roritteru
8月24日、この日、福岡は台風が上陸していた
『東シナ海沖で発生した超大型台風、台風10号は九州に上陸、その後、時速10キロの速さで北上中。鹿児島、宮崎、熊本、大分、佐賀、福岡の全域、長崎の一部で大雨、暴風の特別警報が気象庁より発令されています。そして、――』
スマホのラジオから流れる台風情報に思わずため息を吐く。
そして、目の前にいる少女というか幼女に目をやりもう一度深いため息を吐いた。
◇◆◇◆
人が暮らす限り、噂や都市伝説というものが発生する。大概のものは自然消失するのだが、曖昧な根拠の癖に妙に信憑性があると感じてしまうものは何年も語り継がれる。そんなもんの一つとして福岡の学校にはこんな都市伝説がある。
『学問の神様、菅原道真公が福岡の学生たちが安全に学校へ通えるように台風を御威光で逸らしている』
菅原道真公とは、まぁ簡単に言うと福岡の地で没した梅が好きな偉い奴で、今は受験生にとって有難い神様のことだ。
最近の台風は、「絶対ぶつかるから、ぶつかるからね、ぶつかるよ………ぶつからねぇのかよッ!」っていう芸人のような事を繰り返しており、先述した都市伝説のようなオカルトを信じていなくとも、学生などの若い世代を中心に「福岡に台風はこない」と無条件に信じている人は多い。
気象庁 台風直撃と発表
↓
学校機関 臨時休校
↓
学生 狂喜乱舞
↓
台風 四国へ反れる
道真公の御威光は教育機関のご意向により無駄になったが、とにかくこれが福岡で夏の風物詩となっているのは間違いない
故に学生である俺、氷室 恭平もそんな安全神話を信じて、臨時休校(外出禁止)の日に少し離れた地域の評判の良いラーメン屋に雨具も持たずにチャリで川沿いを通り、朝から向かったあげく、公園のドーム型遊具から出れなくなった哀れな一般ピーポーの一人である
ちなみに、ドーム型遊具には先客がいた。それもとっびきり個性的なやつが
黒ずんだシャツにボロボロの毛布、全身はは泥まみれで、もし俺が親なら家に入れる前にホースの水をぶっかける事を即決するくらい汚れた小学校三年生くらいの幼女。しかし、およそそれに似つかわしくないほどに美しく輝く黄金の瞳。不覚にもその目の美しさに一瞬だが見入ってしまった。
だがそれも一瞬のこと、高校受験がすぐそばに迫ってるくせに、学校の授業とは、窓際でぼーっとしながら人間観察をする事だと思ってる俺にとって幼女の境遇は容易く妄想できる。
衣服が雨水臭くて泥まみれなのは、まぁ腕白な子供だからだろう。このくらいのガキなんて嵐をみたら自然現象だろうがアイドルグループだろうが見境なしに飛び込むもんな。そりゃ汚れてない時の方が少ねぇや。肌は汚れすぎてて判断つかんが、その美しい黄金の瞳はとてもカラコンで表現出来るとは思えない。ズバリ、天然モノの外人かハーフの類であるのは間違いない。結論として親族に白人系の血を持つ家が貧乏な子。どうだっ、違うかっ!?
「違います。というかいきなり失礼なお兄さんですね。」
心を読まれたッ!
「思いっきり呟いてました」
マジかよ。全然自覚なかったぜ。
「どの辺から聞いてた?」
「あっ!野生の金髪幼女だ。…はぁ、…はぁ、…はぁ。そうだ養女にしよう!の辺りからですね」
「言ってねえよッ!………言ってないよね?」
そりゃホントなら俺、ガチで危ないお兄さんだろ。口に出すどころかそんな思想を持ってると思われただけで即通報からの逮捕状レベルの事案じゃねえか
「ウソに決まってるじゃないですか。」
「だ、だよね~」
なんなんだこのガキは?最近の小学生ってみんなそうなのか?だとしたら最近の小学生怖すぎだろ。
このとき、俺は君子危うきに近寄らずの精神に則り、この幼女に関わらないようにスマホの中の世界に没頭しようと決断した。
なのに―――
「お兄さん、お兄さん」
「………。」
「おにーさん?」
「………。」
「もしもーし!おにぃーさァーーん」
「だぁぁー。うっるせぇーー!耳元で叫ぶなバカッ!」
執拗に絡んでくる。
「えへへ、ようやく反応した♪」
おもわず怒鳴り散らそうとしたが、その屈託の無い笑顔を見るとそんな気も失せてくる
「呼んでみただけ(はーと)」
ブチくらしたろうか。
「つぎやったら殺すから」
「よんでみただけ」って親しくもない人(親しくても同性は対象外(男の娘は可))にやられたら殺意しか湧かない。そんなどうでもいいことが一つ頭にインプットされました。
おまけ(ラインの会話)by腐れ縁の親友 田町 丸吉
たまちん○『台風やべぇ。油断した、お前だいじょぶ?』
既読『いんや、外出して家の近くの公園で避難中』氷室 恭平
たまちん○『ふはははは ざまぁwwww。ねえチミ?外出禁止って先生言ってたよね?聞いてなかったの?せっかくの休日を硬いコンクリの上で過ごすがいい
ちなみに現在キャンプ中に中州に一人取り残されて救助待ち
マジ卍』
既読『マジ卍』氷室 恭平
俺の名前は氷室 恭平。どこにでもいる普通の男子中学生だ。突然だが俺の今の状況をかいつまんで簡潔に説明しよう。
台風の日(誰も外を出歩かない)
ドーム型遊具の中(周りから完全な死角)
鳴り響く豪雨や暴風の音(ここで何を叫ぼうが誰にも聞こえない)
生意気で腕白な幼女と二人っきり(はーと)
待ってくれ、俺は別に性犯罪者ではないし児童ポルノ法に引っかかるような事は何もしていない。そもそもロリコンですらない。
おっと、全国のロリコンの皆さん、勘違いしないでくれ。別に俺はロリコンが先の二個と同列視されるような忌々しいモノとは微塵も思っていない。年齢によって態度を変体させる変態紳士の皆さんはYESロリータNOタッチの精神が強くあるし、そもそも大抵は二次元のロリにしか興味ない。又は保護者とか世間―――
「お兄さん、お兄さん」
「なんだ糞幼女」
「レディーに糞は無いと思う。大丈夫?」
イラッ!(゜言゜)
落ち着け、手を出したらロリコン以下のクズに―――
「さっきからうわ言のように、幼女と二人っきり(はーと)とかロリコンとか呟いてるけど大丈夫?………主に私が」
おいおい俺はロリータにゴミを見る目で見られても興奮しませんぜ。
「落ち着け、幼女よ。誤解だ。というか俺の顔が今から法律を犯すロリコンのようにに見えるのか?」
「法律を犯す覚悟を決めたロリコンの顔をいまだ少ない人生経験で見たことありませんが、こういう場合は「ロリコンは皆そういう顔なんですっ!(ぷんぷん)」と言うのが正解だったのでしょうか?」
「……もうなんでもいいよ。」
◆◇10分後◆◇
無意識のうちに思考が漏れ出ていると悟った俺は座禅を組み、無の境地に入っていた。「お兄さん体柔いんですね~。まるでタコみたいですよ」とか「楽しいんですか~(笑)」とか聞こえてきたが無視した。
やがていくら煽っても反応しないと気付いて諦めたのか、ドーム型遊具の中に大自然の音しかない嵐の中の平穏が訪れた。
とはいえ50分の授業すら満足に集中できない俺の集中力がそう長くも続く筈無く、すでに限界がやってきていた。
「………ふぅ」
一息ついて目を開けると景色がさっきより輝いて見えた。これが座禅の効果か。………まぁコンクリしか目に映らないけど。
あれ?幼女の姿がない?
字面にすると酷いが、ここドーム型遊具の中はさして広くなく、外は台風で幼女などが歩けば比喩抜きで飛ばされそうなくらいはある。
さすがに外に出てたら心配なので探そうと思い、立ち上がるために座禅を組んだ足を解こうとすると足に重みを感じた。
「……すぅ……すぅ」
「ひざまくら」っていうよりこれ「ももまくら」だよな。
って!そうじゃない。簡潔に説明すると、幼女がひざまくらで眠っていた。
さっきまでロリコンロリコン言ってた相手のひざで、安心しきったように眠る姿を見ると、こいつ危機管理能力ちゃんと備えてあんのか?という疑問が浮上してくる。
ただ、そんな無防備で安らかな寝顔をみると、不思議と守りたいという気持ちが無限に湧いてきて、全国の子育て奮闘中のママさんパパさんの幸せな一時が理解できそうだ。これが庇護欲というやつだろうか。
なんとなく、その茶髪を撫でてみる。
べちゃ
(うわっ、めっちゃ濡れてんな、こいつ)
幼女を触った手を見てみると、茶髪と手の平の間で糸がひいている。薬品の臭いを嗅ぐような手つきで右手を煽ってみると、バケツの水を真夏に一週間くらい外で放置して腐らせたかのような最悪に芳醇な香りが鼻一杯に広がって
「不潔すぎるだろぉぉおーー」
「ふにゃぁぁーー!」
俺は思わず幼女を突き飛ばす。庇護欲?なんのことだ。
「お、お兄さんっ!?い、いきなりなんてことするんですか。地面コンクリですよっ!」
「それは悪かったが不潔すぎるお前が8割くらい悪い。ちゃんと風呂とか入ってんのか」
「酷いことするなぁ」