防衛軍からの呼び出し
「ねぇ三次。起きて」
「うぎゃぁぁ。つ、つめてぇー」
顔に濡れタオルを乗せられて目が覚めた。
「何すんだよ!」
「すっごい寝汗をかいてたから」
「だからって、濡れタオルを置くな」
「悪い夢でも見たの?」
現状が悪夢じゃぁぁーー。
「で、何か用?」
「パパが呼んでるの」
「パパが? 何用で?」
「知らない」
「……」
なあラム。汗をかいたから拭いてあげよう。その親切心はありがたい。だが、寝ている顔に濡れタオルを置いたらどうなるか分かってるのか。目が覚める前に閉じるって事なんだぞ。
あと、毎回「知らない」って言うが、用事くらい聞いてから来い!
意味不明のまま宇宙船へ乗り込んだ。
「ところで、チンカースバロ星人はどうなったの?」
「完璧とまではいかないけど、あれ以来、少なくなってるよ」
「そうか」
「町で見かける回数も少なくなったわね」
「それは良かった」
「三次のお陰ね」
俺のお陰かどうかは別として、安全が確保されたのは良かったと思う。奴らは男から女子供まで見境なく襲う。年齢も幅広く10代から60代まで。突き突き出来るモノだったら花瓶でも襲うだろう。
何にせよ数が減ったのは幸いである。
「そういえばさ、商店街の会長が三次に会いたがってたよ」
「ああ、女泣かせ会長か」
「女泣かせ?」
「確かそんな名前だったと思うが」
「たぶん違うと思うよ」
「チンチ会長だっけ?」
「それも違うと思う」
もう何百万光年も往復して色んな人と仲良くなったが、未だチージョ星人の名前は覚えにくい。耳に入ってくる発音が独特なため、日本語に訳すまでに時間がかかる。ただでさえ左脳が死亡遊戯の俺には難し過ぎる。
ラムのフルネームだって未だに覚えていない。
「ラムの本名ってなんだっけ?」
「ラムチンチ・コレロレロ」
「聞いた事のない発音だから覚えられないんだよ」
「しょうがないでしょ。名前なんだから」
「地球人には覚えるのが無理だな」
「バカだからじゃない?」
「て、てめぇー」
宇宙でもトップ10にランクインしそうな痴話げんかをしつつ、再びチージョ星を訪れた。
宇宙船を降りると、3つの太陽が「おかえり」と挨拶してくれた。心地よい夏風がサラッと吹き抜け、少し汗ばんだ肌を軽やかに冷やしてくれる。
地球では季節ならではの景色と雰囲気を楽しめるが、チージョ星には四季がないため毎日が常夏だ。夏大好き人間の俺からしたら、ここはまさに人類の楽園である。
「あーっ、気持ちいい! やっぱチージョ星は最高だな」
「ハハハ。そう言ってくれると嬉しいわ」
「ところでパパは?」
「研究室にいると思うよ」
「ラムはどうするの?」
「私は図書館へ行って来る」
「あっそ」
「じゃあ、また後でね」
ミニスカをヒラヒラさせながら飛んで行った。下から眺める水玉もなかなか乙なものである。
飛び去ったラムを見送った後、久しぶりに研究室へ行った。
「パパさん。お久しぶりです」
「おお三次君。久しぶり」
「ラムから聞いたんですが用事があるそうで」
「そうそう。その事なんだけど」
パパに手招きされ、いつも通り窓から室内へ入った。
「実は用事っていうのは私じゃないんだよね」
「それじゃあ、一体誰ですか?」
「長官なんだよ」
「ち、長官!?」
チージョ防衛軍最高司令官であるアシク・ササイノダー長官が俺に何の用があるというのか。まさか俺の頭脳に惚れ込み、防衛軍入隊を秘密裏に進めている訳じゃあるまい。どちらかと言うと、チンカースバロ対策が思うように進まず「貴様のせいで大恥をかいたわ!」などと激高して射撃練習の的にされる可能性が高いと推測する。
「俺、何かヘマしました?」
「違うよ。そうじゃないんだ」
俺の疑問にパパは詳しく説明してくれた。
撃退する武器が完成した事により、町に溢れていた奴らは激減した。同時に対策グッズが思った以上の効果を発揮した。
未だ完全消滅とまではいかず、その後も度々姿を現しては防衛軍を手こずらせるが、何もなかったあの頃よりはマシである。
武器と対策グッズ。この2つが上手く作用し、もはやチンカースバロ星人は恐るるに足りない存在となった。
そして、チージョ星に安心と安全を提供した俺とパパは「守護神」として惑星全土が賞賛した。
「しゅ、守護神!?」
「そう。私と三次君がね」
「マジっスか!」
チンカースバロ星人が暴れ回っていた時は、惑星全土に厳戒態勢が敷かれ、外出禁止令が発動されていた。恐怖に怯えて家に閉じこもる日々。仕事も食事もままならない状態が続いていた。
誰でもいいから勇気を持って立ち上がって欲しい。そうすれば、みんなで力を合わせて退治出来る。しかし勇気のある者はいなかった。
そんな中、他惑星から来た男が勇猛果敢に立ち向かった。彼をサポートするべく、地球の武器を改造して対策グッズを考案した。
2人の姿は惑星住民にとって英雄に映ったのだろう。誰からともなく「彼らの頭脳と行動を称えようではないか」という話が出たらしい。
「要するにね。私と三次君が表彰される事になったんだよ」
「なっ……」
「表彰式は明日なんだけど、一緒に行こうじゃないか!」
「……マジっスか」
今までの人生で他人から褒められる事は一度もなかった。まして表彰されるなど、前代未聞の空前絶後の未曽有である。
「でも俺、よそ行の服を持ってませんが」
「大丈夫だよ。そのままで」
「表彰式って特別ですよね。Tシャツと短パンでいいんですか?」
「外見じゃないよ。心意気だよ」
「……」
そりゃそうかもしれない。見てくれはさして重要ではない。パパの言い分は理解出来るが、表彰してくれる相手はチージョ星を守る防衛軍。そこの最高責任者の長官である。そんな権威ある人の前でラフ中のラフな格好でいいのだろうか。
「本当に大丈夫ですか?」
「気にする事はないよ。長官も気さくな人だから」
「……そう、ですか」
どう考えても不安要素しか浮かばなかった。
仮に地球だった場合、「何だその格好は! 我が軍の長官をなめてるのか!」そう言われてマシンガンでハチの巣にされそうである。
惑星を代表する頭脳の持ち主であるバーカネドロン・ゲリモサ博士に頭を下げられたらイヤとは言いにくい。来るたび世話になっているので信用してやらん事もない。
半ば強引に説得され、しぶしぶ表彰式を受け入れた。




