第28話 決戦直前
「決勝戦の種目は…複合競技です」
おお…熱いな。真っ向勝負も面白いんじゃないか?
「複合か…まあ勝てない事は無いな」
「東牧高校の三回戦は何点だったっけ?」
「確か43点だな」
「じゃあ、得点で考えると一応私たちの方が高いんだね」
勝ち目は十分過ぎるほど有るな…だが実力の差はそこまである訳では無い。
「私たちなら勝てると思うけど、多分かなりの接戦になると思うな」
「間違いなく今までの相手の中で一番の強敵だ。さっきも言ったがメンバーを入れ替えてくるともう勝負は完全に分からなくなるな」
「ここで30分の休憩を行います。東牧高校と大谷高校の選手は準備を行ってください」
「うーん…とりあえず準備に行こうか」
…
勝てる保証はない。しかし確実に負けると言う事も無い。
「みんなちょっと早めに準備してね!後半の10分くらいで相手の特徴確認するよ」
「「「「はーい」」」」
遂に実力を確かめる時が来た。俺たちがやってきた事は間違っていないはずだ。
あー…ダメだ。緊張してきた。心臓の音が良く聞こえる。
「ここで負けたら二年間アイドル同好会でやってきた事が無駄になるぞ」
集中だ…自分に自信を持とう。俺なら出来る…俺なら出来る。
「はぁ…衣装着るか」
色々あったがこの衣装を着るのもこれで大体10回くらいだ。…まあ今日は一々着替え直してたしな。動きやすいは動きやすいのだが、重いので長時間は着てられないのだ。
着るのも手馴れた物だ。今日この衣装着るの五回目だからな。
「大体順番も覚えたし、構造も解ったが…本当良く作ったな」
デザイン研究部の人達に感謝だ。作ってる時は楽しかったし、いい練習になったって細川さんは言っていた。
…
「えーっと…あと20分だね」
20分あれば余裕は出来るな。
「そしたら、10分くらいでメイクしてね」
「「「「はーい」」」」
メイクの技術も自分で知らないうちに上がっていた。まだ全然今川さんとか最上さんには敵わないがな。
…入れ替わっていない時に最上さんが俺に地雷メイクをして遊んでいたのはある意味いい思い出だ。
今川さんが俺の身体で本気のメイクしたらどうなるんだろうな。今川さんも最上に負けないくらメイク力は高いのだ。ここ最近の一、二ヶ月程度で身につけた俺の実力とは比べ物にならない。
「波多野君!こんな感じでどうかな?」
「大体良いと思うが、もう少し目の下にハイライトを入れても良いと思うな」
「ありがとうね」
「ああ」
俺と今川さんが入れ替わっているのを知らない四人はきっとなんで波多野先輩はこんなにメイクの知識があるの?と疑問に思っているだろう。…俺が逆の知らない立場だったら少し気味が悪くなるかもな。
…と、そうこう話をしている間にメイクも完成だ。
「うん!大体完成かな」
「いい出来だと思うぞ」
「みんなももう大体完成してるみたいだね」
相変わらず最上さんの出来栄えには拍手を送りたくなる。
「本当綾香ちゃんはメイクが上手いね」
「そう言って貰えると嬉しいですっ!」
「みんな終わったかな?そしたら一回集まろうか」
「「「「はーい」」」」
全員調子はいいみたいだな。最上さんも大丈夫みたいだし。
「じゃあ、相手の特徴を確認するぞ」
「まず第一に東牧高校はダンスが上手いね」
「ああ。だが、歌唱力と言う点で見るとそこまで良い訳では無いな」
「それと、私たちには一つ絶対的なアドバンテージが有るんだけど…なにか分かる人居るかな?」
「それはやっぱり情報が少ない事じゃないですか?」
一発で当ててくるとは…流石だな。
「唯ちゃん正解!その通りで、相手の東牧高校は色んな情報があるけど、このチームは多分どの相手も注目して見てなかったと思うんだよね」
「まあ俺たちは一回戦で高得点を出したから、そこからずっと俺たちの試合の動画を撮ってるチームもあるかも知れないが…それでも情報量の多さと言う所では俺たちの優位は変わらないな」
「やっぱり、相手の得意な事を徹底的に練習してその相手よりも良い物を見せるとか、相手の苦手な所を突いてそこで勝負するとか、そういう事をするのが一番得点は取れるんだよね…だから比較的歌に重点を置いて練習してきた訳だしね」
「そうだな。だから情報だったりは大事なんだぞ」
なんか自分でもびっくりするくらいスラスラと説明が出てきた。
「実力でも負けてないし、情報だったり戦術だったりでも勝ってるはずだから東牧高校は強敵だけど今年が一番のチャンスだと思うんだ」
まあ来年からは俺たちの戦術や得意分野、苦手分野も研究されて勝つのが難しくなって来るだろうからな。ダークホースとして今年はこの上ないチャンスなのだ。
あと3分だ。結城さんの落ち着き具合が凄い。もしかしたら俺の方が緊張しているかもしれない。
「はぁ…ドキドキするね」
先攻は東牧高校だ。一体どれほどの実力を見せて来るだろうか。でも、東牧高校のできがどれほど良くても、勝てる自信はある。
まさに決戦直前…勝負の始まりはすぐ近くである。