入学早々
終業の鐘が鳴り響いている頃、俺は危機的状況に陥っていた…。
「なぁなぁ、征弥ってさぁなんか趣味とかあんの〜。ちなみに俺はアイドルが好きなんだよねぇ〜。あとさ〜……。」
そう、最も関わりたくなかった山田健太郎である。初対面のくせに異常なまでに距離感が近い。自分から話しかけてくるまではいい。まだ許せる。
しかしこいつ全く人の話を聞かない。俺が少しは気を遣って、へぇーだの凄いなぁだの相槌を打ってみるのだが、かえってこの男には逆効果かもしれない。こいつは話が通じるやつだと思われてどんどん話すペースが早くなってきている。もはや何を言っているかさえ理解できなくなりつつある。いや、正確に言えばこいつの言いたいことは分かっている。
如何せん話がとっ散らかってるせいで話の本筋がよくわからない。失礼だが、正直喋っていてイライラする。こんな男と絡んでいては、時間の無駄だ。俺は、山田のマシンガントークからなんとか抜け出そうと、トイレにいくふりをして教室を出ようとしたとき、
「お前さぁ〜、入学式のときずっと生徒会長のこと見てただろ。もしかして会長に一目惚れでもしたのか〜。俺の目はごまかせないぜ。」
山田が大声で言い放ったのを聞いて、心の底から腹がたった。クラスメイトからの好奇な目線を受けながら俺は足早に教室を出た。
夕暮れ時の生徒会室にて……。
「渡久地会長、今年度の入学生の内申表の一覧です。」
「ありがとう、流石私の右腕ね。内野匠海副会長。」
そう言うと、怜香は資料に目を移す。今年の入学生は210人ね、去年より少ないわね。ブツブツと独り言を呟きながら、一人一人の資料に目を通していると、
「あら、この子なかなか素質がありそうね。生徒会に必要な人材だわ。私から声を掛けてみようかしら。ふふっ会えるのが楽しみね。」
怜香は不敵な笑みを浮かべていた。