第15話 大会前日
6/3 AM6:30 今川家にて
「うーん…」
…眠い。
「今何時…?」
スマホを見る。どうやらまだ6時半の様だ。
「はぁ…」
まさかまた今川さんと入れ替わるとはなぁ…アイドルコンテストも今川さんとして迎える事になりそうだし。
「よいしょ…」
男として生活することのありがたさを感じる気がする。多分入れ替わる事がなかったら一生考えることもなかっただろうけど…
「明日、か…」
アイドル同好会の運命の決まる重要な一日がもう目前に控えている。まあ元の身体で迎えると思ってたけどな。
AM08:00 2年D組 教室にて
「おはよ〜、波多野君」
「ああ、おはよう」
まさかアイドルコンテストをを今川さんの身体で迎える事になりそうだなんてな。
「いよいよ明日だな」
「そうだね…出られないのはちょっと残念だけど」
「本当に俺なんかが出て大丈夫なのか?」
「全然!それに…」
何だ?
「それに…?」
「アイドル同好会の将来は、波多野君にかかっているんだし、ね!自信持ってくれなくちゃ私が困っちゃうよ」
「ああ、その通りだな。今川さんの分まで…」
入れ替わる事が無かったら一生経験しない舞台だし…楽しまないと。
PM04:30 アイドル同好会 部室にて
「いよいよ明日だよ…気合い入れて頑張って行こうね」
「「「「おー!」」」」
「じゃあ衣装に着替えようか」
「「「「はーい」」」」
えーっと…まずはスカートからか。これは何とかなる。
…問題はここからだ。まず昨日も一昨日も思ったがトップスの構造が分からない。何をどの順番でどう着るのか全然覚えられない。そもそも普段の制服を着るのにも一苦労な俺にこんな事が出来るはずない。
…
やっと着れた。ここまでに多分五分はかかっている。でもこれで最後だ。ベルトを…これで良いな。あとはハイソックスと靴を履くだけだ。
…
よし…全部着替え終えた。長かった。
「うーん…じゃあ最初はメイクからやろうか」
「「「「はーい」」」」
…やる、と言ったのはいいものの、これも中々難しい。何となくは身体が覚えてるが、細かい調整は自分でやらなければならないのだ。
やっぱり今川さんは可愛いな…ああ、ヤバいヤバい。今の状態だとただのナルシストだな。まあ今川さんが可愛いのは本当なのだが。
…
これでどうだろうか。今川さんに聞いてみるかな?
「波多野君?」
「ん?ああ、どうした?」
「こんな感じでどうかな?」
「俺的にはこれで十分だと思うぞ」
今川さんが何も言ってこないなら…大丈夫だろ。
「最上さん、メイクアップアーティストとかなれるんじゃないか?」
「それも良いんですけどっ…やっぱり私はアイドルが一番好きなんですよねっ!」
最上さんのアイドル好きは普段からひしひしと伝わって来るからな。…まあ俺がメイク終わったんだし全員もう終わってるだろう。
「みんな終わった?じゃあ波多野君にメイクの感想を言ってもらおうかな」
「え?あ、ああ…皆実力はあるしそれがしっかりと発揮されてるから完成度としては全員高いと思うぞ」
「うん!波多野君の言う通りだと思うよ」
やっぱり慣れないな、これ。
「じゃあ次行こっか!次は…複合練習しようね」
「「「「おー!」」」」
相変わらず元気のいい返事だな。
…
うん、これで準備よしだ。
「波多野君、お願いね」
「了解」
うーん…踊りながら歌うのって結構キツイよな。…気を抜くとすぐ息が持たなくなる。
…
「はぁ…次行こっか。今度は演技だね」
「「「「はーい」」」」
キツい。
…
よしよし、みんなしっかりと練習でやった事が発揮されてるな。もしかしたら明日優勝もあるんじゃないかと思うほどにな。
それは流石に言い過ぎか?…いや、そんな事はないな。全員実力はあるし、それも十分に発揮できてる。何だか今川さんと同じような事言ってるな。
…結城さんが本番暴走しないか心配だが。
「うん!みんな上手く出来てるね」
「その調子で明日も頑張れよ」
「「「「はーい」」」」
「対応の練習は…もう時間がないね」
しっかり時間を見ておけば良かったな。
「みんな、明日はしっかりと実力を発揮して頑張ろうね!よし円陣組もう、円陣!ほら、波多野君も」
入れ替わって無かったら色々とヤバかったかもしれないが、それは気にしない方向で行こう。
「明日は頑張るぞー!」
「「「「「おー!」」」」」
「…あ、そうそう。衣装は持って帰ってね」
PM8:30 今川家にて
さっきからずっと何か忘れてる気がする。何だったかな…?
…ん?L〇NE?
「明日の持ち物確認するぞ」
それだ!いやぁ…今川さんが言ってくれて良かった。
「衣装に飲み物、タオル、あとは諸々の費用って所だな」
「電車移動するからね!集合は六時半に大谷駅だよ」
…やっぱり最上さんはスタンプなのね。
…
あと十二時間もすれば勝負が始まる。アイドル同好会は明日と明後日で運命が決まるのだ。
それぞれが色々な思いを持って明日の大会にやって来るだろう。ある意味もう勝負は始まっているのだ。
後はもうベッドに横になって目を閉じるだけだ。
俺は息を大きく吐き、そっと夜空を見上げる。
…月が綺麗だな。
これで第1章は終了です。いかがだったでしょうか。少しお休みを頂いてから第2章も投稿させて頂きたいと思います。(15話書くのに2ヶ月掛かっている奴が何言ってるんだって話ですが)
それでは、第2章も乞うご期待!