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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第四部 素晴らしき親友ども
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ココ13の新たなる変貌

 パパは研究室でチージョ星初のチンカースバロホイホイを制作していた。

 ママは「料理上手」と褒められ、ご機嫌でナベを焦がしてした。

 未だヘソを曲げているラムは「図書館へ行って来る」といい、スカートをヒラヒラさせて縞パン丸出しで飛んで行った。

 何もやることのない俺は、庭で二度目の夏を満喫していた。


 地球では風が肌を刺激する季節になり、空に浮かぶ雲は高くウロコ状に流れて行く。河原の水は少しづつ冷たさを増してきた。

 ここは万年常夏のチージョ星。3つの太陽が3方向から庭を照らしている。そのせいで影が出来にくい。木の根元に横になったが、頭の上に10センチ程度の影が出来るだけで周りは目が痛くなるくらい眩しく輝いている。

 日本の高温多湿、ゴキブリとナメクジが競って生存競争するような気持ちの悪い気候と違う。そよそよと流れてくる風は軽快に涼しく爽やかだ。季節は夏だが吹く風は春爛漫。まさに人類の楽園である。

 俺は克己から貰った右目が四角、左目が三角のサングラスをかけ、青く澄み渡った空を眺めた。

 木々には小鳥が「今日も暑いね」と言って休憩しており、トンビ的な鳥が「俺って凄いでしょ」と自慢げに上空を旋回していた。


「うーん。やっぱりチージョ星は心地いいなぁ~」


 平和という最高のおもてなしを受けてウトウトしていると。


「……よぉぉぉぉ」


 どこからともなく変な声が聞こえた。辺りを見渡したがそれらしい人影ない。淡々と雲が流れて行くだけである。

 気のせいかと思い、再びウトウトし始めた。


「……いちょぉぉぉ」

「いちょぉ?」


 今度はハッキリ聞こえた。この星に銀杏の木があるのだろうか。

 不思議に思った俺は上半身を起こし、声のする方へ視線を向けた。上空には未だにトンビが輪をかいていて優雅に大空を舞っている。


「もしかしてトンビの鳴き声か?」


 そう思って旋回を眺めていると、遥か遠くに黒い異物を発見した。その異物は結構なスピードでこちらへ向かってくる。ミサイルかと思ったがそんな感じではなさそうだ。

 得体の知れない飛行物体は俺の方へ一直線で向かってくる。


「……た……いちょぉぉぉ~~」

「た、いちょうお? まさか!」


 慌てて立ちあがり物体を確認した。


「隊長ぉぉぉ~~」

「ゲッ、ココ!」


 怪しげな飛行物体はココだった。背中にウォーターガンを背負い、両腕をピーンと伸ばして飛んできた。


「隊長ぉぉぉ。会いたかったですぅぅぅ~~」


 そう叫ぶと、さらにスピードを加速させ一気に近づいてきた。この距離でこのスピードは確実に停止できまい。

 危険を察知した俺はダッシュで宇宙船へ逃げ込んだ。そして開閉ボタンを押そうとしたが間に合わなかった。加速の付いたココは猛スピードのまま船内へ突入してきた。


「隊長ぉぉ!」

「うわっ。ま、待て! ぶつか……」


 ドカッ。バキバキ。メキッ!


 俺の忠告も空しく、頭突きが第一腰椎にめり込んだ。


 ぐわぁぁ、こ、腰が木っ端みじんにぃぃ。


 腰を押さえ床をのたうち回る俺をあざ笑うかのように、「会いたかったですぅ」そう言って背中に飛び乗ってきた。


 こ、今度は頸椎がぁぁぁーー。


 頭を支える最も重要な部分である背骨を粉々に打ち砕かれ、全身を痙攣させている俺。そんな俺をニコニコ顔で覗き込み「お久しゅうございますですぅ」と言って抱きついてきた。

 まあ、今回は許容してやるが、次回からは止めろよ。大脳への伝達機能が麻痺して歩行困難になってるから。



「ど、どうしたんだ? こんな真昼間に」

「ラムちゃんから隊長が来てると小耳にはさみましてぇ」

「学校は?」

「今日は休校日ですぅ」

「そ、そうか」

「ところで隊長ぉ」

「なんだ?」

「これなんですがぁ~」


 そう言うと背中のウォーターガンを取り出した。


「それがどうかしたのか?」

「ちょいと見ていただきたく存じますぅ」

「はい?」


 ココは船内から外にある葉っぱへ狙いを定め銃を構えた。ざっくり計算でも10メートルくらいはありそうだ。最新の電動式なら届く距離だろうが、彼女にあげたのは大昔に買った安いポンプ式の玩具である。飛距離もせいぜい5メートルにも満たないだろう。「まあ無理だろうな」と薄ら笑いを浮かべていると、ココの表情が一気に引き締まった。

 バシュッ!と勢いよく水が飛び出し、2枚の葉がヒラヒラと舞った。


「……2枚抜きか」

「そうでございますです」


 1放射に対して1枚は撃てるかも知れないが、1発で2枚を葉を撃ち落とすなど相当な腕前である。さらに構えたココは、地面へ向かって落ちる葉を2枚とも完璧に撃ち抜いた。


「お前……」

「いかがな心持ちで?」

「す、すげぇな」


 圧巻である。プロのスナイパーでも難儀しそうだ。しかも手にしているのは子供用のウォーターガン。発射スピードも空気抵抗も本物に比べ桁違いに扱いづらいだろう。それでも正確に撃ち抜く技術は、もはやプロ顔負けである。


「どうやって腕を磨いたんだ?」

「それはですね……」


 初めは地味に撃ち落とす練習をしていた。だが、引き金を引いてから発射までの速度が遅いため、思ったような射撃が出来なかった。そこで自分なりに研究、工夫を重ね、扱いやすいように改造を施したらしい。


「威力を上げたって事?」

「威力+正確性+腕前。ですねぇ~」

「全部って事か?」

「はいな」


 面白くなった俺は「ちょい貸してみ」そう言ってウォーターガンを構えた。引き金を引いた途端に圧力で銃口が持ちあがり、宇宙船の壁へ撃ち込んだ。

 ウォーターガンで銃口が持ちあがる事などない。どうやって改造したのかは分からないが、一歩間違えれば人間さえ撃ち抜けそうである。日本だったら銃刀法違反に属する代物だろう。


「ハハハ。隊長ぉぉ。下手くそですねぇ~」

「改造し過ぎだぞ、これ」

「誉な一品にござい」

「お前、こんなモンを作ってどうするつもりだ?」

「惑星の平和を守るのが我が使命ですから」

「……ってか、将来何になるつもりだよ」

「惑星防衛軍であります!」


 ココはそう言って敬礼した。

 惑星防衛軍と言えば、この間表彰されたばかりである。チージョ星ではエリート中のエリートらしく男子の憧れの職業だとか。


「お前は女の子だろ?」

「今日から男に生まれ変わる所存です!」

「今日からって……」

「近々、ちんこを取り付ける予定であります!」

「ち……ん……」


 なあココ。仮にもお前は大企業のお嬢様だろ。そんな子が「ちんこ」なんて下品な言葉を使うな。


 俺らは大人と子供の境を彷徨う中学生。どんな夢を見ようが、どんな将来を熱望しようが未来は明るい。不可能なんて何もない。望むモノなら何にでもなれる。

 ココがなりたいと思うのなら、その夢に進んで行けばいい。


「まあ、何でもいいさ。応援するよ」

「ああっ、ありがとうございますですぅ」

「頑張れよ」

「はいぃぃぃ!」


 俺は頭をいい子してあげた。それに対して「めへぇぇ~」と照れ笑うココ。奇妙なリアクションを可愛いなと思っていると、船内にあった雑誌を不思議そうに指さした。


「ところで隊長ぉ。これは何でしょうか?」

「それは漫画だよ」

「漫画とは何ぞや?」

「ん?」


 ココの話ではチージョ星に漫画は存在しないらしい。漫画どころかアニメとか映画とか、物語と呼ばれる娯楽が皆無なんだとか。


「日本では誰もが親しんでいる物だよ」

「ほうほう」

「読んでみるか?」

「是非にも!」


 手渡された漫画を読み始めた。しばらくページをめくっていたのだが……。


「隊長ぉ。これ、ちょっとお借りしてもよろしいでしょうか?」

「ああいいよ。全部読んじゃったから」

「ありがとうござい!」


 漫画を片手に表へ飛び出ると、マッハで飛んで行った。


 おいココ。命より大切で将来の夢でもある武器を忘れてるぞ。

 ……すこぶるイヤな予感がするのは俺だけか?





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