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宮本三次は今日も逝く  作者: 室町幸兵衛
第四部 素晴らしき親友ども
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1人の少女とオタクの世界観

 カメラ小僧に混じり、携帯でセクシー刑事やら何やらをビシバシ撮りまくった。顔からホットな湯気を出し、各箇所から生温かいモノを放出させながら会場内を探索した。


 何気なく見て回ったのだが、本当に色んなモノが出品されていた。興味のない者にとっては意味不明の代物ばかり。名前どころか存在さえ知らない品が並べられている。好きな者にとっては涎モノの逸品なのだろう。

 遠くで克己が「むひょぉ~ん」と叫んでいたので、心躍る何かを見つけたのだと推測する。


「こういう世界もアリだな」


 克己がハマる理由も分かる。各自が好きな物を形にし、それを他者と共有して楽しむ。見ている者も販売している者も、みな心から嬉しそうにしていた。俺は自分の世界観の小ささに落涙しながら各ブースを回った。

 大都市で行われるコミケと比べ、地方都市のイベントは規模が小さい。体育館も満員御礼とまではいかず、チラホラ空きスペースが見られた。それでも「この町には何人のオタクがいるんだ?」と思わせるような盛況ぶりである。

 あちこちを冷やかすように散策しているうち、とあるブースで足が止まった。


「どうですか? お暇だったら足を止めてみるのも一行」


 おかっぱのメガネっ子に声を掛けられた。目の前に並べられているのは彼女が描いたであろう同人誌だった。


「ちょっと見ていいですか?」

「思うがままに」


 手に取ってパラパラとページをめくった。内容は少女漫画系だった。

 少年漫画もしくはエロ漫画なら飛びつくアイテムである。少女漫画は俺の趣味には無い。

 昔、妹の漫画を借りて読んだことがある。誰も彼もがお目めキラキラで男女の区別すらつかず、みな同じ顔にしか見えなかった。同じ顔同士が愛だの恋だと言っていたので「これってレズ漫画か?」と尋ねた所、「消え失せろ!」と激高された。


 興味もないのになぜ足が止まったかというと。

 彼女の雰囲気がココと似ており、懐かしさのあまりつい。という心境である。

 ラムとは1ヶ月に1~2回は会っている。ココとはチンカースバロ星人との激闘以来、顔を合わせていない。彼女もオタク要素満載なので会場に入った途端「元気かな」と思い出していた。

 そんな矢先に似た子が座っていた。髪型、メガネ、怪しげな雰囲気までがそっくりで思わず立ち止まってしまった。


「内容は……いかがな塩梅でしょうか?」

「俺、男だからよく分からないけど絵は上手いね」

「真実ですかぁ~。光栄の極み!」


 言葉の使い方まで似ている。


「君って、何歳なの?」

「私は14です。来年は15を向かえる年頃です」

「あっ、そうなの? じゃあ、同い年だね」

「そうなんですかぁ。奇遇の偶然ですね」

「……だね」


 年齢まで同じ。ココが地球人に変身したのかと思うくらい返答内容まで似ていた。ここまで激似の人と出会って完全無視は俺の正義に反する。


「あのう。1冊いくらなの?」

「1000円と言いたいところですがぁ」

「ですがぁ?」

「タメのよしみで600円でお譲りします」

「……」


 家でストーリーを考え、コツコツ描き貯めたのだろう。印刷や製本代だってバカにならないと思う。中学生の少ないお小遣いで全てを賄い、一生懸命に練り上げた作品である。そんな彼女のバックグラウンドを考えると買ってあげたいと思う。

 購入したいのは山々だが、先ほどゴキブリ駆除グッズを大量購入してしまい、ポケットには105円しか入っていない。


「買ってあげたいけど、さっきこれを買ったばかりだから」


 そう言ってビニール袋を見せた。


「……ゴキブリと同棲してるんですか?」

「いや。そうじゃないけど」


 彼女は俺とビニール袋を交互に見つめ、


「一つ下さい。これと交換しましょう」


 目の前にある新作と書かれた本を渡してきた。


「それじゃあまりにも分が悪くない?」

「ちょうど手ごろな兵器を欲しいと思っていた所でした」

「兵器?」

「ゴキブリ全滅作戦です」

「……」


 ココといい、君といい。会話にならん会話をやめてくれるかな。疲れ知らずの俺の頭が疲労困憊しているから。


 結局、押し切られる形で駆除グッズ1個と漫画を交換した。



 その後、克己が満面の笑みで帰って来た。

 俺はセクシー刑事に後ろ髪を惹かれつつ会場を後にした。


「どうだった、フェスティバルは?」

「まあ、楽しいといえば楽しかったな」

「フェスティバルはカーニバルだ」

「……良かったな」

「これは俺の生き甲斐だぜ」

「ところで、何を買ったんだ?」

「ああこれか」


 克己は、ジャジャーンと言いながら袋から出して見せた。


『本日も妹がH過ぎて困る件』

『お兄の為ならっ!』


 題名からしてヤバそうな代物であった。


「マニアック過ぎるぞ、お前」

「何がだよ。これぞロマンだろうが」

「シスロリって、ある意味最強じゃねぇかよ」

「うるせーよ」

「で、内容は?」

「読んでからのお楽しみだろ」

「……」


 危険な香りがプンプンする。本人の趣味である以上、口出しは無用である。


「三次。お前も何か買ったのか?」

「買ったというか、交換したというか」


 困惑しながら漫画を見せた。


「ああ、彼女の作品か」

「知ってるのか?」

「毎回イベントに来てる子だよ」

「俺らと同級生みたいだな」

「隣町の中学で、名前は町田美優(みゆう)っていうらしい」

「有名なのか?」

「絵はすこぶる上手いんだが内容が性に合わんな」

「どんな内容なんだ?」

「買ったんだから家へ帰って読めよ」

「そりゃそうだが……」


 いつもの河原まで戻ってくると、


「じゃあな」


 克己はスキップで帰って行った。


 ハッキリ言う。付き合わせた理由はなんだ。俺がいなくても何の問題もなかったと思うが。まさか、レイヤーの道に誘おうって魂胆じゃないよな。

 もし俺のマイクロビキニ姿が見たいなら遠慮はいらねぇ。ちょっとハミ出しちゃうかもしれんが、いつでも拝ませてやるぜぇ~。




 克己の趣味に付き合わされ時間を大幅にロスしてしまった。

 俺はチージョ星の英雄。誰もが憧れるカリスマ。宇宙規模で活躍するエリート戦士なのだ。地球如きのチマチマしたイベントに付き合っているヒマはない。

 大袋を抱えて宇宙船へ乗り込んだ。


 フィーーン、フィーーン。

 シュパッ!と俺を待っている星へ出発する音が聞こえた。


 相も変わらず宇宙船はヒマである。

 船内は白一色で上下左右の判別が不可能な場所である。現在、どの方角を向いて座っているのかさえ確認出来ない。何かしらの目印があれば、それを元に状況を把握出来る。しかし全面真っ白の無機質な空間は、視界をヤラれ、平衡感覚が麻痺する。終いには脳への伝達機能が働かなくなり、マイム・マイムを歌いながら1人でフォークダンスを踊るハメになる。

 頭がぶっ壊れない為には、妄想で時間を潰すか寝るか。


「本気でやる事が……漫画でも読むか」


 先ほど交換した漫画を読んでみた。



 メスカリーネは剣を取った。


 相手は宇宙でも知れたバルバロー。幾つもの惑星を支配下に置き、銀河系随一の剣士としてその名を轟かしてきた。


「貴女よ、俺の剣に敵うとでも思っているのか」

「貴様に負けるほど落ちぶれちゃいないわよ」

「命を粗末にするな」

「その高貴な鼻をへし折ってくれよう!」

「ほら、かかって来い」

「せいっ!」


 交わった剣が火花を散らした。

 腕前は互角。互いに一歩も譲らず耳をつんざく金属音がこだまする。


「なかなかやるな」

「もし私が負けたら、貴様の思い通りにするが良い」

「そうか。その言葉に偽りはないな」

「剣士に二言はない!」

「それではちょっとだけ本気を見せてあげよう」


 バルバローの剣が怪しい光を放ち、メスカリーネの剣に触れた。次の瞬間、彼女の剣が真っ二つに折れた。だが勢いは止まらず、そのまま額に向かってきた。

 メスカリーネは思わず目をつむった。


「どうだ。お姫様」


 ゆっくり目を開けると、剣は数センチ先で止まっていた。


「俺とお前。その差は深淵よりも深いのだ」

「く、くそぉ。情けは無用だ。やれ!」

「これからお前は俺の右腕だ。期待しているぞ」


 バルバローは剣を鞘へ戻すと、高笑いしながらその場を去った。


「私としたことが何という屈辱。いつか超えてみせる、貴様を!」




 お目めキラキラ、背景花びら、恋愛バリバリの少女漫画かと思ったら、意外にも宇宙を冒険する女戦士の物語であった。

 しかも絵はメチャクチャ上手い。ひいき目に見てもプロ並みである。ストーリー展開も面白く、このまま出版されてもおかしくないレベルであった。


「これのどこかイマイチなんだ? あいつは目が腐ってるな」


 克己の性格上、冒険活劇は得意じゃない。なにせ妹系である。あれで内容が内容だった場合……明日にでも警察に通報するか。


 漫画を読み終えて再びやる事がなくなった俺は、町田美優に触発されて妄想してみた。




 三次は剣を取った。


 相手は宇宙のならず者ソーセージーネ。


「お前、俺の剣に敵うとでも思っているのか」

「貴様なんぞチョロいわ」

「命を粗末にするな」

「そのへちゃむくれの鼻をへし折ってくれるわ」


 交わった剣が火花を散らした。

 腕前は互角。互いに一歩も譲らず耳をつんざく金属音がこだまする。


「なかなかやるな」

「もし負けたら、好きにするが良い」

「そうか。その言葉に偽りはないな」

「戦士に二言はない!」

「それではちょっとだけ本気を見せてあげよう」


 三次の剣が怪しく光り、そのままソーセージーネを真っ二つにした。


「ソーセージとパン。相性は抜群なのだ」

「く、くそぉ。情けは無用だ。やれ!」

「これからお前はホットドッグだ。期待しているぞ」


 三次は剣を鞘へ戻すと、高笑いしながらその場を去った。


 なんか違う気がする……。






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