1人の少女とオタクの世界観
カメラ小僧に混じり、携帯でセクシー刑事やら何やらをビシバシ撮りまくった。顔からホットな湯気を出し、各箇所から生温かいモノを放出させながら会場内を探索した。
何気なく見て回ったのだが、本当に色んなモノが出品されていた。興味のない者にとっては意味不明の代物ばかり。名前どころか存在さえ知らない品が並べられている。好きな者にとっては涎モノの逸品なのだろう。
遠くで克己が「むひょぉ~ん」と叫んでいたので、心躍る何かを見つけたのだと推測する。
「こういう世界もアリだな」
克己がハマる理由も分かる。各自が好きな物を形にし、それを他者と共有して楽しむ。見ている者も販売している者も、みな心から嬉しそうにしていた。俺は自分の世界観の小ささに落涙しながら各ブースを回った。
大都市で行われるコミケと比べ、地方都市のイベントは規模が小さい。体育館も満員御礼とまではいかず、チラホラ空きスペースが見られた。それでも「この町には何人のオタクがいるんだ?」と思わせるような盛況ぶりである。
あちこちを冷やかすように散策しているうち、とあるブースで足が止まった。
「どうですか? お暇だったら足を止めてみるのも一行」
おかっぱのメガネっ子に声を掛けられた。目の前に並べられているのは彼女が描いたであろう同人誌だった。
「ちょっと見ていいですか?」
「思うがままに」
手に取ってパラパラとページをめくった。内容は少女漫画系だった。
少年漫画もしくはエロ漫画なら飛びつくアイテムである。少女漫画は俺の趣味には無い。
昔、妹の漫画を借りて読んだことがある。誰も彼もがお目めキラキラで男女の区別すらつかず、みな同じ顔にしか見えなかった。同じ顔同士が愛だの恋だと言っていたので「これってレズ漫画か?」と尋ねた所、「消え失せろ!」と激高された。
興味もないのになぜ足が止まったかというと。
彼女の雰囲気がココと似ており、懐かしさのあまりつい。という心境である。
ラムとは1ヶ月に1~2回は会っている。ココとはチンカースバロ星人との激闘以来、顔を合わせていない。彼女もオタク要素満載なので会場に入った途端「元気かな」と思い出していた。
そんな矢先に似た子が座っていた。髪型、メガネ、怪しげな雰囲気までがそっくりで思わず立ち止まってしまった。
「内容は……いかがな塩梅でしょうか?」
「俺、男だからよく分からないけど絵は上手いね」
「真実ですかぁ~。光栄の極み!」
言葉の使い方まで似ている。
「君って、何歳なの?」
「私は14です。来年は15を向かえる年頃です」
「あっ、そうなの? じゃあ、同い年だね」
「そうなんですかぁ。奇遇の偶然ですね」
「……だね」
年齢まで同じ。ココが地球人に変身したのかと思うくらい返答内容まで似ていた。ここまで激似の人と出会って完全無視は俺の正義に反する。
「あのう。1冊いくらなの?」
「1000円と言いたいところですがぁ」
「ですがぁ?」
「タメのよしみで600円でお譲りします」
「……」
家でストーリーを考え、コツコツ描き貯めたのだろう。印刷や製本代だってバカにならないと思う。中学生の少ないお小遣いで全てを賄い、一生懸命に練り上げた作品である。そんな彼女のバックグラウンドを考えると買ってあげたいと思う。
購入したいのは山々だが、先ほどゴキブリ駆除グッズを大量購入してしまい、ポケットには105円しか入っていない。
「買ってあげたいけど、さっきこれを買ったばかりだから」
そう言ってビニール袋を見せた。
「……ゴキブリと同棲してるんですか?」
「いや。そうじゃないけど」
彼女は俺とビニール袋を交互に見つめ、
「一つ下さい。これと交換しましょう」
目の前にある新作と書かれた本を渡してきた。
「それじゃあまりにも分が悪くない?」
「ちょうど手ごろな兵器を欲しいと思っていた所でした」
「兵器?」
「ゴキブリ全滅作戦です」
「……」
ココといい、君といい。会話にならん会話をやめてくれるかな。疲れ知らずの俺の頭が疲労困憊しているから。
結局、押し切られる形で駆除グッズ1個と漫画を交換した。
その後、克己が満面の笑みで帰って来た。
俺はセクシー刑事に後ろ髪を惹かれつつ会場を後にした。
「どうだった、フェスティバルは?」
「まあ、楽しいといえば楽しかったな」
「フェスティバルはカーニバルだ」
「……良かったな」
「これは俺の生き甲斐だぜ」
「ところで、何を買ったんだ?」
「ああこれか」
克己は、ジャジャーンと言いながら袋から出して見せた。
『本日も妹がH過ぎて困る件』
『お兄の為ならっ!』
題名からしてヤバそうな代物であった。
「マニアック過ぎるぞ、お前」
「何がだよ。これぞロマンだろうが」
「シスロリって、ある意味最強じゃねぇかよ」
「うるせーよ」
「で、内容は?」
「読んでからのお楽しみだろ」
「……」
危険な香りがプンプンする。本人の趣味である以上、口出しは無用である。
「三次。お前も何か買ったのか?」
「買ったというか、交換したというか」
困惑しながら漫画を見せた。
「ああ、彼女の作品か」
「知ってるのか?」
「毎回イベントに来てる子だよ」
「俺らと同級生みたいだな」
「隣町の中学で、名前は町田美優っていうらしい」
「有名なのか?」
「絵はすこぶる上手いんだが内容が性に合わんな」
「どんな内容なんだ?」
「買ったんだから家へ帰って読めよ」
「そりゃそうだが……」
いつもの河原まで戻ってくると、
「じゃあな」
克己はスキップで帰って行った。
ハッキリ言う。付き合わせた理由はなんだ。俺がいなくても何の問題もなかったと思うが。まさか、レイヤーの道に誘おうって魂胆じゃないよな。
もし俺のマイクロビキニ姿が見たいなら遠慮はいらねぇ。ちょっとハミ出しちゃうかもしれんが、いつでも拝ませてやるぜぇ~。
克己の趣味に付き合わされ時間を大幅にロスしてしまった。
俺はチージョ星の英雄。誰もが憧れるカリスマ。宇宙規模で活躍するエリート戦士なのだ。地球如きのチマチマしたイベントに付き合っているヒマはない。
大袋を抱えて宇宙船へ乗り込んだ。
フィーーン、フィーーン。
シュパッ!と俺を待っている星へ出発する音が聞こえた。
相も変わらず宇宙船はヒマである。
船内は白一色で上下左右の判別が不可能な場所である。現在、どの方角を向いて座っているのかさえ確認出来ない。何かしらの目印があれば、それを元に状況を把握出来る。しかし全面真っ白の無機質な空間は、視界をヤラれ、平衡感覚が麻痺する。終いには脳への伝達機能が働かなくなり、マイム・マイムを歌いながら1人でフォークダンスを踊るハメになる。
頭がぶっ壊れない為には、妄想で時間を潰すか寝るか。
「本気でやる事が……漫画でも読むか」
先ほど交換した漫画を読んでみた。
メスカリーネは剣を取った。
相手は宇宙でも知れたバルバロー。幾つもの惑星を支配下に置き、銀河系随一の剣士としてその名を轟かしてきた。
「貴女よ、俺の剣に敵うとでも思っているのか」
「貴様に負けるほど落ちぶれちゃいないわよ」
「命を粗末にするな」
「その高貴な鼻をへし折ってくれよう!」
「ほら、かかって来い」
「せいっ!」
交わった剣が火花を散らした。
腕前は互角。互いに一歩も譲らず耳をつんざく金属音がこだまする。
「なかなかやるな」
「もし私が負けたら、貴様の思い通りにするが良い」
「そうか。その言葉に偽りはないな」
「剣士に二言はない!」
「それではちょっとだけ本気を見せてあげよう」
バルバローの剣が怪しい光を放ち、メスカリーネの剣に触れた。次の瞬間、彼女の剣が真っ二つに折れた。だが勢いは止まらず、そのまま額に向かってきた。
メスカリーネは思わず目をつむった。
「どうだ。お姫様」
ゆっくり目を開けると、剣は数センチ先で止まっていた。
「俺とお前。その差は深淵よりも深いのだ」
「く、くそぉ。情けは無用だ。やれ!」
「これからお前は俺の右腕だ。期待しているぞ」
バルバローは剣を鞘へ戻すと、高笑いしながらその場を去った。
「私としたことが何という屈辱。いつか超えてみせる、貴様を!」
お目めキラキラ、背景花びら、恋愛バリバリの少女漫画かと思ったら、意外にも宇宙を冒険する女戦士の物語であった。
しかも絵はメチャクチャ上手い。ひいき目に見てもプロ並みである。ストーリー展開も面白く、このまま出版されてもおかしくないレベルであった。
「これのどこかイマイチなんだ? あいつは目が腐ってるな」
克己の性格上、冒険活劇は得意じゃない。なにせ妹系である。あれで内容が内容だった場合……明日にでも警察に通報するか。
漫画を読み終えて再びやる事がなくなった俺は、町田美優に触発されて妄想してみた。
三次は剣を取った。
相手は宇宙のならず者ソーセージーネ。
「お前、俺の剣に敵うとでも思っているのか」
「貴様なんぞチョロいわ」
「命を粗末にするな」
「そのへちゃむくれの鼻をへし折ってくれるわ」
交わった剣が火花を散らした。
腕前は互角。互いに一歩も譲らず耳をつんざく金属音がこだまする。
「なかなかやるな」
「もし負けたら、好きにするが良い」
「そうか。その言葉に偽りはないな」
「戦士に二言はない!」
「それではちょっとだけ本気を見せてあげよう」
三次の剣が怪しく光り、そのままソーセージーネを真っ二つにした。
「ソーセージとパン。相性は抜群なのだ」
「く、くそぉ。情けは無用だ。やれ!」
「これからお前はホットドッグだ。期待しているぞ」
三次は剣を鞘へ戻すと、高笑いしながらその場を去った。
なんか違う気がする……。




