新米冒険者タク
僕の名前はタク。下の名前もあるらしいけど使わないので忘れた。今回は僕が語り部として僕の物語を語ろうと思う
「ねぇねぇーししょー」
「何だい、タク」
「都会に行き「ダメ」」
「なんでさっ!!」
僕の話を師匠は歯牙にもかけずに地平線の彼方まで蹴っ飛ばした。師匠の今の見た目は完全にハイエルフの幼女だけど修行の時、オッサンになったり大人なお姉さんの姿になるので、きっとこの姿も固有武器で姿を偽っているのだろう
「都会に行っても人しかおらんやんっ!!」
「イイじゃん。賑やかで楽しそうだと思わない?」
「思わんっ!!だいたい人なら我がおるやん、何?我に不満でもあるのっ?」
「いや師匠に不満はありません。むしろ大好きです」
そう言うと師匠の頬は真っ赤に染まる。師匠は小さい頃から育ててくれて本当の親のように思っている。反抗期がこなくてきっとうれしいことだろう
「でも師匠いつも仰ってるじゃないスっか。物事は様々な角度から見ろって。だから見識を広げるために広い世界をみていきたいんです」
目が覚めるともうすっかり見慣れた荷物の山と酒瓶片手に何が楽しいのかニヤニヤしてる【鉱人族】のオッサン。2週間前ならガコンガコンと不規則に揺れる竜車にケツが痛いだのドワーフのオッサンに酒はもういいだのうるせぇだの文句を言っていたところだが、2週間も経つとこの揺れも何処と無く気持ちが良く、オッサンの戯言を聞き流すスキルと二日酔いに対する耐性もカンストし、どうやらいつの間にか眠っていたようだ。
ドワーフのオッサンのせいでカンストしたスキルは前者はともかく後者はなかなか有用だと思う。獲得する為に必要な頭痛や吐き気の酷さを考えると割に合わないけど………。
「おっ、やっと起きたか。」
そう言って僕にガハハと豪快に笑うドワーフのオッサン。このオッサン僕を十日程前に竜車に乗せてもらってからずっと、常に酒を呑みながら「ワシ、実は元貴族にゃんだぜ。ガハハハ。」とボロボロの家紋を見せびらかせながら自慢してくる。もういい加減ウザったくて滅多にタメ口を使わない僕でもタメ口を使ってる。僕と街でいろいろあって方向が一緒だからと護衛って名目で俺を竜車に乗せてくれた。
「おいタク、さっき御者が言ってたんだがあと少しで帝都に着くぜ。もうそろろそ降りる準備をした方が良いんじゃねぇか?」
目を擦って目脂を落として竜車に着いている小窓から外を除いてみるとすぐそこにとても巨大な壁が見える。恐らく帝都の防壁なのだろう。このペースで竜車が走り続けるなら後10分もかからない。
オッサンの言葉に頷いて俺は荷物を纏める。荷物といってもあるものは親から貰ったガターナイフと着替えの下着や当面の資金などの小物ばかりでさほど時間もかからない。荷物を纏めて直ぐにでも降りれるように準備を整え終わると竜車はクローナの街の門の手前まで来ていた。御者さんが門番と軽くやり取りをして街の中に入る。
街の中はニックの故郷の村の木造建築とは違いどの建物も煉瓦造りのしっかりとした建物。(所謂中世ヨーロッパ風という奴)辺鄙な田舎村出身である僕にとってその建物の一つ一つがとても感動的な物だった。これでも一般市民が多く住むエリアで貴族街はこれがボロ小屋に見えるくらい立派らしい。すごいな
「ニック、あっちの門の手前に見えるやたら大きな建物が帝都の冒険者ギルドだぜ。冒険者になるためにこの街に来たんだろ。」
街に入って暫くするとオッサンが右側にあるやたら大きな建物を指差しながら言った。俺はオッサンに二週間も竜車に乗せていってくれたことに感謝を込めて礼を言って竜車を降りる。
「ありがとな。オッサン」
それをオッサンは「いいってことよ。」といつものように豪快に笑い飛ばした。
「そういえばオッサン今日はまだ酒のんでないんだな。」
「まあ、大切な友との別れだからな。それともあれか、最後まで酒場でやった飲んだくれの歓迎の方が良かったか。」
「いや、それは絶対に嫌です。」
酒場でやった歓迎とはサイズで言うと中くらいの樽の酒をいっきで飲む、っていうより飲まされることだ。
後で聞いたのだが樽に入っていたのは度数が70もある酒だったらしい。冗談じゃない。今度あのリアルに溺れるような量の酒を飲まされると今度こそ死ぬ。
「ガハハ、まあそれは冗談だ。とりあえずコイツを受け取れ。」
ポイっ、と不死鳥を象った燃えるように紅い彫刻をオッサンは投げつけてきた。
「なんです、これ?」
「何かトラブルがあったら冒険者ギルドと街中横丁ってとこの間にある『ソーマ』って酒場にこれを持って来な。1回くらいタダで解決してやるよ。おっ、そろそろ冒険者ギルドに着くぜ。」
そう言ったあと僕を降ろして、地竜を巧みに操りUターンした。オッサンは此方を見ずに手を降りながら冒険者ギルドの反対の道の方へ走っていった
ようやく僕はある事に気付いた。
オッサンの名前聞いてねぇ
帝都の冒険者ギルドへ着いた僕の感想は、スゲェーの一言に尽きた。
外から見た外観ですら信じられないレベルの大きさだったのに、中は噂に聞く空間魔術で広げているのか外観より大きく中に飲食店や宿泊施設が何店舗もあり、おまけに真ん中の天井は光の為か一部がくり抜いてあって、見えるだけで四階建ての構造になっている。更に奥の端っこには地下へと続く階段がある。
ニックの住んでた村から少しした所に、田舎にしてはそこそこ大きい村にも冒険者ギルドは一応あったが、それはこんなバカでかい建物では無く、小さな掘っ建て小屋に依頼書を貼るための掲示板と、事務員の座る作業机と、受付カウンターがあるだけのこじんまりとした建物だった。
取り敢えず、タクはアイテル村から帝都までの護衛依頼の報告をする為にカウンターに並んだ。
「こんにちは、本日はどのようなご要件でしょうか?」
「護衛依頼の報告に来ました」
そう言って僕はカウンターの受付嬢さんに依頼者のサイン付きの依頼用紙を渡す。これが無ければ依頼は失敗扱いされ受理されず、しかもギルド会員としての評価が落ちてしまうのだ。更に、この用紙は魔法で嘘が分かる様になっていて、一年で2回以上虚偽の申告が発覚した場合、ギルド支部のランクや冒険者の等級によって違うが、僕の場合、問答無用で罰金500万Gと冒険者ギルドの永久追放という厳しい罰があるのだ。その為別段虚偽の申告をして無くても報告の際はいつでもドキドキだ。
「はい、確認しました。冒険者ギルド、アイテル支部所属第三等級冒険者のタクさんですね。では、こちらが報酬の30万Gです。どうぞ。」
虚偽の申告とは思われなかった様で、ほっとひと息をついてから渡された袋の中には1万Gの金貨が1枚、2枚、3枚………29枚、30枚。よし、ピッタリだ
「それでは、タクさん。アイテル支部の冒険者ギルドから帝都のギルドへと移籍しますね。えっと、アイテル支部のギルドランクはE。帝都支部のランクはAなので、第三等級リクさんは帝都では4段降格の第七等級冒険者となります。」
「あぁ、そんなに下がっちゃうんですね」
ギルドランクというのは、冒険者ギルドはあちこちに支部を置き、それぞれが独自に担当地域の依頼を処理するので、地域によっては大量にモンスターが湧くので冒険者の質がやたら高い所や、あまりモンスターが湧かないので冒険者の質が低い所など各支部の冒険者の等級が同じでも質が全く異なるのでそれを調節するために作られた制度だ。
例えば、ギルドランクがAランクの支部の第七等級冒険者がギルドランクGのギルドへ移籍した場合6段昇格して最上級の第一等級冒険者になるのだ。まぁ、一部の例外を除き、本当にその位の実力の差があるのだ。
閑話休題
話は変わるがタクは今日の寝床を探さなければならない。最悪貧民街や都市を囲う壁の外で野宿でもいいのだが、そういう所は治安が悪いので出来れば馬小屋でいいので寝床を確保したい
「ところで、帝都の宿(馬小屋)の相場って1晩いくら位ですか?」
「えっと、宿ですか?宿(人間が泊まるための設備を備え、寝具を提供する施設)なら安いとこなら3万Gあれば足りますけど高いとこなら10万G位しますね。」
「マジですか!都会は物価が高いとは聞いてたけどこれ程とは」
タクの住んでいた田舎村では、冒険者とは村に湧いて出たモンスターなど村では村民が片手間に普通に絞め殺せたが、畑を継げない農家の次男以下の様な仕事にありつけない者が食い扶持を稼ぐ為に仕方なく町が用意した救済策のようなものだった。
村の近くに湧くモンスターはゴブリンやコボルト等金にならないが賢く生き汚い低級のモンスターばかりで倒しても報酬は雀の涙だ。そうなれば、寝床など雨ざらしのボロ屋か馬小屋が限界だ。
しかし、帝都は地下にダンジョンがある為、別名『迷宮都市』とも言われている。ダンジョンにはモンスターが殆ど無限にリポップする為モンスター等腐るほどいるし、迷宮産のモンスターは魔石が体内で生成され、魔石の需要は国内外で無限にある。つまり、冒険者はいくら集まった所で飽和状態にならないのだ。
よって帝都では冒険者は高給取りの職業の一つという訳であって、そんな職業の者が宿という言葉を言うと帝都では大抵が受付嬢さんと同じような施設を想像する。ましてや、馬小屋など想像する者は同じく移籍してきた者以外いないだろう。ただし、先人がその事を後輩に伝える可能性など万に一つも無い。
理由は多々あるが無知な後輩に先人は皆口を揃えて『帝都は物価が高いから仕方がない』と言う。大体は自分達だけ不幸な目にあうのは納得いかないからという腐った理由なのだが
「………貧民街でも探すか」
「あっ!そうか、タクさんは帝都の外からの方でしたね。でしたら―――」
よって、タクがとった行動は先人達の例に与らず浮浪者の様に地べたで寝る事を決意した。その時の呟きが受付嬢さんに聴こえていたらしく、特に帝都に上って来た時に馬小屋で寝たり、貧民街の地べたで寝たりしなかった受付嬢さんが帝都のギルド員にとって数万Gは端金になる事を伝えてくれた。
いい人すぎる
「タクの受付嬢さんへの好感度が20上がった」
「何か言いましたか?」
「あっ、いや、なにも」
「じゃあ、安い宿屋がまとめてある資料とってきますね」
ちょうどその時隣のカウンターから怒鳴り声が聴こえてきた
『あぁ、てめぇふざけんじゃねぇぞ!俺様を誰だと思ってやがる!』
『ですから先程伝えた通り規則ですので、そういった陳情は受け付ける事は出来ません』
『だっから俺様はラクの街では最強の第一等級冒険者だったわけ。それなのになぁんでそんな俺様が第七等級冒険者なんてやんなくちゃいけねぇわけだ?アァん』
『先程伝えた通りラクの街のギルドランクはG。そして、帝都のギルドランクはA。よって帝都ではナツラムさんは6段降格の第七等級冒険者となります』
隣のカウンターの受付嬢さんは怒鳴り散らしている人族の様な冒険者の相手を慣れているのか毅然とした態度で言い返し押し問答を続けている
「お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
「早速ですがこの宿何ていかがでしょうか、1泊、飯付き共同部屋のギルド公認の宿です。仲間探しの場としても新人の間では有名ですね」
「(ズ~~)へ~なかなか良いですね。凄いですね隣のカウンターの人。僕、一人称が俺様って人初めて見ました」
「(ズズ~)私も降格が納得いかずに怒鳴り散らす方は偶に見ますが平民の一人称が俺様って方は初めて見ましたね。でも、一人称が僕っていうのも冒険者としては珍しいですよ」
「あはは、変えた方がいいですかね?」
「可愛くて良いと思いますよ。あっ、良ければお菓子もどうぞ。」
「(ムシャムシャ)すっごく美味しいですねこのお菓子。ところで、ああいう感じの人ってよく出るんですか?」
「(バクバク)そう言って頂けると作ったかいがあります。まぁ、半月に1度は必ず出ますね、そんな事をすればギルドの内申面での評価が下がって余計に不利になるのに」
「(ズズ~)へぇ~、受付の仕事も大変なんですね。受付嬢さんもあんな感じで対応するんですか?」
「えっと、カラで良いですよ。そうですね、先輩程綺麗には出来ませんけど研修ではどんなに噛み付かれても無感情で、規則ですので、の一点張りをしろと教わりましたからね。」
そう言ってカラさんが無表情になる。しかし、隣のカウンターの受付嬢さんの様に凛々しさは無く何処と無くバカっぽくて
「何だか可愛いですね」
するとカラさんの顔が真っ赤に染まっていく。可愛い
「(カァ~)あ、ありがとうございます」
『だぁから~………』
『ですから………』
そんな喧騒を横目に、絡まれている受付嬢さんには同情しながら世間話に花を咲かせる事、5分。遂に事件が起きた
『ちょっと、アンタらさっきから煩いんですけど』
『アァん、何だチビ。俺様は今大事な話をしてるんだ。ガキは失せろ!!』
ドワーフの少女が騒ぎを見兼ねて押し問答をしている二人に文句を言ったのだ。そして、それに気付いた周りの冒険者達が必死に彼女を止めようとする。しかし、少女は止まらずにこう言い放った。
『へぇー、第一等級冒険者に喧嘩売るなんて大した度胸ね。格の違いって奴を教えてやるわ。表へ出なさい』
『ハッ、こんな糞ガキが第一等級冒険者なんて帝都のギルドは底がしれてるな』
『人を見掛けでしか判断出来ない小物が調子に乗らないでくれる』
さすが冒険者、いくら少女とはいえ喧嘩っ早い。それにしても人族の男には悪いが、あのドワーフ女の子から痛い程伝わってくる強者のオーラが分からないなら第七等級冒険者も怪しいだろう。
「(ズズ~)何だか凄いことになってきたんですけど良いんですか?放っておいて、あの男ボコボコにされますよ。というか下手したら死にますよ。」
「おかわりどうぞ。良くは無いんですけど、巻き込まれたらたまったもんじゃないですから大抵は黙認しますね。それにクリックさんは容赦は無いですが一応加減はしてくれるはずです。」
「へぇーそうなんですか。おっ、この宿安くて広くていい感じじゃないですか」
「あっ、その宿は止めておいた方が良いですよ。曰く付きの宿でしてね。その宿に泊まった人は必ずと言っていい程その月の内にモンスターに殺されるんですよ(ブルブル)」
「(パクパク)怪談好きなんですか?」
「(ズズ~)好きか嫌いかで言えは好きですね。怪談の類は全部レイス等のアンデッドの仕業だって言われちゃうと夢がないじゃ無いですか」
『おい糞ガキッ!見た所魔法主体の戦い専門だろ。俺様はなぁ『魔力減衰』って特殊体質持ちなんだよ。 あの世で喧嘩売った事後悔しな』
『ちょっと、暴力行為は禁止ですよっ!』
『………つまんないわね』
ドッカーーン!!
そんな話をしている内に隣のカウンターの騒ぎが大きくなり魔法の爆ぜる音が聴こえてきた。
「あれ?こんな所で魔法を放ってもいいんですか?」
「よくはないけれどよくある事なんでいいんじゃないんですか?」
「なんというか、カラさん何だか慣れてますね」
「ああいった生意気な新参者は大抵が上級冒険者に洗礼を受けますからね。でも第一等級冒険者直々に洗礼をする事は希ですからね。あの人族の男も貴重な体験が出来ましたね」
「(ズズ~)というか、あの女の子ヤバいくらい強いですよね」
「(バクバク)それは、クリック・クラックさんは最年少の第一等級冒険者ですからね。帝都のギルドでもソロでの到達階層なら断トツのトップですね。カーディア魔法学園の天才ですよ」
「(ズズ~)強い上に頭も良くて容姿もすっごく可愛いとは、そんな完璧な人っているもんなんですね。ちょっと荒々しいですけど」
「そうですね…………………というか、私の前で他の女の子を褒めるなんてどうかと思いますけどね」
「あれ?カラさん何か怒ってます?」
「怒ってません!」
「いやいや、怒ってるじゃないですか」
う~ん、女の子の気持ちって言うのは山の天気と同じって聞くけどホント分からない。そんなふうにむ~んと唸っているとコチラに話しかけてくる陰があった。
「ちょっと、アンタらいい加減にして!!」
「「私(僕)たちですか?」」
「他に誰がいるっていうのよ!こっちはイライラしてるってのに隣で菓子食って茶飲んでイチャイチャして気が散るのよ。というかアンタも新人でしょ。丁度いいわ、この三下のカスだけじゃ話にならないし。アンタ、コイツと一緒に私と戦いなさい。根性叩き込んでやるわ」
そう言って彼女が指さした所にはノビて大の字に泡吹いて倒れてる人族の男とそれを囲む野次馬冒険者達。いや、もうこの人根性叩き込まれてるじゃん
『おい!この男ショックで心臓止まってるぞ。誰か人工呼吸器を』『お前がやれよ~』『そうだぞ~1番最初に気付いた人がやるべきだ』『俺には………無理だ。こんなむさ苦しい男は!美少女なら率先してやるんだが、クッソ!』『退いて、ボクがやるよ』『おっ、お前は【男色家】のゴンザレス!』『あは♡ちょっと貧弱だけど顔は中々じゃない。
そ、れ、じゃ、いっただきま~す』
むっちゅぅ~~~♡
『『『オッヴェェェーー』』』
いろいろ言いたい事があったけど胃からこみ上げる吐き気によって考えていた事が全て消えてしまった。
ゴンザレス………恐ろしい子!
まったく嫌なもの見てしまったな。何か食べた後なら確実に吐いていた。と思ったら野次馬の半数以上は酒場で充分に食べた後だったらしく口元を抑えて走っている。ご愁傷様。
「えっと、何の話をしてたんでしたっけ?」
「えっ?!そ、そうよ、イチャイチャしてムカつくから大人しくシバかれなさいって言ってんのよ」
そんな事いってたか?!というか、おい、今この人絡んできた理由忘れてただろ!頭上に一瞬『?』の文字が浮かんだぞ
「いやいや、勘違いですよ!イチャイチャなんてしてませんよ。ですよねカラさん」
「は、はい!そうですよ、タクさん」
「ほら、してないじゃないですか」
「それがイチャイチャしてるって言うのよ!あ~もうイライラする。良いからとっとと来なさい」
さっきから何か余計な事をして余計にクリックさんの機嫌が悪くなってるのはきっと気のせいじゃない筈だ。
「ちょっと、困りますよ!!」
流石にこの態度は横暴だと思ったのかカラさんが止めに入ってくれた。ありがたやありがたや
「タクさんは今日帝都に来たばかりなので宿を決めないと困ってしまいます。ですので又後日という事に出来ませんでしょうか」
「宿くらい私が金の力でいくらでも何とかしてあげるわよ!私は仮にも帝都の第一等級冒険者よ。年収がどのくらいかアナタも知ってるでしょ」
え~、この感じって完全にクリックさんとやらなきゃいけないパターンじゃん
「そう言う事でしたら、タクさんへ同意の上で誓約書を書いてもうならギルドとしては何も文句はありません」
「あ~もう書けばいいんでしょ書けば、ほら、アンタも書きなさい」
「あの、これって僕書かなくてもいいんですかね?」
「書かなかったらアンタの事ゴンザレスに紹介するわよ」
「はいっ、不肖タク・マラスカありがたく書かせて頂きます」
何かもういろいろあってやけクソ気味になってる僕等。僕が書き始めるとようやく自分の思った展開になりそうだからか少しだけクリックさんの機嫌が直ってきた。けれどもこれは何も産まない気がしない事もない
「お待ちください」
ただ早く周りの冒険者達からの奇異の視線を浴びるのを終わらせる為誓約書に名前を書こうとすると吊り目のエルフの女性が僕達に話し掛けてきた。
もうこれ以上面倒な事にしないでくれと恨みを込めた視線を送った僕とカラさんは間違ってないと思う。よく見るとこの人、隣のカウンターの受付嬢さんじゃないか
「何よ、私今凄くイライラしてるからつまらないことだったら怒るわよ」
「冒険者ギルドロビー内での許可の無い魔術的な武力行使は厳禁です。罰則として1週間の奉仕活動と罰金はナツラムさんの治療費と合わせて70万Gを支払って貰います」
「ちょ、ちょっと何よ!いっつも他の奴らが駆け出しに同じような事してるじゃないの。奉仕活動なんて御免よ」
「あれはギルド内の風紀を整える為に特定の冒険者にギルドが正式に無傷で制圧する依頼を出しているからです。クリック・クラックさん。アナタのそれはタダの周りに危害を与えるだけの八つ当たりです。仮にもクラックさんは第一等級冒険者、それも、七階覚醒。戦術級と言って過言でない強さです。アナタの場合タダの初級魔法でも下手すれば大災害です。強者は強さに責任を持つ事を理解してください」
その後も隣のカウンターの受付嬢さんの話は続き、クリックさんは何か言いたげに口をごもごもしていたが何も言い返せずに遂に黙ってしまった。そして、クリックさんが折れた
「クッ…奉仕活動なんて何をすればいいの」
「1週間ギルド内のトイレ掃除、又は都市内の下水道の掃除。あくまで罰則なので報酬は現金では無くギルド内の食堂の食券です」
「クソっ、アンタ達覚えておきなさいっ。絶対に許さないんだから!」
クリックさんは、隣のカウンターの受付嬢さんに襟首を捕まれ奥の方へ引き摺られながらも、ビシッと指を僕達の方へ差し向けてくる。えっ、これ僕らが恨まれるの?自業自得じゃん
ともかくボクは今日、初めて来た迷宮都市の冒険者ギルドで初対面の凄腕美少女冒険者に逆恨みをされた。それで結局宿屋はギリギリ空いていた冒険者街の安宿に自費で泊まりました。まる。
翌日、宿を出てから冒険者ギルドへ向かった。冒険者ギルドに付属する酒場は朝まで営業しているらしく、屍がそこら中の床に転がっている
あっ、清掃してるオバチャンが屍をモップで掃除している。そのゴミのような扱いは辞めてあげてよ。彼らにも人権はあるんだよ
「あぁん?」
怖っ!!いや何もないっス。……はい
「こんにちは、あっ!タクさん。」
タクはそそくさと逃げるように適当な受付へ向かうと、そこにいたのは昨日の受付嬢のカラさんだった。
「あっ、カラさん。こんにちは」
「はい。それでやっぱり今日はダンジョンへ向かうんですか?」
「そうですね。とりあえず試しに一階層だけでも潜ってみようと思います」