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ぼた餅の祠守(ほこらもり)  作者: ほしのみらい
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第十九話〜第二十一話

第十九話


 引き返す格好になった小次郎、結局は途中にコンビニが無く、買い置き分のおにぎりでランチになった。

 

 目的地の小杉さんのお宅はまもなくだったが、腹ごしらえはしっかり済ませた。


 小杉さんのお宅は直ぐに見付かった。なので、向かいの川沿いの祠を探しに行った。


 その川は、朝日川というそうだ。


 祠、祠……と呟きつつ探していると、川を背にする様にポツンと祠が現れた。


 隧道守の小林さんから聞いた通り、川のほとりに祠が有った。


 もちろん、お供えはぼた餅。これはぼた餅の祠で間違いなかったが、小杉さんにも話を伺わなければと、引き返す小次郎。


 広い敷地に、一面屋根で覆われた場所。ここで鯉が飼育されている。外には誰も居ない様なので、建物内を訪ねた。


 「ごめんくださーい。小杉さーん。ごめんくださーい。」


 奥から男性が出て来た。


 見た目から、客とは程遠いいでたちの小次郎だったので、その男性も、客扱いではなかった。


 「小杉は私ですが、何か御用でしたか?」


 「あ、僕、南沢と言います。守師の方を訪ねて旅をしています。それで、この先の中山隧道の隧道守の小林さんから話を聞きました。ここの小杉さんが祠守をされていると聞いたので。」


 「えぇ。私は養鯉(ようり)ばかりですが、今は家内が祠守として、川のほとりの祠に奉公していますよ。」


 「南沢…さん?あなたは若いのに守師をご存知とは。ご自身の身に何かあったのでしょうか?」


 「はい。おっしゃる通り、僕は幼い頃、祠のぼた餅を盗み食いしました。……多分、祠の怒りに触れたんだと思います。ぼた餅を食べてしまい気を失いました。それ以来、奇妙な出来事に見舞われました。それはお札の呪いだと言われ、体内のお札の呪いを解くには、お供え前のぼた餅を頂く事だと言われました。それで、各地の守師を訪ねる事になったんです。」


 「うちも古くからの守師です。川の氾濫が多かったその昔、祠を建てて、奉公したそうです。その頃からずっと祠を守ってきました。南沢さんのご希望の、お供え前のぼた餅、家内に頼んでみましょう。2、3日後の予定のはずです。前倒しで対応してもらいましょうか。」


 「ありがとうございます、お願いしますっ。」


 小次郎は無意識に土下座、深々と頭を下げた。


 夕方、まだ日が暮れる前に、ぼた餅が差し出された。

 

 「南沢さん。さぁ、お一つどうぞ。残りはちゃんと祠にお供えしますから。」


 「ありがとうございます、頂きます。」


 ぼた餅を食べる小次郎。小杉さんのぼた餅は、もち米とうるち米の半々で、粒あんのぼた餅だった。


 食べ終わった小次郎に、またしてもフラッシュバックが訪れた。


 両親の顔。こっちを心配そうに見ている。知らない天井、知らないベッドに寝て移動している。医師の姿が見えた。……見た目の映像はまた白く光って、元の視界に戻った。


(自分の見た目か⁉︎……。移動している。誰?……まさか僕⁉︎)


青ざめた表情の小次郎。


小杉さんが声を掛けてくれる。


「大丈夫かい?顔色が悪いが……。」

「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございました。奥さんにもよろしくお伝えください。」


言うと、小次郎は、自転車に乗って、去っていった。




第二十話


 小次郎は自転車を走らせながら考えていた。


 (お札の呪い……。これとは別の何かをお札は知らせようとしているのだろうか?ぼた餅を頂く度に思い浮かぶ映像はお札が見せてくれているものなのか……。フラッシュバックは小杉さんのぼた餅で4回目になる。今後もまだ何かを見るのだろうか。)


 ここから諏訪湖に南下する。途中のコンビニでコースを決めた。


 しばらく国道117号を走る。飯山線と並走する国道で迷わず走れそうなので選んだ。


 ただ、この距離はかなり長い。マップでは、2泊しそうな距離で、心が折れそうだった。


 十日町市に入って、コンビニで食料確保、水筒の水はトイレで用立てた。既に時間も遅くなっていた為、ここで1泊。

 トラックの出入りが多いコンビニで、よく眠れなかった。


翌朝早く……。


同じく国道を進む。


2両編成の気動車に、何度も追い抜かれて、ここでも心が折れそうになった。


休憩しながらマップを見ると、しばらく山間(やまあい)を走る。


蛇行しながら流れる信濃川に沿ったり、飯山線に沿ったりしながら走り続ける。


少し遅いランチを、津南町の今井オアシスパークという緑地で食べた。赤茶色のトラスの橋を見ながらのんびり食べていたが、今まで祠に気を付けて走っていなかった事に気付く。


景色や雰囲気で気分が良いのと、ひたすら距離を走るプレッシャーで、周囲に気が回らなかったのだ。


(本当はのんびりおにぎりなんか食べてる場合じゃない状況なのに、祠の事を気にせず走ってしまった。この先は登り下りも多いだろうから、少しペースを抑えて、祠にも気を配ろう。)


小次郎はそう感じながら、自転車を走らせた。


しばらくして、トンネル。しかも長いトンネルが2連続。

トンネルを抜けるとそこは雪国……ではなく、漆黒の道路。トンネルを走っている間に陽が暮れて真っ暗だった。


どの位走っただろう。暗くて距離感が掴めなかったが、川の水の音がよく聞こえてきた。進行方向で右側、ちょうど小さい緑地があったので、ここで夜明かしと決めた。


川の水の音が心地良く、眼を(つむ)ると直ぐに寝てしまった様だ。


翌日……起きて驚いた。心地良く聞いていた水の音の正体。

小さな水力発電所の様だった。


上からの見た目だが、すごくメカニックな場所だった。後になって聞くと、東京電力の設備ならしい。西大滝ダムと言う名称も付いているとか……。


また、もう一つ気付いたのは、信濃川がいつの間にか千曲川に変わっている。⁉︎⁉︎⁉︎

 

 道を間違えたのかと思いマップを確認すると、ずっと手前で川の名前が変わっていた。

 

 新潟県側が信濃川で長野県側が千曲川と言う事らしかった。


 今度は祠にも気を配りながら走り始めた。


 昼になる頃、飯山城址公園の看板を見たので、ランチの場所は決まった。少し国道から外れるが、広々として良いランチタイムになった。


 ランチを済ませると、城址公園を出て、途中292号に曲がり、中野市を今度は403号へと道を変える。車の多い道を走っていると少し安心するのは何故だろう。


 篠ノ井を過ぎた頃、国道18号に入ってコンビニで休憩。

 洗濯をしなきゃと思いつつ、相変わらずおにぎりと缶コーヒーでお腹を満たした。


 千曲川に沿ったコースを選び、上田市に向かってひた走った。

 途中から152号、142号を走る。


 辺りが暗くなってきた。

 山道になって起伏が有ると身体の消耗がキツい。そろそろ夜明かし場所を決めようと地図アプリを確認する。


 岡谷市方面を目指すが、途中で公園を探して今日は足を止めた。




第二十一話


 翌朝……。


 日の出と共にやはり目覚めてしまった。

 よってここに長居する必要も無く、腹ごしらえの後、直ぐに岡谷市を目指して自転車を走らせた。


 山道がきつかったが、もう今は下りが多くなってきた。岡谷市街はもうすぐだ。


 トンネルポータルに新和田トンネルとあった。曲がりが多かった国道のバイパスだ。


 かなり長いトンネルだったが、ようやくそれを走り抜けた。


 トンネルを抜けたところで小休止。水分補給をしながらマップを確認した。


 距離的にはもうすぐで諏訪大社に到着する。


 守師に会えるかもしれない。諏訪大社の周囲で少し調べ回ってみようと考えた。


 鳥居守や御柱守には会えるかもしれない。諏訪大社と言えば由緒ある場所だし、立ち寄るにはベストだろう。


 小次郎は小一時間、かなりの速度で走った。


 最初に到着する近辺に有るのは、諏訪湖の北側、諏訪大社の下社(しもしゃ)となっている。そして上社(かみしゃ)と諏訪大社本宮が諏訪湖の南側にある。


 また自転車を降りて、スマホで調べ始めた小次郎。

 

 御柱は確かに存在しているが、それでは無く、色々調べていくうちに、1つ気になる画像を見つけた。


 それは、本宮より北側に、手長神社と言う所が有って、そこには小さな祠が並ぶ場所が有る様だ。


 (よしっ。先ずはこの祠に向かおう。)


 小次郎は祠に焦点を向け、目的地とした。


 市街に入り、下社は通り過ぎて、諏訪湖を回った。

 

 途中にコインランドリーが有ったので、人が居ないのを見計らって上下の下着を着替え、洗濯開始。

 

 マップを確認して待った。


 洗濯が済み、出掛けると、諏訪湖東の辺りにようやく手長神社を見付けた。


外に自転車を停めて、徒歩で画像に有った祠の並ぶ場所を目指した。


 その場所に来てみると、確かに小さな祠が並んでいた。


 小次郎は手前端から順に見ていった。


 花やお賽銭が有る祠が多い。お札が入った祠で、ぼた餅を供えてある祠……。


 (有った!格子の扉の中にお札が祀られている。……でもぼた餅は供えられていないな。)


 結局最後の祠まで見たが、それらしい祠は1つだけ。


 (ここの祠は守師が付いていないのかな?お供え物も無かった。)


 引き返し、もう一度確かめたが、お供え物は無い。

 お札は確かに祀られていたが……。


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