タクトくん(過去)
世界には数多くの島や大陸があり、数十年から数百年に1度新しい大陸や巨大な群島が発見され、 この星の全ては未だ分からない。
そんな大陸や島々を繋ぐ海には、我々人族が抗えない船をも丸呑みする巨大な水竜が至る所に棲んでいて、非常に危険な貿易になる。
その為主流な貿易は空路、空から物資を運ぶのだ。ある大陸の人族は調教した空を飛ぶ魔物に跨り、またある大陸の人族は魔術で空を飛び、ある島々では空を飛ぶ機械を創り出す
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王城都市
人族の支配領域の真ん中にあり、各大陸への空路の安全性も保証された島(大きさは九州と同じ位)、ネルトリヒ島のほぼ全てを領土として持つ王国の首都。この国の大多数の人族は人間が占めている
『王の城壁』と呼ばれる巨大な防壁が、王城と貴族街、貴族街と市民街、そして、外と隔離するための外壁の3層に分かれて築かれている
目立った特産品は無いが、数年前まで巨大で荘厳な城や城壁を観光地としてや、物流の中心地として栄えていた。
しかし、各大陸間の空路が次々と発見されていき、国の経済を回す商人の出入りが、以前と比べて三分の一と急激に少なくなってきているのが現在の課題である。
商人の出入りが減っているのは大陸間同士の空路が発見されてきたからだけではない。
盗賊の大量発生
近頃の不況で職を失った人間が次々と盗賊になり、略奪を繰り返す。そして、飢えた人間は明日を生きる為に略奪をする。それにより観光客も減り、貿易も一つの商業を除き衰えていく
よって貴族街の不況の皺寄せは市民街に、市民街の不況は外の人間への暴行等の憂さ晴らしに廻っていく。
市民街の人間は疑わない。壁の外に住む者は人間ではないと、正確には人間と呼ぶに値しない価値の無い生物であると本気で思っている。奴隷と何ら変わらない、寧ろ従属刻印を刻まれないだけ感謝するべきだ。いや、王城にある議事堂では実際に従属刻印を刻んで奴隷にするべきだという意見も少数ながら出ている
そんな歪んでいる都市で唯一衰えない商業は当たり前の様に歪んでいた
――――――
「……ハァ……ハァハァ」
一人の脱走者が走る。まるで風の様な速度で疾走する。再び捕まってこの壁の中に入ってしまえば今度こそ終わりだと理解していたからだ。
「クソっ、待ちなっ糞ガキ」
追っ手はソレを追いかけ走る。確かにソレの速さは風だ。何も装備していないタダの人間とは比べ物にならない。ソレは分かりもしない裏路地を一陣の風のように駆け抜けて追っ手を撒こうとしている。
「くっそ、誰だよこの糞ガキが農奴隷とか言った奴。バリバリ戦闘奴隷じゃねぇか」
ソレはアッフィリカ大陸に住むミゥラ族と呼ばれる獣人の血が混じっている。ミゥラ族の特徴は人間より2回り以上に大きな体躯と頭の牛のような巨大な角。更にその体躯を用いたとしても異常とよべる脚力。ミュラ族の戦士はその脚力で音速に近い速度を出し、角を用いた突進をするのだ。
しかし、ソレの身体的特徴は殆ど人間と変わらない。強いて言うならまるで肥沃な大地の様な褐色の肌。されど獣人の血を身体に流す者、更に身体能力はアッフィリカ大陸一とも呼ばれる戦闘民族の血。子供と言えどその疾さは風。
追っ手はその速さの前に遂に前へと進む足を緩める。脱走者は追っ手が足を止めたのを後ろ目に見て、一瞬安堵する
「仕方ねぇな。これを使うしかねぇか。魔力使うと疲れるんだけどな」
しかし相手が悪かった。仮にもここは物流の中心地。追っ手の装備も此処では割と良くある物たが他所では違う。最高品質とも呼べる優秀な魔道具。追っ手は靴型の魔道具に魔力を込めて大地を蹴る。
その魔道具の名前は『エアリアル』。魔力を込めると猛烈な向かい風が靴裏から吹き出る使い捨ての魔道具。
それは刹那、一瞬で子供と追っ手の間合いはゼロになり、子供は追っ手の強烈な一撃を浴びて固い地面に叩きつけられる。
「…………グッ」
「おう、まだ意識があったか。テメェには最低でも壊れっちまった魔道具分は憂さ晴らししねぇと気が済まねぇな」
「…………ウッ」
子供は朦朧とする意識の中で必死に前に手を伸ばす。捕まったら終わりだ。生物としての尊厳すら無い生き地獄が待っている。そんなことは理解していた
追っ手はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらゆっくりと子供に近づく。
「オラ、何とか言ったらどうなんだ」
胴体を横から蹴り飛ばされ、子供は路地裏へと転がっていく。流石に追っ手も人通りのある場所で子供に暴行するのは気が引けた。
先程追っ手が使ったのであろう靴はボロボロに壊れているし、さっきまであった追っ手の気の大きさも殆ど無い。1発でヤレる。そう本能が確信した。身体よ動け、そう必死に命令しても全く動かず、小さな呻き声が出るだけだ。
やはり追っ手は笑みを浮かべて子供を蹴り飛ばす。刻印が刻まれていないとはいえ奴隷として刻印を刻む為にこの都市へ来たのだろう。ならコイツは人じゃ無い。人の形をした生物だ。
「まだまだこんなもんじゃ足りねぇよ。オラっ!」
所持していた剣で叩きつける蹴られ首元を掴まれ腹を殴られる足を踏みつけられる腕を砕かれる。顔を傷付けないのはコレが商品だと理解しているからだ。
意識が飛べは魔法で出したのであろう水を頭から掛けられる。それでも死なないのは、追っ手が回復魔法を習得している事と戦闘民族としての身体能力の高さがあるからだ。
「フヒヒヒヒヒヒ、悲鳴をあげてみろよ。泣き叫べっ!」
追っ手の目を見て確信した。きっとこれが何度も繰り返されるのだろう。何度も、そう何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
「………ヒッ」
追っ手呻き声こそあげていたが、ようやく初めて子供から悲鳴が出てきた事で更に頬を緩ませる
助けて、誰か助けて、お願い、誰か、お母さん、お父さん、怖いょ、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、―――
追っ手は身体を縮こまらていせるソレが着ているボロ切れが破けた事により見えた物を見て心の中で喜色をあげる。同時に追っ手は身体の一部が固く熱くなっていく事を感じた
「へへっ、んじゃ早速頂きますか」
追っ手が腰のベルトを取ろうとした刹那、追っ手の視界が反転した。
(ほへっ?)
それが追っ手が最後に上げた声だった。
何処かから飛び出してきた青年が無慈悲に首をはね飛ばす
「ったく、気色悪りぃもの見せやがって」
そう呟き青年は無造作に切り落とした首を踏み潰した。少女にはその姿はまるで悪人から守るヒーローの様に映り、子供は気が抜けていく
「おっ!コイツ結構イイもん持ってんじゃねぇか」
「……ひぇっ」
残念ながらとくとくと血を流す死体の胴体から薄く笑いながら追い剥ぎをする姿は完全に悪人で少女次は自分の番かもしれないと、恐怖の中で意識が完全に消えた
青年はある程度剥ぎ取ってからようやくボロボロの姿で転がっている少女に目を向ける
「お前さん大丈夫…………じゃないな」
「うぅっ」
ここはどこ?
「おっ、起きたか?」
「ッ!!」
咄嗟に逃げねばと思い、少女は全身に力を込めて飛び出し、男との間合いをとる。だがそこで一つの疑問が浮かんだ。
力を込めても身体に痛みが無い。確かに自分はあの時再起不能な程の激しい怪我を負った筈。
少女は改めて周囲を警戒しながら周囲の状況を把握しようとする。この物置のような部屋に出口は1つ。私の目の前に見えるドア。しかしその前にはあの青年が陣取って何か作業をしているが、此方に注意を向けている。逃げるには隙を窺わなければ。
「おいガキ、怪我大丈夫か?」
青年はゆっくりと此方に近づいてきたので、少女は反射的に威嚇をする
「グルルル」
「そう警戒すんなよ」
どうどうと獣を宥めるように青年は近づいてくる。
少女の思考が加速する。
倒さなきゃ。どうやって?武器がいる。
目に見えるところに武器になる物は?
先程私が倒れていたであろう位置にあるのは布団と水の満ちた桶?
少女の頭にもしやと、とある推測が浮かんだ時少女の頭の上からパタリと濡れた布が落ちてきた。
あ、私この人に看病されていたんだ
少女がそう理解した瞬間、青年の頭に拳が振り落とされた
「怖がらせてどうすんのよこの馬鹿っ!」
ゴツッ
「痛ってぇーーーーーーー」
あまりに強い拳骨を喰らった様で青年の額には赤い血が流れている
「何しやがる。ラーナ」
「何しやがるじゃないでしょ。馬鹿タクト、この子完全に怯えちゃってるじゃない。」
ドカっと扉を蹴破り、目にも留まらぬ速さで青年に近づき拳骨を下したのは、同性から見てもとても綺麗な生糸の様に白い白髪の女性だった。
「ねえ君大丈夫?あのバカに変な事されてない?されたならどんな事されたか正直に言ってね。その五万倍くらいアイツにやり返してあげるから。」
「…………えっと」
「あっ、突然こんなに話し出してビックリしたよね。ゴメンね。そうだった自己紹介忘れてたよ。私ったらうっかり。私の名前はラーナ。貧民窟の紅一点、ラーナか、ラーちゃんって呼んでね。それで、―――」
どうやらラーナさんは話し出したら止まらない人らしく、話をするのが苦手な私はあたふたしてしまう。
しかし、ラーナはハイだったテンションをそこからあからさまに下げながら、隣にいるタクト?さんの説明をしだした。
「このバカはねタクト。……え~と?う~ん?ただの馬鹿かな?」
(ペチン)
「バカはお前だバカ」
「バカって言う方がバカなんだよ。大体いきなり頭叩く事はないじゃない!それだからバカって言われるんだい。」
「じゃあ、いきなり額から流血する程強く殴りつけるお前は大バカだな」
「イイじゃん!どうせ自分で治せるんでしょ。」
「バカには分からんだろうが魔術ってのは使うと疲れるし、そもそも殴られたら痛いだろうが」
「ぐぬぬ、屁理屈を~―――」
「……………プッ、フフッ」
私は二人のやり取りがとても面白くて思わず笑ってしまった。それに気づいた二人は言い争いを一瞬で辞めて、私を見る。ラーナさんはキャーといいながらタクトさんの肩をバシバシ叩いている。タクトさんもほぅと感嘆の声を一声した。
「見て見てタクト。この子笑ったら病的なくらい可愛いよ。この子は私が育てるよ。だから仲間にしよう」
「褐色の肌に異様な程に高い純粋な身体能力。十中八九アッフィリカ大陸から来た奴だろ。能力的には申し分と思うが、本人の意思しだいだな。」
「そういえばまだこの子の名前を聞いていないや。ねえねぇ君の名前は何っていうの?」
少女はしばらく無言になり、おもむろに口を開く
「ひとつ質問してもいいですか?」
「うん、なんでも聞いて」
「私が襲われていた時に助けてくれたのってもしかしてタクトさんですか?」
「あぁ、あの時いた衛兵は俺の獲物だったからな。成り行きでな」
何となく助けてくれたのはタクトさんだと自身の勘は伝えていたが、タクトさんはとても理知的な眼をしていて、意識が朦朧とした最中に見たあの凶悪な面の人ととてもは思えない相貌をしている。
という事は倒れていた私を看病してくれたのもこの二人なんだろうな。ラーナさんもタクトさんも私の眼を見ている。うっ、人の眼を見て話すのは苦手だ。
それでもその厚意に対して、少女は誠意を持って返していかなければならないと思う。少女は二人の眼をみてしっかりと答える
「わ、私の名前は、ヴェルディ・ナチュレ。アッフィリカ大陸の部族。大樹の民ナチュレと獣の民ミゥラ血を継ぐ者。助けて頂き感謝を」
恥ずかしさで顔を赤くしながらもしっかりとヴェルディは自身の名と感謝の意を告げる。
「ヴェルディか、いい名前だね。よろしくヴェルちゃん」
「ナチュレとミュラと言えば確かアッフィリカ方面の最高価格の奴隷だったな。ッ!スマン、悪気は無かった」
「いっ、いえ……本当の事ですから」
「「…………」」
………………
空気が読めない自覚のあまり無い俺だが流石にこれは不味かった。俺が余計な事を言ってしまったせいで場がしんと静まり返った。特にヴェルディなんか俺が奴隷としてあの壁の中に送り込むんじゃないかって嫌疑の目で見てる
(どうすんのよ馬鹿タクト)
(すまん、今回は完全に俺がバカだった)
「ヴェ、ヴェルディ、こちらからもいくつか質問をいいか?」
「は、はいっ!」
「ではヴェルディ、最初の質問だ。君は恐らく奴隷市場に連れてこられてから脱走したのだろう。正直に応えてくれ、あの壁の中で誰とも奴隷契約をしていないか?」
奴隷契約とは身体に刻印を刻まれて、そこに契約魔術や従属魔術を掛けて奴隷的に支配する事だ。ラーナが言うには刻印は刻まれていなかったらしいが、最近では刻印を刻まずに支配する方法もあるという話なので本人に聞くしかない。
もし仮に奴隷契約を結んでいるのなら主には奴隷の居場所が分かる。これはつまり、奴隷の叛逆と見なされ、万一にも成功すれば、王城都市の経済の中心である産業の信頼に関わる事案なので、王城都市は全力で関係者を消しにくる。
ヴェルディが奴隷契約を結んでいるのなら考えなしのラーナはともかく、タクトは即座に奴隷市場に連行する覚悟があった。
「いいえ、契約の直前に隙をついて逃げたので契約はされていないです。」
それを聞いてタクトはホッと一息ついた。覚悟は出来てるとはいえ幼い子供を奴隷にする事に加担するのは、あまりに気分がいいものじゃない。
「それを聞いて安心した。では第二にキミに行く宛はあるかい?」
タクトが質問をするとヴェルディはもじもじとしながら恥ずかしそうにしながら応える
「えっと、全く無いというか、そもそもここが何処かすらも分からないです」
「そうか。じゃあこれからどうしようか漠然とでいいから予定や目標はあるか?」
ヴェルディはしばらく語って良いのか考えているのか沈黙する
「ヴェルちゃん、このバカはね空気とか色々読めないけど信用はしてもいいと思うよ」
グサっと心に刺さる。言い返そうにも返す言葉も無い。
しばらくしてからまるでラーナがそういうのならといった様子でヴェルディは口を開く。
……一応助けたの俺なんだけど
「……………捕らわれた同胞を解放したい。それが大樹の盟主の子としての責任だから」
「同胞?そりゃナチュレのことか?」
「ナチュレの民だけじゃない。ミュラ、ファンタ、レピュタ、サンライ。この五つの部族を中心に東側アッフィリカ大陸のほぼ全ての部族が結んだ同盟が『世界樹同盟』。我が父はその同盟の盟主をしている。私は捕まった同胞達の利権人権を人間共から取り返したい」
「つまり捕まったて奴隷になった人々を解放したいということでいいのか」
「そういう解釈で構わない」
ラーナはバカだからヴェルディの言っている事の意味が分からず頭から煙を吐いていたが、俺の解釈を聞いて顔を明るくさせヴェルディの肩を揺さぶりながら提案をする。
「ならなら、私達のチームに入ろうよ。ヴェルちゃん」
「チーム?」
「そうだ、なら俺達のチームに入る気は無いか?お前の目的にも合ってると思うぞ」