2.ミミズク
name:ミミズク
Sex:女
Age:15(130) /Height:154/weight:43
Blood Type B
ability:身体強化レベル6/植物操作レベル9
……はぁ。どうして、こんなことになってしまったんでしょう。
ミミズクは、ついさっきまで、ティルナノーグ王宮の騎士として、裏切り者を捕まえようとしていました。
だけど今は見知らぬ街で、ひとりきり。
お城のように大きなお屋敷の壁に寄り添って、膝を抱えて座りこんでいます。
全く見覚えのない街は、建物の壁や地面が綺麗な白色で統一されています。しかし、窓や扉だけは目が覚めるような青色で塗られていて、とてもきれいです。
近くには見たこともないほど、大きな水たまりが見えます。この水たまりが本当に大きいんです。視界いっぱいに広がっていて、先が見えないほど大きく、真っ青なんです。
何なんでしょう、あれは……。お魚がいっぱいいそうですね。さすがのミミズクもおどろきました。
きっと、この景色を、ノアアーク陛下とモーガンさんと三人で見られたら、とても感動的だったんでしょう。
ですが、ミミズクは今ひとりです。感動もなにもありません。
……ミミズクがこんなことになったのは、全てスズ、というノアアーク陛下に贔屓されまくってる女のせいです。
モーガンさんと一緒に、あの女を追っていたことまでは覚えているんです。
しかし、そこからの記憶が、はっきりしません。
ミミズクだって馬鹿じゃ、ありません。何が起きたのかは、想像ができます。
あの女の手によって、ミミズクはダンジョンに押し込まれて、精霊にダンジョン内と前後の記憶を消されて、異世界に飛ばされてしまったのでしょう。
……考えるだけで、腹が立ちます。
そもそもミミズクは、スズのことが、好きではありませんでした。
というか、大嫌いでした。
ノアアーク陛下や、モーガンさんに、はしたなく思われたくなかったから、はっきりとは言わなかったですけど……。
というのも、あの女は、ミミズクが欲しくてたまらないものを、全部持っていたからです。
しかもそれを、厄介がっているところが、大嫌いでした。
認めますよ。
ミミズクは、あの女に、嫉妬していたんです。
……ああ、日が暮れてきました。
今夜はここで明かすしかないみたいです。
とりあえず暇だし、さみしいし、ミミズクは、楽しかった昔のことでも思い出すことにします。
**
もう百年以上、前のことです。
ミミズクは、ティルナノーグ王宮の城下町に生まれました。
家庭は裕福でもなく、貧乏でもなく、普通でした。
両親は商売人で、手作りの帽子を売ったり、薬草を売ったりして、生計をたてていました。
この国は貧富の差がけっこう激しかったですから、幸せな方だったと思います。
食べるものに困ったことはありませんでしたし。
ミミズクは、能力持ちでした。
この世界では、まれに異能力を持って、生まれてくる人間がいます。そういう人たちのことを、総称して“能力持ち”と呼んでいました。
能力について、詳しく調べたことはありませんでしたが、物心ついたときから、植物を自在に生やして、操ることができました。それに、他の人より運動神経がかなりよかったです。
ミミズクが能力持ちだと分かったとき、両親はとても喜んでいました。
すぐに今までやってきた帽子屋を廃業して、植物専門のお店になりました。
それに加えて、花屋の商売も始めました。
花屋はうちだけだったので、大繁盛で、常に行列ができていました。
薬草屋も繁盛しました。
というのも、薬草は気候や時期によって、出来が左右されやすいんです。だから、安定したものを常に売れるというのは大きく、家はどんどん裕福になりました。
**
十五歳になった、ある日のことです。
すっかり大きくなった家に、青髪青目の騎士がやってきました。テッドシーです。
テッドシーは、当時からかなり人気があったので、ミミズクも顔ぐらいは知っていました。
騎士、というのは、このティルナノーグ王国の、ノアアーク陛下の側近のことで、今では九人に増えましたが、当時は、モーガンさんとテッドシーの二人しかいませんでした。
「君、植物の能力持ちなんだって?」
女性の黄色い悲鳴を浴びながら、テッドシーは流し目でそうたずねました。
当時、ミミズクは、ちょっぴり惚れっぽい性格でした。
ちょっといいな、と思ったら、すぐに好きになってしまうんです。
花屋の常連だった年上のミゲルさんや、病気のお母さんのために薬草を買いにきていた、年下のロキさん。他にもたくさんの人を、すぐに好きになって、こっそり後をつけたりしていました。でもすぐにバレてしまって、いつも嫌われていたんですけど。
そんな惚れっぽいミミズクでしたが、意外にも、テッドシーに興味は全く湧きませんでした。
ナルシストなのが、嫌だったんだと思います。
ミミズクは、ナルシストは嫌いでした。
「そうですけど……」
「可愛い子だね。君と話がしたいんだが、ぜひ王宮へ来てくれないか?」
息を吐くように褒められて、ちょっぴりいい気になりました。
振り向くと、両親が目を丸くしながら、何度もうなずいていました。
その通りにしろ、ということだったんでしょう。
王宮は、国のトップですから、拒否権なんて、あってないようなものだったんです。
「わ、わかり、ました……」
すぐに了承して、テッドシーに着いていきました。
テッドシーに着いていきながら、心臓がばくばくして死にそうでした。
何しろ、理由が分からなかったんです。
もしかして、王様に一目惚れされてしまったのかな。お嫁さんにされちゃうのかな、なんて、今思うと恐れ多いことを考えていた気がします。
広くて綺麗な王宮に入り、大きな扉の前で止まりました。
テッドシーが扉を開けると、中は広いけれど、何もない部屋でした。
中心に小さな机と椅子が設置されているだけです。
そこに一人の騎士が座っていました。
その騎士がモーガンさん。ミミズクの上司になる人でした。
「君が、城下町で有名な植物使いか。名前は?」
冷たい口調で、ぶっきらぼうにたずねられて、胸がきゅんとしました。
ミミズクは、冷たくあしらわれるのが、大好きだったんです。
しかもモーガンさんは、男らしい外見でした。綺麗な男の人も好きですが、モーガンさんみたいな、男らしいタイプも、嫌いじゃありません。
「ミ、ミ、ミミズクと、いいます」
「ミミズク。ここに呼んだのは、君の能力を見るためだ。もし使えそうな能力なら、王宮に従事してほしい」
そう言われて、おどろきました。
「ミ、ミミズクが、王宮に、ですか……? でも家で、薬草のお店をやっているんですけど」
「そのことは心配しなくていい。君がここに勤めるのなら、十分な金を家に支援しよう。働かなくても暮らしていけるはずだ。それより、君の能力を見せてくれないか? 本気でやっていい」
「ほ、本気で、ですか?」
「本気で、だ」
念を押すように、モーガンさんは言いました。
ミミズクは、今まで本気で能力を使ったことはありませんでした。
毎日毎日、売り物の薬草を発生させる程度のことにしか、能力を使用していなかったんです。
きっと、もっとすごいことができるんだろうなぁとは思っていましたが、機会もなかったので、使っていませんでした。
本気でやっていい。
その言葉に、身体がぞわりと震えました。
我慢していた能力が、今か今かと、発動を待っている。
そんな気が、しました。
「じゃ、じゃあ、行きます、ね」
小さな声で呟いて、両手を真っ直ぐに向けました。
途端に地面から、太い茎が生えて、モーガンさんとテッドシーの身体に巻き付きました。
すごい、ミミズクって、こんなことができるんだ。
そのときミミズクは、はじめて自分の能力がどういうものなのかを、理解した気がします。
だけど、モーガンさんとテッドシーの身体に固く絡みついた触手は、一瞬で、紫色になってドロドロと溶けてしまいました。
何が起きたのか分かりませんでした。
けれど、モーガンさんかテッドシー、どちらかの能力で、無効化したということは分かりました。
「なるほど。使えそうな子だな。とりあえず、俺の部下になれ。今から、陛下に紹介する」
「ひゃ、ひゃいっ!」
モーガンさんが何事もないかのようにそう言って、ミミズクは何度もうなずきました。
きっと、顔は真っ赤になっていたと思います。
テッドシーは面白くなさそうに、ミミズクを見ていましたが、その意味は分かりませんでした。
**
部屋を出て、赤い絨毯が敷かれている、長い廊下を歩きます。
やがてたどり着いた部屋。大きな扉の前で、モーガンさんは立ち止まり、ノックをしました。
「はい、どうぞ」
すぐに返事が聞こえてきました。
低いけれど、透き通るような綺麗な声でした。
「失礼します、陛下」
扉が開かれていきます。
陛下を見るのは初めてでした。陛下は滅多に人前に姿を現しませんし、たまに現したときも、遠くて見えなかったのです。
ソファに座っている陛下を見て、目を見開いて驚きました。
紺色の髪に、黄金の瞳。
陛下は、ミミズクを見て、にっこりと笑いました。
きゅん、と胸が大きく跳ねたのが分かりました。
顔がどんどん熱くなって、心臓が早く動きはじめました。
ああ、いけない。ミミズク、また……。
「こんにちは、可愛いお嬢さん」
あろうことか、陛下に、一目惚れをして、しまったんです。
「陛下。この娘、植物発生能力を持っています。おそらくレベルは8以上かと思います。私の部下にしてもよろしいでしょうか?」
「植物発生ですか。素敵ですね。ぜひ、王宮に来てください。よかったら、この城を、花でいっぱいにしてくださいね」
にっこりと綺麗な顔に笑いかけられて、どうしていいのか分からなくなりました。
暴れる胸をぎゅっと抑えて、ミミズクは、何度もうなずきました。
「ひゃい……っ! かならず、陛下のお役に、立って、みせます! ミミズクは、ノアアーク陛下のために、一生懸命、尽くします……!」
震える声でそう言うと、ノアアーク陛下は、またにっこりと笑いました。
きれいで、まぶしくて、溶けそうだと思いました。
ここ、室内なのに。
「わたしにも、あなたぐらいの年齢の妹がいるんです。期待していますね」
「ひゃいっ!」
こうして、ミミズクは、王宮で働くことになりました。
これからずっと、ノアアーク陛下と、モーガンさんのために、生きて行こう。
恋するミミズクは、そう誓ったんです。
……なのに。
**
「どうして、こんなことに……ぐすん」
……ああ、いけない。楽しかった日々を思い出すと、涙が出てきました……。
膝をぎゅっと抱えて、顔をうずめます。
日はすっかりと暮れて、辺りは暗くなってきました。
ふと気が付くと、地面には大量の花が生えていました。
これは、ミミズクの癖なんです。
ミミズクは、さみしいといつもこうして、能力でお花を生やしてしまうのです。
これから、ミミズクは、どうやって生きていけばいいのでしょう。
花畑になった場所で、考えました。
ノアアーク陛下も、モーガンさんもいないこの世界で、生きていける自信はありませんでした。
いっそ、もう死んでしまおうか。
そう思った、そのときでした。
「あの、どうかされましたか?」
突然、やさしい声をかけられて、顔をあげます。
そこには、灰色の髪と瞳を持つ、優しそうな男の人が立っていました。
二十代半ばぐらいで、同じく灰色のズボンと、白いシャツに、ベストを重ねて着ています。
思わず、まじまじと男性を見てしまいました。
とても、清潔感があって、かっこいいと思ったんです。
「突然すみません。ここは僕の屋敷です。使用人から、女の子が座って、花を生やしていると聞いて、声をかけました。あなたは、能力者なのですか?」
「ひゃ、ひゃい……」
うまく返事ができませんでした。
けれど、その人は、ミミズクを安心させるように、にっこりと笑いました。
「ああ、驚かないでください。しかし、今日はもう遅いです。危ないですから、早くお帰りになった方がよいのではないでしょうか」
「で、でも、ミミズク……帰る、場所、ない、です……」
「帰る場所がない……? それは大変だ。何かわけがあるのですね」
男性は、気の毒そうな表情をして、ミミズクに優しい言葉をかけてくれました。
ミミズクはもう、ドキドキして死んでしまいそうでした。
「そうだ。もしよければ、僕の屋敷で働きませんか? 見たところ、あなたは植物系の能力者なのでしょう? ちょうど、勤めていた庭師があと数日で辞めてしまうので、代わりの庭師を探していたんです」
「ミ、ミミズクが、庭師に、ですか……?」
「もちろん断って頂いても大丈夫です。しかし、受けてくださるなら、僕はとてもうれしいのですが」
優しい顔が、困ったように薄い眉を下げてそう言いました。
すぐにミミズクは、首をぶんぶんと振りました。
この人……いえ、この方にこんな顔をさせてはいけない。そう思ったんです。
「い、い、いいえ! ミミズクでよければ、よろこんで、やります!」
「本当ですか? とても嬉しいです。ふふ、こんな可愛らしい庭師さんなんて、たくさんの人に、自慢できてしまいますね」
そう言われて、顔がものすごく熱くなりました。
きっと、ミミズクの顔は真っ赤です。辺りが暗くてよかったと思いました。
「僕は、ティム・オーベルと申します。では、ミミズクさん。僕のお屋敷へどうぞ」
「ティ、ティムさん……ひゃい……」
ティムさん。ティムさん。
ミミズクは、何度も頭の中で、ティムさんの名前を繰り返しました。
ああ、どうしましょう。
ミミズクはどうやら、ティムさんに、一目惚れをしてしまった、みたいです。はぇぇ。
ミミズクは、あの女のことが嫌いでした。
だって、ミミズクの持っていないもの、全部持っているくせに、それを大事にしない女でしたから。
でも、今は、ちょっとだけ、感謝をしてもいい。
ティムさんの灰色のベストを見つめながら、そう思いました。
恋多きミミズクは、これからも楽しく生きていけそうです。
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