表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

9

 泥を跳ね飛ばしながら、ユキは全速力でドローンを追いかける。凸凹道にカタカタとボディが振動する。


ーーーーーーーーーーーーー

振動を検知! 振動を検知!

ーーーーーーーーーーーーー


 演算装置が悲鳴をあげる。


(演算装置、精密機器に『ハルマゲドン』の衝撃波が与えるダメージは?)


 ガタピシ ガタピシ ガタピシ


 小石が跳ねて、ボディに引っかき傷をつける。


ーーーーーーーーーーーーー

振動を検知! 振動を検知!

ーーーーーーーーーーーーー


 演算装置は悲鳴をあげながらも答えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

計算中……完了

一時的に動きを停めるなら、成功率32%!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(32%……)


 そもそも『ハルマゲドン』に殺傷能力などないのだ。


 ガタガタとボディが揺さぶられる。酷い振動に、足首のネジが緩み始めている。締めが甘かったようだ。


 夕焼け空の向こう。巨大な円筒形――浄水場の配水塔が見えてきた。ドローンはまっすぐ、巨人のようなシルエットに向かっていく。地上から必死にそれを追う、ユキ。それを、遥か上空から何者かが見下ろしていた。



◆◆◆



 家に帰ると、ヒナちゃんが一人で庭にいた。ユキは?


「あのね! あのね! また悪いUFOが来たんだよ!」


 碧人を見つけるや、ヒナちゃんが興奮気味にそう言った。


 悪いUFO??

 ドローン?!

 

「ユキ、捕まえるって追いかけてったの!」


「え?!」


 なんだって?!


 詳しく聞こうと碧人が口を開こうとした時、テレビ電話のコールが鳴った。少し苛々しつつも、通話をタップする。


 相手は昨日会ったばかりの元同僚だった。彼は焦った声音でこう告げた。


 AI誤作動のきっかけがわかった、と。


「例のAIな、Sky-Ray経由して『アップデートの要求』をばら撒いていやがった。応えると、奴のデータ――分身がコピーされる。自我を持ったウィルスだよ」


 Sky-Rayは、一昔前のWi-Fiに代わる無線LANシステムで、高速で安全な公共回線として広く利用されている。企業然り、一般家庭然り。


 オンライン接続しているAIなら、『アップデート要求』はちょくちょく受取るメッセージだ。管理する人間も、怪しむことなく【YES】をクリックしてしまったと思われる。



 血の気がひいた。


 ユキはオフライン稼働だ。けれど、無線通信――Sky-Ray電波の受信自体はできる……!



「アップデートシテ! アップデートシテヨ! アップデートシロヨ!!」


「はい?! え?!」



 突然の警告音と、アップデート要求には覚えがある。

 あの時、碧人は咄嗟に「はい」と言って……。


 ユキは自分を元気づけようと『嘘』をついて。

 頬を包む温もり。心配そうな眼差し。

 機械にしては、妙に『人間らしく』て……。


 ドクドクと心臓が暴れる。


 元同僚は続ける。


「感染した場合、初期化処理じゃ効かない。HD(ハードディスク)を破壊しなきゃダメだ」


 もしも……もしも『自我を持ったウィルス』にユキが感染しているのなら。

 操られてしまう前に、彼女を……壊す?! そんなっ!


 それ以上は、頭が考えることを拒んだ。

 喪うことが、怖くて。


「そうだ……ユキは……」


 彼女に攻撃プログラムなどない。相手はテロ組織のドローンかもしれないのに。

 いても立ってもいられず、碧人は家を飛び出した。



◆◆◆



 距離8.53m、高さ5.07m……。


(もっと速く! もっと速く!)


 ネジが緩んだ右足首が振動に負けそうだ。脱落する可能性が高い。ドローンとの距離は、無理にスピードを出しているせいか、少しだけ縮まった。


ーーーーーーーーーーーー

エネルギーチャージ……34%

ーーーーーーーーーーーー


 人間なら息が切れる、と表現すべきなのだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

警告:バッテリー切れの恐れがあります

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 演算装置の警告。充電したのは昨夜。バッテリー残量はわずか!


(でも、でも!)


「あと少しで、射程圏内、なノ……!」


 …………。


 …………。


ーーーーーーーーーーー

ひとつ、方法があります

ーーーーーーーーーーー


 演算装置が言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

音響で対象のHD(ハードディスク)に振動ダメージを与えるのです

ただし

貴女も同じ、もしくはそれ以上のダメージを被ります

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…………」


 ガチャガチャガチャガチャ


 右足首が……!


「音響攻撃、やるノ!」


ーーーーーーーーー

了解……

音響合成……完了

最大出力、3、2、1、

ーーーーーーーーー


「~~~~!!!」


 ガチャン!


 右足首、脱落……!


 ノイズの混じる視界に、グラリと傾くドローンの機体。次の瞬間、ソレはくるりと振り返るや、ユキ目がけて数発の銃弾を発射した。



◆◆◆



 被弾の金属音、内部回路が破壊され、白い火花がユキのボディを燃やす。


 ユキの音響攻撃は確かにドローンにダメージは与えた。しかし、撃墜はできなかった。ドローンは、燃え上がるユキに背を向け、巨大な配水塔に照準を合わせた。


【人間ヲ滅ボス。水、奪ウ】


 ドローンが目標に小型ミサイルを発射しようとした時、ゴン、と上から大きな振動を受けた。


「カァー」


 矢のように舞い降りた黒い翼――カラスだ。

 プロペラの無い最新型故に、ドローンは上からの攻撃に無防備だった。


 ゴン、と、今一度の攻撃。くちばしだ。


 ユキの時と同じように、ドローンはカラスを銃撃しようとするも……残念、弾切れだ。


「カァー」


 ゴン、とまたも攻撃を受ける。


 ユキは不本意とはいえ、カラスにエサを与えていた。よって、カラスはユキを攻撃したドローンを敵と見なした。


【ボディニ亀裂! 攻撃ヲ回避セヨ】


 エンジンをふかしスピードアップ。一直線にカラスに突撃して追い払い、ギュイーンと急旋回。再び配水塔へ……。


 ペシャッ


 奇妙な音がした。


 バチッ


 火花が散り、ドローンからもくもくと煙があがる。


【ナ……?! コレハ、(フン)?! クソッ!】


 コントロールを失い、フラフラと墜落するドローン。やがて、浄水池の一つに小さな水柱が上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ