出会いは突然に
俺の名前は宮本三次。人生で最も楽しい時期であり、脳に虫が湧いた中学2年生である。
昨日から待望の夏休みが始まった。学校へ行かなくていい。それだけで毎日が得した気分になる。ここぞとばかりに羽目を外し、仲良し3人組でプールサイドの水着お姉さんにウホウホしていた。
「三次、ヤバイぞ。プールから出れねぇーよ」
「血の気が多過ぎるんだよ」
「トイレに行きたいんだが、ナニが収まんねぇ」
「知るか。このスカイツリー野郎が!」
スタイル抜群のお姉さんが流れるプールで戯れている姿は、思春期の脳を直接刺激する。ビーチボールが空へ舞う度に揺れる胸元。浮き輪に乗ったプリプリの桃尻が目の前を流れて行く。もはや天国を通り越して地獄に近い。
「三次ぃ~。ちょっと聞いていいか?」
「何だよ」
「俺、浮き輪になりたいんだが」
「お前バカなのか?」
「百歩譲ってビーチボールでもいい」
「勝手に妄想してろよ」
頭上に輝く太陽と水面に映える色鮮やかな水着姿。やっぱり夏は最高である。
色んな意味で熱くなった体を冷やし、夏休み初日を心行くまで堪能した。
「じゃあ三次。また明日な」
「7時半だぞ。遅れんなよ」
「今晩のオカズは色とりどりぃ~」
バカげた友人らに別れを告げ、お姉さんの残像を忘れぬよう反復しながら自宅付近の河原を歩いていた。
夕暮れ迫る夏の空は澄み渡っている。遠くに見える山々は青黒くそびえ立ち、傾きかけた太陽が青とオレンジのグラデーションで町全体を染める。
これから始まる楽しい夏を妄想しつつ、川にかかる橋の袂まで来た時だった。
「あのう、すいません」
背後から声を掛けられた。ドキッとして振り返ると、そこには可愛らしい女の子が立っていた。
目が大きくクリッとしていて鼻筋も通っている。黒髪ロングのポニーテールで肌は透き通るような白。清楚な服装が純粋な雰囲気を醸し出しており、いかにも頭も良さそうな子であった。
一瞬、俺の男気に惚れ、夏の思い出作りに告白する少女かと思った。
この辺は俺のテリトリーで大体の奴は顔見知りである。だが彼女の顔に見覚えはなく、少し躊躇った表情から近所の子ではなさそうだ。もちろん同じ中学の女子でもない。大体にして俺の学校にこんな可愛い子はいない。福笑いと、性悪女と、妖怪紛いが我が物顔で闊歩しているだけだ。河原にかかる橋を渡れば隣町で学区も違う。きっと向こうから遊びに来たのだろう。
「はい。何でしょうか」
爽やか男子を気取ってニコッと笑った。
彼女はオドオドした様子で問いかけてきた。
「あのう、ここは地球ですか?」
「は?」
「地球で間違いありませんか?」
「……はぁ」
まったくもって意味不明である。
「ここは何という町ですか」なら分かる。初めて訪れる場所で道に迷って難儀している少女だと認識する。困っている者を助けるのが人の道である。目的地まで紳士的に案内してあげよう。
百歩譲って「ここはどこですか」であれば、記憶喪失の少女だと理解を示す。可哀想な子を守ってやるのが男の仕事である。彼女を優しく抱きしめ、頭をナデナデしながら病院へ送り届けるだろう。
だが「ここは地球ですか」という大胆不敵な質問は今までされた事がない。確かに地球で間違いはないのだが、それに対してどう返答をすればいいのだろう。
戸惑っている俺に向かって再び問いかけてきた。
「合ってますか?」
「……はい。合ってます」
「良かったぁ~」
「……」
「ありがとうございました」
「い、いえ。どういたしまして」
女の子はニコッと笑い、そのまま河原の上流にある森林へ消えて行った。
……おい、ちょっと待て。この何とも言えない気持ちの悪い感じをどうしてくれるんだ。
お姉さんの残像忘れちゃっただろうがっ!