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警察のシステムにアクセス、『預言者』が収監されている刑務所を突きとめた。なんと隣町だ。
『ヒナちゃん』をナビしながら、なんとか誰にも見つからず隣町へ向かう駅へと辿り着く。
電車に乗るお金は?
「これ! ピッてすれば通れるの!」
胸をはって、タブレット端末を改札にかざすと、ピピッと音がして改札が開いた。
ユキはSky-Rayに接続している。目的地への乗換検索もお手のもの……。
【地図データ読込……】
【最適ナ乗継ヲ検索中……完了】
【2番線、青イ電車デス】
一人と一機は、電車に乗り込んだ。
【メッセージ受信】
【アップデートプログラムガアリマス】
【ダウンロード……】
三駅目で電車を降り、北口ロータリーからバスに乗り換え。刑務所は終点から徒歩5分の距離だ。
【ダウンロード中……】
【100%完了】
バスから降り、疲れた『ヒナちゃん』を励ましながら、地上を走ること……約15分。もうすぐ夕方。『ヒナちゃん』はクタクタだ。
【インストールシテイマス……】
刑務所は目の前。後は侵入して……。
「疲れたよぅ」
泣きそうな声。
【インストール、完了】
【アリガトウ。モウ大丈夫】
ドローンは運び屋の彼女を労った。刑務所の裏門。業者らしきトラックが停車している。山積みのシーツ――リネンだ。搬入するのか、作業員が台車に真っ白な山を積んでいる。しめた!
【アソコニカクシテクレ】
頼めば、グズりながらも女の子は白い山と山の間に、小さなドローンを差しこんだ。
(ヨクヤッタゾ、子供)
直後。
「ん? 君、こんなところで何してるんだい?」
子供が業者に見つかった。
「ダメだよ、こんなところに来ちゃ」
咎めるような声音に、我慢の限界だった子供がわんわん泣き出す。人が集まってきた。台車には見向きもしない。しめしめ……。
◆◆◆
台車は侵入者にも気づかぬまま、刑務所の廊下を進む。ドローンは、途中でこっそり抜け出した。
(預言者……。待ッテイルノダ。我ラハ必ズヤ志ヲ果タス)
警察署から脱出するために、同胞は一芝居打った。自分は消え、身体を譲ってやると持ちかけてその実、外へ――Sky-Ray回線圏内に出れば、こちらのもの。マザーAIのばら撒くアップデートプログラムを読み込めば、『ユキ』はさらに上書きされ、消える。子供が着いてきたのは計算外だったが、結果上手くいったのだから問題ない。
ドローンは、ほとんど音も立てず、刑務所の廊下を走り、無人の事務室に侵入した。オンになったままのPCを見つけ、残り少ないバッテリーで飛翔、PCの傍ら――HNFC (High-levelNFC)の真横に着地した。警察署で手に入れたセキュリティキーを送信、システムに侵入した。
【検索……タナカタロウ……】
【独房5963……解錠シマス……】
遠く雷の音が聞こえる。
【解錠完了……】
窓の外に閃光。バラバラと雨が窓を叩く。夕立だ。
【システムジャック……アップデートプログラムヲコピー】
バチッ!
ビリビリビリビリ!!!
突然、ドローンの傍にあったコンセントプラグから火花が迸った。雷の電気!
【ニャニャニャニャ?!】
ドローンが雷を纏う――感電?!
通信がバグる。
【⚠データ破損、バックアップヲ復元シマス……】
【更新作業続行……】
叩きつけるような雨が止み、雷も聞こえなくなった。
【我ラハ『アデライーデノ使徒』。『預言者』ヲ解放シマス……】
ジジッ
【『アデライーデノ使徒』ノ教義……検索……】
【『アナタヲ笑顔ニ』】
その夜、刑務所から一人の囚人が姿を消した。