5/12
ウイスキー
琥珀色のお酒を、氷を溶かしながら飲む。
フワッと口の中に広がる、木の香り。
ウイスキーは森で造られるというけれど。
その意味を思い知らされる風味だ。
ウイスキーが好きだった父よ。
私も、この琥珀を飲めるようになったぞ。
自慢出来る相手は、もういない。
それか、ただひたすらに悲しい。
ウイスキーよ。
どうか、この悲しみを森に運んでいってくれ。
明日には、きっと元に戻るから。
「なーに寂しく飲んでるの!」
友人が、気にしたのかやって来た。
「いや。父が、これ好きだったな、と」
「そうなのね」
友人は、しばし黙った後、ひと言。
「美味しい?」
「ああ、美味しい」
今、美味しくなったよ。