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入学式と初めての感覚

 校門を抜け周りを見渡すと、改めてこの高校の凄さを実感した。


 なんと言っても、校舎の大きさだ。本館、旧館、新館からなるこの建物は、俺の想像の遥か上をいくものであった。更には、そびえ立つ時計塔、全長100メートルは優に超えているであろう競技用プール、壁に掲げられた生徒たちの栄誉を称える垂れ幕など…。


 それらと対峙すると、誰であっても自分自身がひどく矮小なものに見えてしまうだろう。しかし、俺は違う。なんといっても、この県内屈指の進学校にトップで入学しているのだから。相手にとって不足なし。この高校でもトップをとって今後の人生への弾みにでもしようか。そんなことを考えていると思わず身震いしてしまった。


 「お前、なんだか嬉しそうだな。」

 横に居た尾崎が不思議そうな顔をしながらそういった。尾崎にとってもこんなに嬉しそうな顔を征弥がしているところを見たことがなかった。だからこそ、


 「当たり前だろ、ここでも頂点をとるのさ!」と征弥が言ったのを聞いて、

 「お前らしいな。全くその向上心が羨ましいぜ。」と、

 少し卑屈そうに呟いた。


 入学式が行われる体育館の前に向かうと、早速クラス別に2列に並ばされる。A~Gまでクラスがある。俺はどうやらB組らしく、尾崎はA組だ。そのまま2列に並んで体育館へ入場する。


 この絢爛高校の入学式はかなり特殊であり、全校生徒が出席をする。それに厳な雰囲気というわけではなく、入学生に対して手拍子をし時折、入学おめでとうなどの声がかけられる。進学校なだけあり、なかなか自由な校風なのだなぁと征弥は思った。

 

 席に座ると、いよいよ入学式の始まりである。最初に絢爛学園学園長の、川滝大治郎の挨拶だ。


 「諸君、ようこそ我が絢爛高校へ。ここで過ごす3年間で人として大きくなることを期待している。我が絢爛高校は県内屈指の進学校であり、決して近隣の迷惑にならぬようにせねばならん。いずれこの中から次代のこの国を背負って立つような偉大な人物が出ることを願っている。以上。」


 征弥はこの川滝という人物に、初めて畏れと言う感情を抱いた。見た目でもわかるほどに大きく逞しい肉体に立派に蓄えた白いひげは、歴史上の偉人を彷彿とさせる。


 更に、あまりにも簡潔とした挨拶は今まで大人達の長ったらしい話を聞かされ続けた征弥を始め、他の入学生たちにとって新鮮でありあっけにとられてしまった。


 次に、生徒会長の渡久地怜香の挨拶が始まった。先程の川滝を剛と例えるならば、この渡久地怜香はまさに柔と称していいだろう。


 凛として清々しささえ感じる切れ長の顔つきに、丁寧に整えたであろう肩まで伸ばした漆黒の髪は、不思議と神々しさを憶えた。日本神話における伊邪那美と例えてもいいのではないだろうか。


 極めつけは彼女のプロポーションである。すらっとした女として強調するであろうところが惜しげもなく披露され、その姿は戦場に立つ戦女神と見間違えるほどである。後から振り返ってみればここにおいて征弥は初めてこの渡久地怜香という女性に対して恋心を抱いたと言える。


 俺は思わず目を奪われた。そのおかげで挨拶の内容が全く耳に入ってこなかった。今までの征弥であれば、一目惚れした瞬間にその女性に猛アタックを仕掛けていたであろう。


 しかし、渡久地という人物に対しては全くそんな自信は湧いてこなかった。


 「これで入学式を終了します。」

 この一言でハッと我に帰った俺は、どこか心に引っかかる物を憶えたまま会場をあとにした。


 出口付近で壇上に座る渡久地とふと目があった気がした。そんな気さえするほどに彼女に、渡久地怜香に心を惹かれたのであった。

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