第三話
すごく遅くなりました………(´・ω・`)
大学って意外と忙しいですね
「・・・。」
食堂で僕は右手を握ったり開いたりしてみた。
先程まで見ていた夢が忘れられないのだ。
(今日のはいつもと違ったな・・・。)
いつもはもがいて苦しみながら消えていく夢だった。
しかし、昨日見た夢は誰かに語り掛けるような夢だった。
その相手は恐らく・・・
(昨日のナギさんとウルさんだろうな。)
夢の中の僕はこの二人と思われる光に手を伸ばしていたのだ。
それを考えるとやはり昨日、二人の言っていたことは正しかったのかもしれない。
そう一人で物思いに耽っていると、
「零くん?」
「え? って、うわぁ!?」
いつの間にか目の前に雫の顔があった。
それにびっくりした僕は思いっきり椅子から落ちて、お尻を強く打った。
お尻をさすりながら机の上の朝食を確認すると、幸いにも無意識のうちに食べ終わっていたため、机は汚れていなかった。
ひとまず片付ける手間が無いことに安堵して、雫に向き合った。
「え~っと、どうしたの、雫?」
「いや、なんか考え事してるみたいだったから、どうしたのかなぁって思って。」
「あぁ、何でもないよ。」
「そう・・・。」
「うん。 時間も時間だし、そろそろ学校行こうか。」
半ば強引に話を終わらせた僕は時計を見てから、席を立った。
食器を返却口に返して食堂を出ようとした時、ふいに制服の端を誰かに引っ張られた。
チラリと後ろを見ると雫だった。
雫は何か思い悩んでいる様子で、ポツリと僕にだけ聞こえる声で呟いた。
「昨日のことなら、零がそんなに悩むようなことじゃないと思うよ・・・。」
「分かってる。」
そう言った僕は雫を置いて食堂から出て、部屋に戻った。
「やはり、信じてはもらえませんでしたか。」
「そうみたいだね。 どうする、ナギ?」
「そうですね・・・。」
ナギとウルは登校している零を護衛(尾行)していた。
彼女たちの手には紙に書かれた魔法陣が握られている。
それは彼女たちがいた世界の魔法の一つの『テレパス』で、魔法陣を持つもの同士で通信を行うことができるという魔法だ。
今の彼女たちには魔力が足りず通信ができないが、今回はそれを逆に利用し、盗聴器代わりにしているのだ。(ちなみに、零には内緒で首に魔法陣を仕掛けている。)
ナギは先程の零達の会話を聞き、危機感を感じていた。
先日零達には話していなかったが、ナギが『時間がない』と言った理由は二つあった。
一つは昨日ナギ達が言った、『任務』開始まで時間がないということ。
そして二つ目は、昨日を含めて残り三日で、ナギ達は消えてしまうことだ。
彼女達が消えてしまえば、この任務は失敗する。
失敗すれば・・・。
「とにかく、このままアレク様を警護しましょう。」
「ハイハイ、了解。」
何としてもアレク様に記憶と力を取り戻してほしい。
そう思いながらナギは尾行を続けた。
ナギ達に尾行されているとはつゆ知らず、零は一人で学園に向かっていた。
雫には気にするなと言われたが、やはり気になるモノで、
(昨日あんな事言っちゃったけど、今日の夢のせいで少し現実味を帯びた気がする・・・。)
そんなことを考えながら、歩いていた。
「さて、どうなっちゃうんだろうな、僕・・・。」
零はそう呟き、今日も一日何気ない時間を過ごした。
~ 放課後 ~
僕は教室で荷物をまとめていた。
「よし、帰るか。」
カバンを持って教室を出ると、隣のクラスから雫と誰かの話し声が聞こえた。
雫は僕と違って人当たりが良く、友達が多い。
さらに言うと、ルックスもいいから男子からの人気が厚い。
対して僕は一人の時間が多いため、必然的に友達が少ない。
唯一の友達も僕の性格のことを分かっているため、教室内であまり話しかけてこない。
「まあ、そんなことだから雫に心配されるんだろうけど・・・。」
少し自嘲気味に笑い、僕は帰路に就いた。
帰路に就いた僕は、気付けば公園の前にいた。
公園の中は相変わらず人気がなく、昨日の不良達も見当たらない。
「ちょっとここで休んでいこうかな・・・。」
僕はベンチに腰掛け、一息ついた。
昨日から考え事ばっかだ。
ま、だからと言って誰かに相談できるようなものじゃないんだけど。
彼女たちの言っていたことは、恐らく本当のことなんだろう。
昨日の彼女たちの様子には嘘は感じられなかった。
それに、
「昨日のあれは・・・。」
体から何かがあふれ出た感じがした。
きっとあの不良達はあの何かに当てられて立ち去って行ったのだろう。
ナギさん達のことも既視感があった。
でも俄かには信じられない。
そんなことを考えているとふいに公園の中心が揺らめいて見えた。
今は夏だし、蜃気楼でも見てんのかな。
そう思ってベンチから立って近づいてみようとすると、
「お待ちください! アレク様!」
「おぉぅ、ナギさんか。」
突然真後ろからナギさんの声がした。
っていうか何時からいたんだ?
「いや、待てって言われても。 あれただの蜃気楼ですよ?」
「ううん、あれは蜃気楼じゃないよ。」
あ、ウルさんもいたのか。
この人たちはなんで後ろにいたんだ?
というかほんと何時からいたんだ?
「あの、じゃああれは何なんですか?」
「あれは『穴』です。」
「『穴』?」
「はい。」
いやどう見てもただの蜃気楼なんだけど。
そう思って『穴』を見ていると、それは中心化からだんだんと黒く濁っていった。
「え? え!?」
「やはり今日来ましたか。」
「アレク様の予測通りだね。」
「いや、何の話ですか!?」
驚いて尻もちをついた僕は、何やら話している二人に聞いた。
あれは明らかに異常なものだ。
何であんなものが、などと考えていると、何かがぬるりと出てきた。
それは額から角が生えた全長3メートル位の灰色のオオカミだった。
え、何あれ?
「あれは、ホーンウルフ!」
「厄介な奴が出てきたな~。」
そう言いながら二人はあのオオカミと僕の間に立った。
二人の手にはそれぞれ、剣とグローブが握られている。
彼女達の表情は真剣で、オオカミから一切逸らされない。
これは本当にヤバイ状況だということが見て取れた。
「早めにケリをつけましょう。」
「その方がいいね。」
ナギさんは剣を抜きながら、ウルさんはグローブをつけながら戦闘態勢を整えた。
一方僕は、この状況に頭が追い付いていないのか、オオカミを見てから頭痛と心臓の鼓動が激しくなっている。
気が付けば空が不気味に赤く染まっていた。
二人は慌てている僕には目もくれず、
「それでは・・・」
「「任務開始!」です!」
と言って、僕の目の前で戦闘を始めた。
はっきり言おう、何この状況!?
あのオオカミ、動きは目で追えるとは言ってもそれでも速い。
しかし二人は、その動きについて行っては攻撃を繰り出している。
基本的にはナギさんが攻撃、ウルさんが防御を担当しているようで、オオカミの攻撃はほとんど二人には効いていない。
ただそれはオオカミの方も同じようで、先程から二人、主にナギの攻撃は当たっていない。
埒が明かないと判断したのか、ナギさんは一旦下がり、空中に何かを描き始めた。
幾何学模様のそれは完成すると炎を発し、形を崩しながら収縮してナギの剣に纏わりついた。
「ウル!」
「ハイハイっと!」
ナギさんの一声で、オオカミの攻撃を防いでいたウルさんはバックジャンプでウルさんと入れ替わった。
ナギさんは刺突の構えでオオカミに突進していく。
急に遠ざかったウルさんに攻撃をしようとしたオオカミはたたらを踏んでいたようで、その隙にナギさんはオオカミに刺突を繰り出した。
「ハッ!」
「グオォォォ・・・」
刺突はオオカミに当たった。
しかしオオカミの毛皮は硬かったらしく、剣は刺さらなかった。
それでも炎の方は毛皮を焼いていたようで、オオカミにダメージは入っている。
ナギさんはその様子を見て、
「ちっ、やはり力が足りませんか・・・。」
「能力も使えないし、これは厳しいなぁ・・・。」
「え? あれでもダメなんですか!?」
明らかにダメージは入っていた。
あの攻防なら時間はかかるがいずれ倒せるはず。
その間に逃げようかな、と思ったのに・・・。
「ってあれ? いつの間に僕は落ち着いて・・・。」
「アレク様。 お忘れならお教えいたします。 ホーンウルフは今でこそ楽に倒せそうに見えますが、固有魔法を使えば厄介になるんです。」
「固有・・・魔法・・・?」
「そ。 あれを使われたら、今の私たちじゃあ勝てないね。」
「じゃあどうするんですか!?」
その固有魔法ってのは分からないけど、この二人がヤバイって言うんならヤバいものなのだろう。
でも、僕には何もできない。
僕がそんなことを考えている間にも、あの二人は隙を作らないようにオオカミと攻防を続けている。
僕は・・・
「に、逃げないと・・・。」
(逃げてどうすんだ?)
「!?」
逃げようと立ち上がった途端、頭の中に声が響いた。
「誰だ!?」
(ンなこた、後から分かる。 で、もう一度聞くぞ。 此処から逃げてどうすんだ?)
「そんなの、決まってるじゃないか! 警察に・・・!」
(言ってどうなる? あの二人でも苦戦してるのに、警察でどうにかなるとでも?)
「じゃあ、どうしろって言うんだ!」
あの二人が聞いているにも関わらず、僕は響く声に叫んだ。
この声を聞くと頭痛が酷くなる。
この声を聞くと心臓の鼓動が速くなって、体が熱くなる。
何かから伝わるように、苛立ってくる。
どうしたってんだ、僕の体は!?
「・・・アレク様!?」
「ちょっ、ナギ! ウグッ!」
頭を抱えてうずくまり、苦しむ僕を見てナギは駆け寄ろうとした。
それが隙になりウルさんはオオカミに突き飛ばされた。
そのせいでオオカミに余裕ができ、角に何やら力を溜め始めた。
「しまった!」
「まずい!」
力が溜まるのは思いのほか早く、角が青白く光っていく。
オオカミは角に光が溜まるのと同時に、空に向かって
「ウオオォォォォォォン」
と、他の人にも聞こえるのではと思うほどの遠吠えをした。
すると、角に溜まっていた光が無数の球になって、オオカミと僕らの周りに落ちた。
光は地に落ちると共に角のないオオカミ達になり、主人に応えるように遠吠えをした。
「これは・・・。」
「ホーンウルフの固有魔法『眷属召喚』です。」
「やっばいなぁ、これ。」
二人はオオカミに囲まれ、冷や汗をかいている。
(オラ、どうすんだ? このままだと全員死んじまうぞ?)
「うるさい! 黙ってろよ!」
(そういうわけにもいかねぇんだよな~、これが。)
「はぁ? どう意味だよ、それ!?」
「アレク様? 一体誰と?」
そんなもの分かんないよ!
僕が聞きたいよ!
僕が耳を塞いでいると、ホーンウルフはもう一度遠吠えをした。
それを皮切りに、オオカミ達は一斉に僕らに襲い掛かってきた。
「くッ・・・。」
「うわああぁぁぁぁ!」
僕は目を瞑った。
そして・・・
気が付くと、僕は何もない真っ白な世界にいた。
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