「お前は年中変態だろう」

「じゃまかしいわ!」


 友則に変態と言われるほど悔しいものはない。


「ところで。昨日は何してたんだ?」

「昨日?」


 昨日はチージョ星に居て、パパと手を繋ぎ、ココに腰骨を折られて……。

 これまたすっかり忘れていた。時空の歪みである。チージョ星に飛んで4~5日は経っていた。しかし地球に戻れば時間は巻き戻っている。往復すればするほど時間的な感覚はズレて今が何時なのか分からなくなる。

 地球時間で昨日といえば、たぶん日曜日だと思われる。


「朝から晩までヤリまくりか?」

「お前じゃねぇんだ。人を発情期呼ばわりするな」

「じゃあ、何をしてたんだ?」

「昨日は克己と……」


 そこまで言いかけると、後ろから克己が俺の口を塞いだ。


「まあ、いいじゃないか。何をしようが三次の自由だろ」

「なんだ克己。お前は鬼畜やりちんの味方か?」

「何言ってんだ。お前なんて1人で奇声上げてるだろうが」

「だ、誰が奇声上げてるんだよ!」

「BBA専門雑誌で悶絶してるんだろ?」

「うっせー。このロリ野郎が!」


 克己の予想はどうやら当たっているらしい。確信をズバッと突かれた友則は、チッと舌打ちをして席へ戻った。


「おい三次。ちょっと来い」

「なんだよ」

「いいから!」


 克己に腕を引っ張られ、廊下へ連れ出された。


「一体どうしたんだよ」


 そう問いかけると、意外にも真剣な表情で話し始めた。


 克己にとって同人イベントは人生の一部だ。毎回楽しみにしている特別な時間である。会場で仲間と趣味を共有したり、新たな情報を収集したりと、生きていく過程において重要な位置を占めている。

 仮にこのイベントが無くなった場合、克己は人生の目標を見失い、自宅から一歩も外へ出なくなるだろう。


「友則にはナイショで頼む」

「なぜだ?」

「お前も見たんだから状況は分かるだろ」

「……セクシー刑事か」

「予想付くだろ?」

「……最悪だな」


 俺らじゃなくても予想は付く。セクシー刑事を見た友則は、脳波が乱れ、己を見失う可能性が高い。高いというか、100%の確立で何かしらの行動を起こす。


『中学生が同人イベントで狂気の行動』


 警察が乱入し、カメラ小僧が証拠写真を押さえ、学校に連絡が回る。ニュースが面白おかしく騒ぎ立ててイベントは安全確保の観点から中止となるだろう。

 克己としては絶対に避けたい案件である。


「あいつの事だから露出は決定事項だな」

「それどころか、警察沙汰だぞ」

「……確かに」

「頼む。黙っていてくれ」

「分かった」


 親友に頼まれれば黙って従うのが漢。仲間の楽しみを守ってやるのも漢。

 俺は何食わぬ顔で教室へ戻った。




 しばらくつまらない授業が続いていた。

 ちなみに、俺の席は最後列の左端で校庭が一望できる位置だ。ここで毎日空を眺めて授業を受けている。克己は最前列の左端。友則は最後列の右端だった。

 3人を少しでも近づけると、授業の妨げになる恐れがあるため、クラス全員で決めた定位置である。何度か席替えをした事があるが、俺らはフィックスのため「好きな子の隣」という夢は叶わない。

 まあ、クラスに好きな子がいる訳でもなく、今更告白しても「バカ菌がうつる」と言われ相手にしてくれる奴などいない。

 地球とチージョ星の落差に辟易しながら、青く澄み渡った空に遥か遠い故郷を重ね合わせていた。


 意味不明の言語が脳下垂体を刺激し、女性器を連呼したくなった頃。


「おい三次。なにボーっとしてるんだ!」


 久しぶりに忠告を受けた。

 俺、友則、克己は教師からもサジを投げられているため、授業中に指摘される事は滅多にない。余程の事が無い限り完全スルーされている。

 しかし今日に限って何故?


「これを和訳してみろ」


 黒板には what do you want to be in the future. と書かれていた。


 俺は生粋の日本人で他国の言葉を覚えても何のメリットもない。そういうポリシーで生きているため、黒板の文字は1ミリたりとも読めない。

 これからはグローバル社会などとふざけた事を言う輩がいるが、世界規模を主軸にしている時点で小者の戯言である。

 俺は宇宙を駆け巡る英雄。チージョ星と地球を結ぶ懸け橋。文字は読めずとも直観力は優れている。

 先生がわざわざ俺を指名するという事は、何かしらの意図があるに違いない。俺を出汁にして笑いを取るか。もしくは小馬鹿にして長年培った地位と名誉を失墜させるか。どちらにしろ何かある!


 俺は黒板の謎めいた文字をジーっと見つめた。


「あなたは将来何になりたいですか……ですか?」


 その一言でクラス中が「おおっ!」と沸き、教師は驚いた様子で俺を凝視した。

 何だか知らんが当たったらしい。


「お前、凄いな」

「ま、まあそれほどでも」

「いつ勉強したんだ?」

「俺だってやる時はやりますよ」


 デタラメでも当たると気持ちがいいものである。調子に乗った俺は鼻息をフガフガさせ、「余裕っスよ」とのたまった。


「じゃあ聞くが、お前は将来何になりたいんだ?」

「え?」


 唐突な質問に戸惑った。

 将来など考えた事もない。毎日を楽しく過ごせればそれが一番と豪語するバカの見本みたいな生き方をしている。だからこそ、あえて教師は俺に振ったのだろう。

 しかし俺だって何も考えていない訳じゃない。

 チージョ星で結婚、宮本貿易商事、惑星イップターサイなど、色んな将来を視野に入れている。ただ、それを口にすると保健室経由で鉄格子の病院へ送還される。


「ほらどうした。お前は何になりたいんだ?」

「……セ、セクシー刑事」


 クラス中が大爆笑になり、教師は「やっぱりな」という顔をした。

 克己は驚いた表情で振り向き、友則が「ん?」という疑問符を抱いていた……。


 克己、すまん! 何も思い浮かばなかったんだよぉぉーー。






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