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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第四部 素晴らしき親友ども
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久しぶりの我が故郷

 ミーーン、 ミーーン。

 セミの鳴き声がした。


 この鳴き声を聞くのも久しぶりである。

 ここ最近はラムが地球へやって来て、「色んな所へ連れて行け。さもなくば!」と脅しをかけられている。そのため、ラム家に来る事はほとんどなかった。

 防衛軍の式典に呼ばれて舞い降りたのが久しぶりで、その時も1泊だけチラッと泊まって地球へ帰還した。何だか妙に懐かしい気分である。

 第二の故郷に足を踏み下ろすと、3つの太陽がギンギンに向かえていた。


「相変わらず景気のいい太陽だな」


 激しく襲ってくる直射日光を手で隠しながら研究室へ行った。


「パパさん。買ってきました」

「おおっ、ありがとう」

「これなんですが」


 さっそく粘着ホイホイを取り出した。


「使い方は?」

「まず、この保護テープを取ってください」

「この茶色い奴?」

「それを剥がすと粘着シートが出来てきます」

「剥がしたよ。なんかベタベタするね」

「あまり触らないで下さい。くっ付いたら離れなくなりま……」

「あれ? 指にくっ付いて離れない」

「……」


 ねえパパ。人が説明している時になぜ興味本位に触るんだ? 


「それ、くっ付いたら剥がすのが……」

「うわっ。両手がくっついちゃった」

「……」

「ねえ三次君。取れないよ?」


 だ・か・ら、いま注意勧告している所だろうがっ!


 くっ付いた指を剥がそうとしてもう片方の手で鷲掴みにしたため、両手を粘着シートに固定されてしまった。取ろうと思いブンブン腕を振り回していたが、そう簡単に取れる代物ではない。


「どうしよう。三次君」

「……無理やり引き離すしかありませんね」

「ちょっとそっちを引っ張って」

「分かりました」


 力任せに引っ張ったが思った以上に粘着力が高い。簡単に外れるようではゴキブリの思うつぼである。パパの手からミニョ~ンと糸を引いてアメーバー状態になっていた。


「なんかベタベタしてる」

「もう少し力を入れて引っ張ってください」

「痛い痛い! 手の皮が剥けちゃう」


 顔を歪めて必死に抵抗していた。

 こういう場合は躊躇しない方がいい。下手に優しくはぎ取ると痛みが持続して余計に辛くなる。相手のためを思い、一気に剥がして瞬間で終わらせてあげるのが常識だ。

 痛みで顔を歪めているパパに構わず、思いっきり引っ張った。


「くそやろぉぉーー」


 バチーンと粘着が弾けてようやく取れた。だが、力任せに引っ張ったせいで勢いが付き、今度は俺の顔面にペタッとくっ付いた。


「うげっ、き、気持ち悪い」

「ごめんごめん。今度は僕が取ってあげるね」

「い、いや。無理に引っ張ったら……」


 パパがありったけの力で引き離そうとしたが粘着力は衰える事を知らない。この程度で粘着が弱まったらゴキブリがシートの上でくつろぐ。顔からベロ~ンとスライム状の糸を引いた。

 こういう場合、相手に痛みを与えないよう静かに優しく引っ張るのが人の道である。


「ち、力が……」

「うげぇぇ。め、目がぁぁ」

「け、結構強力なんだねぇ~」

「優しくゆっくり……」

「もう少しだから我慢して」

「ぎょえぇぇーー。は、鼻がもげるぅぅ」


 すったもんだでようやく引き剥がした。手はベタベタで未だに粘着力がある。グーパーしたらネチョ~ンと糸を引いた。口の周りにもこびりつき、開け閉めする度にブバァーっとなる。


「これって本当に強力なんだね」

「一度くっ付いたらなかなか剥がれませんよ」

「これなら対策にピッタリだよ」

「そうですね」

「地球には素晴らしい発明があるんだねぇ~」

「そう言っていただければ持ってきた甲斐があります」

「本当にありがとう」


 パパは嬉しそうな表情で俺の手を握りしめた。


「あっ」

「あっ!」


 俺とパパは粘着された。


 おいバーカネドロン。お前は何を考えているんだ。少しは状況ってものを……。

 その時、研究室にママが入ってきた。


「あっ」

「あっ!」

「え!?」


 俺とパパが手に手を取ってくっ付いている場面を見て目を丸くした。


「あら、お邪魔だったわね」


 クスッとほくそ笑み、その場から消え去った……。




 その後、ベタベタの体を洗い流して食卓についた。相も変わらず野菜オンリーのメニューだったが食べ慣れると結構美味い。


「ママ。これ美味しいですね」

「あらそう? ありがとう」

「料理上手ですね」

「三次君に褒められるなんて光栄だわ」


 先ほどの一件もあり多少気まずかったので、少しオーバーに褒めてみた。パパも同じ気持ちだったらしく「ママは本当に料理上手」と絶賛した。

 のんびり屋だけに先ほどの一件はさほど事は気にしていないらしい。2人に褒められたママは、鼻歌を奏で上機嫌だった。


「なあラム。料理上手なお母さんで幸せだな」

「フン!」


 なぜかラムは不機嫌だった。


 研究室での誤解を解くため、ママには細かく事情を説明してある。

 初めての粘着シートに右往左往し、偶然のアクシデントでくっ付いてしまった、と。

 それを聞いたママは「仲が良くて素敵ね」と気にも留めずニコニコしていた。

 ところが、昼間の出来事をラムに報告したママは「粘着シート」という重要かつ肝の部分を省いて説明したらしく、「研究室で三次君とパパが手を繋いでいた」という危険極まりない状況を作り上げてしまった。

 それを聞いたラムは俺を「人類史上最高の変態」と蔑んだ。


「何をそんなに怒ってるんだ?」

「話しかけないで。ド変態!」

「それは誤解だぞ」

「私のパパに何するのよ」

「何もするかっ!」

「早く地球へ帰れ。キモバカ!」

「キ、キモバカ……」


 一度ヘソを曲げると回復が難しい。こういう場合は放って置くに限る。

 食事を終えてMy倉庫に戻った俺は、悶絶しながら眠りについた。


 チージョ星に来ると疲れるのよねぇ~。






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