第26話 アメリカン・ドリームに向けて
あと1時間、いや30分早くこれに手を付けてれば間に合ったと言う後悔
「得点は…44点です」
おぉ!?一点差か…これは面白い展開になってきたな。
「なんか意外…と言えば意外だね」
「俺も並んで来ると思ったからな」
少なくとも月島東高校と俺たちだとルックスは俺たちが強い訳だ。
対応では5点差で月島東高校が、複合では4点差で俺たちが得点で勝っている。月島東高校は一回戦の演技をやっていないので、勝てるとしたらルックスか複合だな。ただ二回連続でルックス審査という事は無いだろうから、まあ複合が来てくれたらラッキーだ。
「出来れば複合が良いですね」
「そうなんだけど…そう上手くは行かないと思うな」
「準々決勝の試合が全て終わりましたので、準決勝の種目を発表します」
遂に来たな…
「何になるかな…これ、重要だね」
「準決勝の種目は…演技です」
「演技か…種目としては結果がどうなるか全くの未知数だな」
「でも…対応よりは良かったんじゃないかな」
「勝ち目としては対応よりも有るだろうからな」
PM05:00 新川市体育館にて
「ただいまより30分後に緑川聖高校対東牧高校を開始致します」
30分の休憩だな。俺たちは緑川聖高校対東牧高校の次の試合だから、空き時間になる。さて、どうするか…
「あ!演技だもんね…何番にしようかな」
「二連続演技って事は多分無いだろうから…一番得意な「一番」で良いんじゃないか?」
「そうだね、じゃあ「一番」にしようか」
「「「はーい」」」
そう言えば、結城さんも試合の一時間前だと言うのに緊張した素振りを見せてないな。この大会の空気感の中で実力を出し切れたら結城さんは強い。
…あれ?最上さんが静かだな。って…え?
「あ、綾香…ちゃん?大丈夫…?」
「…」
これは完全に緊張してるな。…なんで急に?
「ああ…駄目みたいだな。ちょっと頼んだ」
「うん…分かった」
…
と、もうお馴染みのカフェまで来た。毎度毎度店員さんに申し訳ない。
「それで…綾香ちゃん、大丈夫?」
「あのっ…ちょっとトイレ行ってきても良いですかっ…?」
「うん、構わないけど…」
最上さんはとりあえずトイレに行ったが…もしかして緊張が身体に出るタイプの人か?
「…しばらく暇だな」
5分後…
「あっ!戻ってきたね」
「すいませんでしたっ…」
「いやいや、全然いいよ!それよりもどうして急にこんなに緊張しちゃったの?」
「自分でもよく分からないんですけどっ…もうすぐ準決勝だなって思ってっ…相手の月島東高校は今まで戦ってきた相手よりも強いよねって思ったらっ…何だか急に身体が思い通りに動かなくなってっ…」
…大体分かってるし説明も綺麗にしてたな。
「綾香ちゃんってさ…緊張が身体に出るタイプ?」
「まあっ…そうですけどっ…」
「じゃあ、あんまり気負い過ぎないようにね」
月島東高校よりも実力はある筈だしな。
「分かりましたっ!けどっ…」
「…うん?」
「あのっ…そのっ…先輩にギューってしてもらったらもっともっと元気が出ると思うんですけどっ…」
…は?あー…びっくりした…急に何を言い出すんだよ。まあ別に良いけど。元の身体だったら流石に断ってたが、今は今川さんの身体だからな。
「うん、良いよ」
「やったーっ!先輩っ!ありがとうございますっ!」
ああ…暖かいな。そして柔らかい。入れ替われたからこそ出来た事ランキングだと今のところベスト3には入る。
「よしよし…元気出た?」
「元気一杯ですっ!」
なら良かったな。…ただ急に抱きついて来るとは思わなかった。可愛いから許すけど。
「それじゃあ、みんなの所に戻ろうか」
「はいっ!」
…
「あ、戻って来たぞ」
「よし、最上さんも復活したみたいだな」
復活方法は想定外だったが。
「それで、今はどんな感じ?」
「もう後攻の東牧高校が終盤に差し掛かった所だ」
「どっちが勝ちそうかな?」
「東牧高校の方がボクは上手に見えるな」
「私も同じです」
今川さんが言った通り、やはり演技では東牧高校の方が優勢か。
「もうここからあんまり時間ないから、今のうちにトイレとかは行っておいてね」
「「「「はーい」」」」
うーん…緊張の素振りを全く出さない大友さんってやっぱり凄いな。俺だってあそこまで冷静には居られていない。
「唯ちゃんは今気持ち的にどんな感じ?」
「緊張と楽しさが半分半分くらいですかね」
「それにしては全然緊張してないように見えるけど…」
「そうなんですよ!いつもポーカーフェイスとか言われるんですけど、全くそんな自覚は無いんですよね」
これだけ感情を制御していて更にそれが無自覚とは…恐ろしいな。
「ほら、結果発表だな」
「只今の試合の結果を発表します」
一体どうなる…
「まず、先攻の緑川聖高校」
45点を超えれば殆ど勝ちは確定だが…
「得点は…43点です」
おお…これは分からないな。
「続いて、後攻の東牧高校」
凄い。耳が痛くなるほど静かだ。
「得点は…45点です。よって、勝者は東牧高校です」
東牧高校が勝ったか…決勝戦が面白い試合になりそうだ。
「じゃあ、私たちは準備に行くよ」
「「「「おーっ!」」」」