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生徒会への道

絢爛高校に入学してから、一週間がたったある日の朝。各教室に一枚の紙が配られた。


 「生徒会員募集!!。説明会は、本日放課後16時より生徒会室にて。志のある生徒、特に新入生は大歓迎。生徒会長渡久地怜香。」

 その紙を見た瞬間に俺は、何故かソワソワしてしまった。渡久地怜香に会える、そう思うとなかなか授業に集中できなかった。早く放課後になってほしいとこれほどにまで思ったのは初めてのことだ。


 「おい、篝火。この問題わかるか?」

 「えっいやわからないです。」

 「これ中学レベルの問題だぞ。お前今日ずっとぼーっとしてるぞ。一回顔でも洗ってこい。」


 俺は、急いで洗面所で顔を濯いだ。しっかりしろ、入学してまだ一週間だぞ。俺ともあろう男がたかだか生徒会の募集要項を見ただけで取り乱すとはな…。とにかく早く教室に戻らないと。


 駆け足で教室に戻る最中、廊下に掲示されてある新聞と目が合う。新聞部が作ったであろうその新聞の一面には、生徒会長である渡久地怜香がでかでかと写っていた。思わず足を止め、新聞に目をやる。


 「やっぱり会長は綺麗だなぁ。」

 そんなことを呟いていると、向かいから森本が歩いてくる。俺は、大慌てで教室に帰った。


 集中しようとすると、頭に会長の顔がちらついてしまう…。その後全く授業に入ることができなかった。


 放課後になりクラスメイト達が続々と帰っていく中、俺が生徒会室に向かおうとしたとき廊下から、


 「生徒会に入ってみようかなぁ。あの渡久地会長に毎日会えるんだぜぇ〜。ムフフ。」

 「お前なんか会長に相手にすらされねえぞ。」

 「そんなこと言うなよ〜。可能性は無限大なんだよなぁ。」


 …あまり聞きたくない声が聞こえてきた。あの喋り方は安村と山田健太郎に違いない。俺は聞こえないふりをして廊下を歩いていると、


 「征弥じゃないか〜、お前も生徒会に入るのかぁ。やっぱりお前も会長狙いなんだなぁ〜。」

 「お前らと違って俺は真っ当な理由で、生徒会に入るつもりなんだ。一緒にするな!!」


 こいつの喋り方は本当に人をいらいらさせる。あっけにとられた顔をしている安村と山田健太郎を無視して俺は生徒会に向かって歩をすすめた。


 生徒会室は俺達一年生の教室がある新館から、渡り廊下を渡った旧館にある。ちなみに、旧館には生徒会室と学園長の部屋しかない。しかし、大きさは生徒達の教室がある新館や、体育館その他部活動のための設備がある本館に引けを取らない。かつては、そこに教室があったが老朽化に伴い新たに新館が建てられた。どうやら取り壊そうにも、旧館が県の重要文化財に指定されているらしく、取り壊せずにいるというのが現状らしいが……。


 俺が生徒会室についた頃には、すでに30人以上の生徒達が生徒会室の前に並んでいた。列の最後尾に並び、スマホで時間を確認する。15時50分を少し回ったところだ。それから間もなく生徒会室が開き、俺達は恐る恐る中に入っていく。そこは生徒会室と言えるものではなく、大手企業のオフィスかと見間違えるほどであった。大量に並べられたデスクとパソコン、少し奥に行けば会議室があったのだが、スライドが完備されプレゼンもできる。さらには、椅子すべてが〇〇家具の高級椅子だ。生徒会役員はこんなところで活動しているのかと俺は思わず身震いした。俺にお似合いじゃないかなどといういつもの自信は全く湧いてこなかった。


 「ようこそ生徒会室へ、私達生徒会役員は皆さんを歓迎いたしますよ。」


 聞き慣れない声に思わず振り返ると、

 「本日説明を行います、生徒会副会長内野匠海と申します。志望者の方は、あちらの机に詰めてお座りください。」


 俺は勿論一番前に座った。説明会とはいえ、やる気があるところを見せないと後々不利になるかもしれないからな。それにしても内野匠海と名乗った男は、清廉かつ美系だ。三国時代の美周郎と呼んでも差し支えないだろう。絢爛高校にはどうしてこうも二物も三物も与えられた奴らばかりなのか……。


 「絢爛高校生徒会では様々な業務があります。まず最初に紹介するのは、生徒に対する処罰の決定です。絢爛高校は他の高校に比べて校則が緩く、概ね生徒一人一人に判断が委ねられています。しかし、そのことを悪用し学内で不良行為に及ぶ者も少ないとはいえ存在します。そのため我が生徒会には風紀の徹底のために、生徒への罰則を行う権利があります。次は……。」 


 よどみなく業務の説明が行われていった。絢爛高校生徒会は、来るもの拒まずの精神らしく名簿に名前が載っていれば生徒会役員になれるそうだ。勿論最低限の学力、品行方正でなければ名簿から消されるらしいが……。

 付与された権限は主に2つ。生徒への罰則権、そして学園内の全ての催事及び、予算の決定権だ。…まさかここまで生徒会の権限が強いとは思わなかった。流石は県内屈指の進学校の絢爛高校だ。


 「生徒会の説明は以上です。最後に、名簿に自身の氏名、出席番号、学年、クラスを記入してください。」


 約30人程の生徒達が書き連ねていく。名簿が出口にあったせいで一番最後になってしまった。俺が名前を書き終わったとき、生徒会室の扉が勢いよく開いた。


 「おいーっす。そろそろ会議の時間っすよね。間に合ってよかったぁ。あれ、会長は?」

 そう言って飛び込んできたのはいかにも元気っ子な、茶髪混じりの髪のボーイッシュな女子生徒だった。


 「会長は今職員室で会議をしている。だから今日は生徒会の仕事はないんだ。帰っていいぞ。」

 「えぇ〜、せっかく今日は部活ないから走ってきたのに。あれ君、見かけない顔だね。新入りの子?私、2年生の葛城梨華って言うんだ。よろしくね。」

 「よ、よろしくお願いします。」


 梨華は俺の応答を聞くやすぐに

 「君の名前って難しいねぇ。なんて読むんだろ。か、き、…。」

 「かがりびゆくやです。」

 「へぇーっ、かがりびって読むんだ。かがりびゆくや……かがりびゆくや……かっこいいね。私は好きだよこの名前。なんか漫画の主人公みたいでさ。」


 俺は思わずドキッとした。生まれてこのかた名前を褒められたことなんて一度もなかった。しかも初対面で。

 「あ、ありがとうございます。ええっーと……。」

 「ちょっと照れてるじゃん。アハハハッ、やっぱり新人は恥じらいがないとねぇ。」 

 「そこまでにしておけ、しつこいぞ。」


 多分、内野副会長が止めていなかったらずっとこのいじりが続いていたんだろうなと俺は止めてくれたことにホッとした。

 「すまないな、こいつ普段はもっとおとなしいんだが今日は会長がまだ来てないからな。」

 「いえ、全然気にしてないので大丈夫です。」

 「後輩に無下に扱われた。ムーっ。」

 「お前らしくてちょうどいいな。」

 「もーっ、匠海まで一緒になってぇー。」

 俺たちが談笑していると、生徒会室の扉がスッと静かに開いた。


 「あらあなた達随分と楽しそうね、私も混ぜてくれないかしら。」

 目を向けた先に立っていたのは生徒会長渡久地怜香だった。

 「あなた、篝火征弥君よねようこそ生徒会へ。」

 自分の名前を何故知っているのか不思議そうな顔をしていると、


 「新入生の顔と名前はすべて把握しているわ。それにさっきの会話、外で聞いていたもの。」

 この人はやっぱり凄いと思ってしまったし、自分の名前を覚えているということが何より嬉しかった。

 「ところで、ここにいるということは生徒会に入ったのよね?」 

 俺がそうですと答えると怜香は、唐突に


 「私はあなたを、この絢爛高校の生徒会長に相応しい人物だと思っているのだけれどあなたはどう思う?」

 俺は呆気に取られた。が、すぐさま

 「もしできるんなら生徒会長をやりたいです。」

 と言ったのを見て、怜香は

 「フフフッ、やっぱりあなた生徒会長に相応しいわ。普通の生徒なら謙遜するか、混乱してまごまごするだけよ。私の見る目は間違ってなかったわ。篝火征弥、あなたを絢爛高校次期生徒会長に推薦します。」


 「えっ、でも生徒会長って選挙で選ぶんじゃ…。」 

 さっきまで生徒会の説明を受けていたし間違いない。生徒会三役は選挙で選ばれるはず。しかし、怜香は

 「説明ちゃんと聞いてなかったのかしら、生徒会には絢爛高校で行われる全ての催事の決定権があるの。だから、生徒会選挙をやるかやらないかは私の判断次第よ。それにあなたを教師陣、学園長に次期生徒会長にするということがさっきの職員会議で決定したし、今更覆すことはできないわ。」


 俺は初めて恋慕、尊敬以外の感情を渡久地怜香に抱いた。恐怖だ。この高校の実質的な権力者は誰であるかはっきりとわかった。しかし、ここで逃げてしまえば篝火征弥じゃない。この高校でも一番になると決めたはず折角のチャンスだ、やるしかない。

 「事情はよくわかりませんが、生徒会長を引き受けます。」

 俺がそう言うと、 


 「私がみこんだだけのことはあるわね。並大抵の精神力じゃないわ。まぁでも流石に新入生をいきなり生徒会長にするのは簡単には許可が降りなくってね、川滝学園長から条件を出されているのよ。」 


 あの川滝学園長のことだ。もしかしたらとんでもない条件を課されるかもしれない。俺が身構えていると、 

 「そんなに身構えなくても大丈夫よ。条件はただ一つ、来月行われる定期試験で学年一位を取るだけ。一番を目指しているあなたには簡単なことよね?私は勿論取れると思っているわ。頑張ってね。話はここまでよ、引き止めてしまってごめんなさい。」

 「あ、いえそんなことないです。それでは失礼します。」

 俺は深々とお辞儀をして生徒会室を後にした。


 「あいつに任せて大丈夫なんですか会長?色々とサポートをしたほうが会長の面子も保たれると思うのですが……。」

 「大丈夫よ、匠海君。彼ならやってくれると信じているわ。さてと、私達もそろそろ帰りましょうか。下校時間も過ぎてしまっているし。」

 怜香は顔に微笑を浮かべながら、生徒会室を出た。

 

 

 

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