担任とクラスメイト
入学式を終えると、俺達は講堂に移動した。どうやらそこで新入生への説明があるらしい。用意された椅子に座ると、教師達がぞろぞろと講堂へやってきた。
「今から君たちの学年を担当する先生方を紹介する。まずはじめに、学年主任を務める、福田武雄だ。社会科を担当する、よろしく。」
「次は、国語科を担当する、山野辺麻里先生、その横は数学担当の……」
順に前に並んでいる教師達が紹介されていく。国語科の山野辺麻里、若手の教師であり外見だけで判断すればかなりの美人だ。数学科の斎藤佳彦は典型的なベテラン教師といったところか。社会科担当の福田武雄は、どう考えても面倒くさいタイプだということがわかる。英語担当の岡本雅士は知的で老獪な雰囲気を感じさせる。生物担当の茨城広大は、常ににこやかであり優しい印象を持った。物理担当の、田中則夫はいかにも研究者と言う言葉が似合いそうな男だ。
そして、
「最後に紹介するのは、保健体育担当の、森本拓真先生です。」
「保健体育担当の森本だ。新入生といえども容赦せずビシバシ行くからな。わかったな。」
この森本とかいう男は羆かと思えるぐらいの肉体を持っている。身長は軽く190cmを超え、常に眉間にシワを寄せ目つきが鋭い。過去に人殺しをしたことがあると言われても不思議ではないくらいの風貌だ。少なくとも担任にはなってほしくないと俺は心の底から思った。
新入生への説明が終わり、自分の教室へ向かう。A組へ入り、席を確認する。このクラスの人数は30人であり、男13、女17人だ。前から2列目の席に座り、担任が来るのを待っていた。しばらくして、ガラガラと大きな音を立てながら扉を開けて入ってきたのは、あろうことか征弥が一番望んでいなかった体育教師の森本であった。最悪だと俺は、小さく呟いた。
「今日からお前らの担任を務める森本拓真だ。この絢爛高校に入ったことに満足せず日々、向上心を持つように。」
森本はそう言うと、プリントを配り始める。そのプリントに書かれているのは、時間割、教科担当、校内の地図などだ。俺がプリントに目を通していると、
「今から一人一人自己紹介をしてもらう。やはり初めて知り合う奴らが多いからな。」
そう言うと五十音順に自己紹介が始まる。最初は身長の高い眼鏡男相川秀一、二番目はいかにも天真爛漫な印象の赤井穂乃果、どうやら水泳で全国大会に行くほどの実力の持ち主でスポーツ推薦で入学したらしい。さすが文武両道の絢爛高校だ。
五十音順で言えば俺は、七番目なのだが三〜六番目のクラスメイトはあまり印象に残らなかった。所謂モブキャラだろう。確か、朝井、飯田、井上、奥田、いやもしかしたら奥野だったかな。正直なところ名前すら曖昧だ。程なくして、自己紹介が俺の番まで回ってくる。
「篝火征弥です。この高校で頂点を取りたいと思っています。」
そう言い放つと、割と穏やかな雰囲気であったクラス内が一瞬静まり、すぐさまどよめきに変わる。この反応に俺は、少し驚いた。流石に入学初日に飛ばしすぎたかと思っていたところに森本の笑い声が聞こえた。
「ガハハハッ、やはり絢爛高校の生徒はこうでなくてはな。最初から、明確な目標を持てていることは素晴らしいことだぞ。お前らも篝火のことを見習ったほうがいいんじゃないか。」
その一声で俺は、少し救われた気がした。その後、滞りなく自己紹介は進んで行った。
鉄道オタクの安村に、小説を書くのが趣味だという中谷、見た目はチャラそうな橋本等…。そして俺が、良くも悪くも最も印象に残ってしまったのが、山田健太郎という男だ。
この男、自己紹介のときから変に親しげであり、一人だけやたらと自己紹介が長い。他のクラスメイトと比べると、倍の時間は話し続け、最終的に森本に止められるまでずっと喋り続けていた。こいつとは関わらないほうがいい。俺は、本能的に感じた。