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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜に話は

作者: ss

深刻な話、大事な話、そういったことは夜に話し合わないで、拗れてしまうからね。

シャワーを浴びる音が私の隣で浴びているのかと思うくらいに煩く部屋に響く。

これでは生活音は隣に丸聞こえなんだろうなって、水音とニュースキャスターの声を聞き流しつつふと思った。

やかんの沸騰を知らせる笛がさらに重なる。

三つの音が重なって不協和音で支配された音の世界を彼の携帯の通知が切り裂いた。

同時に水音が止まったけれど、それより私の視線はテーブルの上の携帯へと吸い寄せられていた


「まい『大丈夫だよきっと、楽しみだね』」


通知とともに光って一件のメッセージ。


響き渡る音が私の中に生まれた不安や疑惑を大きく膨らませていくのを感じた。


突然に居心地が悪くなって逃げだしたくなる私をシャワーをすでに終えた彼が出てきて通路をふさぐ格好をとる。


彼が慌てる私と携帯とを見比べて慌てだした。


「咲、それはお前の思っているようなことでは」

「いい」


彼を押しのけて玄関のドアに手をかけて、

「わかってるって、いやわかんないけど。どういう事情でも明日はなそ。今日は帰るね」

「咲まっ」


彼の言葉を待たずにしまったドアは彼の言葉を拒んで、途切れる。

そうゆう話は夜にしたら碌なことにきっとならないはずだ。

驚くほどに冷静だった。


アパートの階段を降りるときにカバンを持っていないことに気付いたけど、今更取りに帰れないからネカフェに初めて入ってみた。



朝、バキバキになった体の悲鳴で目を覚ましたから寝覚めは最悪。

だけど心はなぜかすっきりとしていた。今から振られるか、通るわけのない言い訳を聞かされるか。マイちゃんの乱入かもしれない。どれになるだろうか。


振られると考えるたびに心に無数の針が刺される感じがした、

彼が浮気をすることに何の不思議も湧いてこない私がいる。

会うのは大抵外で、それ以外は彼の家だったし、料理すら手で数えるほどしか作ってあげたことがなかった。


そんな私を直すから。

何にもないよって、言い訳も必要なくらいあっさりと流れてはくれないだろうか。

次の日曜は休みを取ってどこかへ行きたいな。二人で、


だからどうか、今日の夕方私たちが彼の家で笑って、テレビを見て、一緒にご飯を食べていたいよ。






角を曲がると、臭かった。

目をこすって不明瞭な視界をクリアにしたら、彼の部屋は黒焦げに、なっていた。

もう火は出ていなくて、もうすべて終わった後だった



後で聞いた麻衣さんの話によると出火元はキッチンで、彼がいた部屋のドアを本棚が塞いでいた、らしい。


彼女から渡されたのは死んでいない私の携帯と、彼からの誕生日プレゼント。

そしてなぜそばに居なかったのかという言葉。彼女の言葉は正しかった。


私は彼を殺したようなものなのだ。


いつもより大きく思える夕日が私を優しく包み込んでいた。

マンションのフェンスに手をかけてもたれて、行きかう車を眺めていたら歩道ではこちらを見る人だかりができて、歓声が聞こえてきた。

諦めた私はそのまま一歩を踏み込んだ。歓声につつまれながら。









こうしてわたしは兄を事故で亡くし、人を一人殺してしまった。一日にして。



深刻な話、大事な話、そういったことは夜に話し合わないで。


でもこんなことも言われたことがあります。

その時その時を大切にして、大切な今は次の瞬間には壊れているかもしれないから。

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