居酒屋ソーマ
『力こそ最上なり』
初代皇帝のこの意志に基ずきラマナ帝国では国民一人一人が魔術や武術、鍛術を極めんとし、兵士ならば一卒兵であっても一人で他国の小隊一隊を相手取れる修羅であり、学士ならば修士でさえ知の真髄を極めんとする学者である完全実力主義の国。そんなラマナ帝国の国民性は好戦的の一言に尽きる
帝国の特徴として、18歳以下の帝国民は無償で魔法学校か騎士学校、士官学校のいずれかに通うことが出来る。その為、識字率も6割を超え、圧倒的に大陸の他国より発展している
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帝都【カウズン】の西門そばの通りを曲がった裏路地には冒険を終えた冒険者達が集まる連日満席の酒場がある。
冒険者とは街の外やダンジョンでモンスターを狩り、討伐依頼の報酬やモンスターを倒して採れた素材や魔石を販売する職業のことで、力を信奉する帝国民には圧倒的に人気のし職業である。
話が逸れたが、俺はそんな冒険者として12の時に帝国にやって来て先程の話に出てきた酒場でコックとしてバイトを3年ほど続けて、つい最近晴れて【料理長】の座に就いたニック・ヘキサライズという者である
「………追加、鶏から2つ。味付けは………塩だった?」
この肩に掛かるか掛からないか程度の黒髪ショートカットで黒と白を基調とした給支服にピッシリと身を包んだ、見た目だけは完全に「私、仕事出来ますから」感に溢れた美少女だが、適当にしか注文を聴けない駄ウエイトレスの名前はセナ。
貧民街出身の為、姓が無い。俺と同じく12の時にここへやって来て、この店でウエイトレスとして働いている。俺と違うところがあるとすれば
『おい、頼んだ物と違うぞ。どうなってんだこの店は!!毎回毎回注文と違うのがくるじゃねぇか!!』
―――ポカが多すぎて給与が増えない事くらいだろう
「おい、セナ。頼むから客の注文くらいちゃんと覚えろ」
「………善処するつもりで前向きに検討する」
「改善する気0かよ」
幸いにもウチに来る客は酒さえ飲めればそれでいいし持ってくるウエイトレスが可愛いなら何でもいい、って考えの連中ばかりだが、それにしても働き始めて4年も経って未だに住み込みで店に泊まっているのも問題がある気がする。
この駄ウエイトレスに物事をしっかり覚えさせる為にはどうすればいいか考え始めたが、酒場の喧騒によって現実に引き戻された。そうだ、今は働かねば
さっきの毎度注文を間違えられる客にはお詫びとして賄いで余ったジャガイモのフリッターでも渡しておこう
「セナ、これ奥の7番テーブルへ持って行って」
そう言って厨房とウエイトレスの間の小窓から俺がセナに渡したのは猪に鹿の角を生やして大きくしたような魔物、イノシカの肉を玉ねぎ、人参、大豆と共にデミグラスソースとワインを基本としたスープでコトコトと長い時間煮込んだシチュー。これはギルド長に教わった異国の料理だが中々に美味いのだ。
「………美味しそう。……相変わらずニックは優秀」
「お前と比べたら誰だって優秀だ」
するとセナは何を言ってるの?とでも言いたげな心外そうな表情をした
「………違う。……周りが優秀なだけ。……私は普通」
「へいへいそうですか。ところでこれ何処に持っていけばいいか覚えてる?」
「………人は失敗して成長する生き物である」
「お前は失敗し過ぎだし成長してないね。」
「………ニックは私をみくびりすぎ、……私だって成長する。」
「はいはい、7番テーブルだぞー」
「………分かった」
ニックの明け透けなもの言いを不服に感じながらもセナはお盆にイノシカのシチューを注いだ皿と水を載せてトテトテトテとでも効果音が付きそうな足取りで奥のテーブルの客へとシチューを渡した。
セナは此方に戻って来るなり、見たでしょ、とでも言いたげにピースをしてきた。でもセナよ―――
「お~い、セナ。そこ5番テーブル」
とまぁ、こんな感じでセナはこの店の問題児筆頭なのだが問題児ならまだ他にもいる
「いや~、相変わらずでありますな、セナ殿は」
「お前も相変わらず変な喋り方に変な服装だね」
この割烹着というヤマトの国の民族衣装を着た黒髪美少女の名前はキサラギ・カリン。抜刀術とみじん切りが大好きな、刀を極めるためヤマトの国から武者修行にやって来た冒険者で、居酒屋【ソーマ】のコックその2。あっ、その1は俺こと、ニック・ヘキサライズね。まぁ野郎の自己紹介等誰も求めて無いだろうから俺のことはほっといてくれ。あと、この店の問題児その2でもある
「むむむ、失礼でありますよ、… 確かにこの口調は多少訛ってるなと自分でも思っているであります。ですが、ニック殿!!この割烹着は我が家の女子に代々伝わる伝統衣装でありますよ。この割烹着をバカにする事は幾らニック殿でも許さないであります」
そう言うとぐいっと顔を近づけてこっちを覗き見てくる。うっ、そのキラキラとしたオーラのする顔を近づけるのは止めてくれ
「……近い近い。いや、調理中に割烹着を着るのは、文化のちがいだなぁ、って思うけどまぁ理解できるね。でもさぁ」
「でも?」
「何で腰に刀を装備してるのさ」
そうなのだ、割烹着で調理をしているのは美少女から家庭的な雰囲気が溢れていて隣で調理出来る身の俺としては役得過ぎるのだ………。
―――腰に刀さえ差してなければ
何でこの子は調理場に武器持ってきてるの?馬鹿なの?アンバランス過ぎるでしょ
だがカリンは人差し指を口元に持ってきてチッチッチッとゆびを振りながら余裕の笑みでこう言ってきた
「ウフフフ、安心してくだされニック殿。この刀は『仕事用』ではなく『オシャレ用』なのであります」
「『オシャレ用』って何だ?、刀バカ!!!」
「だってニック殿は私の普段の相棒『骨肉喰ライ』を厨房に持ってきたら怒るでありますよね」
「当たり前だ、バカ。あんな血生臭いもん絶対に厨房に持ち込ませるか。」
『骨肉喰ライ』とはカリンの通常装備している刀で肉や骨を斬ることで切れ味の増す魔剣の事だ。仮にも【料理長】として厨房の責任を持つ者としてそんなもん厨房に持ち込ませる訳にはいかない。
とまぁこの二人がこの店の問題児筆頭なのだが二人共美形ってだけでチャラになるってのが腹の立つところだ。因みに美形で問題児ならあと一人いるのだが今日はシフトから外れているのでこれは今度にしておこう。身が持たん
□■□■□■□■2時間後□■□■□■□■□
日も完全に暮れ、十数個のテーブルとカウンターの席も埋まり客のテンションも最高潮に上がって店を覆い尽くすばかりのバカ笑いの中に注文が嵐のように飛び交う。つまり何が言いたいかと言うと、マジでホントに超忙しい。
おい、セナ注文が違う。ウチの店のメニューに『プリプリの女の子(中辛)』なんて無い。あったら俺が頼むわ。
コラ、カリン厨房にその血生臭い刀持ち込もうとするなブチ殺すぞ。
そこの冒険者、店員をナンパするな、止めとけここの店員は顔だけはいいが色々と残念だぞ。うわっ、ゴメンゴメン冗談、う、嘘だよね。カリンさん、その『オシャレ用』の刀は仕舞おう、な、な。
「問答無用、風林流壱ノ太刀『つむじ』」ギャァーー問答してないーー
「ニック殿、大変なのであります!!」
「そうだな、大変忙しいな。まぁカリン、ここが一番の山場だ。誰かさんのせいで厨房がズタズタに破壊されたせいでいつもより忙しいな」
「………ホントでありますな、お客様が多くて何より、有難い悲鳴が止まらないであります。」
このヤロー、軽く流しやがって
「てっ、そうではなくて、今日の分の用意していた分のお肉がもう殆ど無いのであります」
「で、何の肉が無い?」
「バッファローとイノシカがないであります。他はまだ大分余裕があります」
「安心しろ、それならならちょっと前にカス………店長に追加で肉を買ってくるように頼んである。そろそろ戻ってくるはずだ」
「そうでありますか、安心したであります」
俺も確認してみるとイノシカは後3人前程とバッファローは8人前程残っている。後数十分で帰ってくるのでウエイトレス組に注文を聞く際、客にバッファローとイノシカ料理は時間がかなり掛かると伝えろと伝令をすれば問題はないはず―――
「………注文追加、イノシカのステーキ10人前、………3番テーブルから、………要望『レアで良いからとにかく早く』」
「アハハハハ!そんな変な注文する人いないよね。もっかい聴いてきてよ」
「………分かった」
セナは店の入口付近にいる銀髪ロングヘアーが微妙に似合ってない男へと歩いていった。トテトテトテ、ゴニョゴニョゴニョ、トテトテトテ効果音を付けるとしたらこんな感じだな。
そして、注文を確認したらしくと戻って来た。
「………やっぱり合っていた」
「ほらな、やっぱり注文間違いだったろ、で、ホントの注文は―――合ってたの!?」
「………私だって成長する」
セナは手を胸の前に出してVサインをしてくる。このヤロー、成長したのは嬉しいのだが素直に喜べねぇ。タイミングが悪いよ、タイミングが
「………私だって成長する」
「たっく誰だ?こんな注文した奴」
小窓から巫山戯た注文をしてきた銀髪ロングヘアーの男を恨みのこもった視線で見つめているとこちらの視線に気付いたのか此方に嫌らしい笑みを浮かべてくる。
あっ、あの憎たらしい笑みはカリンに散々言い寄ってこっぴどくボコボコにされて振られたエルフの中級冒険者のアルーじゃないか!サラサラのロン毛ってイメチェンか?プッフー、似合ってねー
というか振られたからって嫌がらせか?うわっ、小っさ、小っせーな、この男。そりゃカリンに振られるわー
ただ此方もそんな小さい嫌がらせでピンチになってるのは事実だ。だったらやる事は一つだ
「「店長ぉぉぉーー早く帰ってきてーー」」
厨房勢は店長が早く帰るように祈りを叫んだ
「「店長ぉぉぉーー早く帰ってきてーー」」厨房勢が大声で店長の帰りを祈り叫ぶ少し前。
帝都【カウズン】の北西門住民街三丁目通り。食料品、家具、魔導具、日用品から市民の日々の生活に必要なものなら何でもござれ。この通りで揃わないものは無いと呼ばれる程の数の店が数キロにわたって立ち並ぶ市民の買い物の場。住民街の丁度真ん中で横切るようにある事から通称【街中横丁】と呼ばれる商業街
そこに、如何にも鉱人族といった出で立ちの中年男が腰にジャラジャラと音の鳴る金の入った皮袋だけ持って歩いていた。彼こそが酒場【ソーマ】の店長、ソーマ・ムートスその人である
ドンッ!
「オウ、悪いな兄ちゃん」
「どこ見て歩いてんだ!気を付けやがれ!」
ソーマは前方の方から歩いてきたガラの悪い兎人族とリザードマンの二人組の冒険者らしき格好の男達にぶつかった。ガラの悪い冒険者風の男達はソーマを睨みつけながら怒鳴り声を上げ、足早に去っていく。
ガラの悪い男達は人通りの多い道を通りしばらくして、尾行がないか確認した後にソーマが持っていた筈の皮袋を漁る。簡単に言うと彼らはスリだ。スリは既に人通りの多い道に逃げてしまってソーマが今から見つけるのは至難の業だろう。
しかし―――
「ガハハハ、兄ちゃん。俺から財布をスる何て百年早ぇな」
ソーマの手には男がスった筈のソーマの財布と先程のスリ共の財布の合計3つ。ソーマは徐に男の財布の中身を漁り中から冒険者のギルドカードを取り出した
「第十等級冒険者?………この技、あの盗賊か?一応注意人物リストに載せておくか」
小さく呟いたソーマの独り言は誰にも聞こえなかった。
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ソーマとスリの男達のやり取りがあった数分後、街中横丁のとある八百屋の陰に隠れて怪しい動きをする陰が3つある。
「おい、本当にあの鉱人族のジジイが大金持ってたのか」
先程のスリの二人組とその兄貴分であり、一回り程大きな巨体の熊人族の大男。彼の名前はサマック。とある事情から盗賊団を仲間二人を巻き込んで抜けてこの街にやって来た小悪党。子分である兎人族とリザードマンの二人組の名前はマキナとズン。
「ヘイ、間違いないでさぁ、兄貴。俺の魔法【探知】。この能力でしっかり確認しましたが確かにあのジジイの皮袋の中には金貨銀貨がわんさか入ってましたぜぇ」
「じゃあ何でお前等はさっさと盗ってこなかったんだ!」
マキナとズンの報告に彼らの兄貴分であるサマックは苛立っていた。彼らには盗賊団に所属していた頃から技術を叩き込んでいた、マキナは魔法、【探知】で財布の位置を把握、ズンのスキル【動】のコンボならば一般人からどころか中級の冒険者相手でもスるくらいなら造作もないはずなのだ。それが酒の匂いのする酔った鉱人族相手に失敗するなんて有り得なかった
「いや、聞いてくれよ兄貴。確かに俺たちは盗ったんだよ。でもよ、皮袋を開けた瞬間手から消えたんだよ!おまけに俺達の財布と身分証も無くなるしよ。」
「開けた瞬間シッュって消えたんだぜ。魔法に詳しくない俺たちにアレを盗るのは無理でさぁ。兄貴、せめて俺達の消えた身分証だけでもどうにかならんですかねぇ?」
『開けた瞬間に消えた皮袋』
これだけなら元帝国民であり、魔導についてある程度教育を受けていたサマックには考えられる可能性が3つある。
1つは魔術付与という技術で、魔力を使って魔法術式を埋め込み1度だけ魔法を発動させる事が出来るという物だ。これの発動条件を『登録者以外が皮袋を開ける』という行為によって登録者まで転移魔術によって飛ぶ術式を組み込めば可能だ。転移魔術は高難易度の術式だが、それさえ出来れば魔術付与は案外簡単な技術なので出来るだろう。しかし、それではマキナとズンの財布が消えた事の説明がつかない。マキナとズンの財布が消えた現象は奪取と呼ばれる魔法を付与しなければならないが、それは技術的に不可能である。大昔の魔導朝時代には二以上の術式を組み込ませた魔術付与も普通に存在したそうだが今では完全に廃れてしまっている。
2つ目の方法は1つ目の方法を魔法ではなく個人のスキルで行うという物だ。初めに、スキルと魔力は全くこれっぽっちも関係していない。スキルとはどんな人にも最低一つ生まれつきあり、才能と努力で獲得出来る。スキルで一番単純でありふれているのが『強化』に関係するスキルで、その中でも『自身の肉体を強化する』や『周りの物を強化する』など様々な種類がある。次点で耐性系のスキルだろう
マキナとズンの言っていた現象は、『奪』系統のスキルを誰かがマキナ達が袋を開けた瞬間に発動させる。可能性で言えば一番可能性が高いのはこれだろう
2つ目の方法は魔法導具という主に『ダンジョン』で見つかるアイテムである。ダンジョンで見つかるアイテムには特殊な能力を持つアイテムが希に見つかる事がある。有名な物は『絶対に壊れない剣』や『1度だけ死を身代わりにするペンダント』などがある。ただ、全てが全てこんな便利な物だけでなく『柄まで炎を纏った魔剣』や『足の小指が角に引き付けられる指輪』とか巫山戯てネタに走ったとしか思えないような能力など多種多様である。ダンジョン産の魔法導具ならば闇に捨て値で流しても最低金貨1枚は稼げる程には貴重な物である。そして、『開けた瞬間に転移する』+『術者登録』+『奪取』の効果がある魔法導具など正規ルートなら0が十個程つく値段になるだろう。そんな物を持っている可能性は非常に少ない
脱線するが、魔法導具を模した魔法機は職人が創ることも可能ではあるが、能力は総じて低く、良くてマジックカンパニー(帝国の超巨大企業)略してマジカンが技術を所持する『魔力さえ注げば勝手に動く巨大ミキサー』の様な物が精々の限界だろう。マジカンの販売するこれで作った野菜ジュースやワイン等の飲料類は帝都の名物でもある
「消えた?まさか、魔法導具か?いや、ありえねぇな。転移系の魔術付与でも掛かってたのか?……まぁいい、脅して解除させれば関係ねぇ。俺達には金がいるんだ。お前等!作戦Aで行くぞ」
だが結局、考えても仕方ないので取り敢えずやってみるの精神でサマックはソーマをターゲットにした
「「おう!」」
「あんたら、そこにいると商売の邪魔なんだよ!さっきから客が逃げていくんだ。買わねえってンなら営業妨害だ。とっととどっかに失せろ」
八百屋のおじさんが怒り心頭で仁王立ちしている。八百屋の前でガラの悪い男達が何やら怪しい動きをしている。うん、立派な営業妨害だ。仕方ない
「ひぃッ!………コホン。すまねえ、じゃあこのオレンジ3つくれよ」
「毎度あり♪」
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「へい、いらっしゃい。おっ、ソーマの旦那、店の買い出しかい? チッ、酒臭えな」
「何か言ったか?」
「いんや、何も言っとらんけど」
「空見か?まぁいいか。聴いてくれよ、まったくひでぇ話だ。うちの従業員は店主を平気で扱き使うんだからよ――」
しばらくソーマの愚痴を肉屋の旦那は同情の視線を送りながら聞いて―――
「大変だな、店主って奴も。やっぱ世の中楽な仕事なんてそうそうねぇよ」
「ちょっと皆が忙しそうにしてる中で一人で酒飲んでただけで『暇なら買出しにでも行ってこいや』って怒鳴るんだぜ」
―――一瞬で侮蔑の視線に変わった
「訂正、そりゃソーマの旦那が悪ぃな………そこまでクズだとは」
「ガハハハ、旦那までそう言うとはな」
「あんま従業員に迷惑掛けんなよ。アイツらの本業はこんな事じゃないんだからよ。で、今日は何を買いに来たんだ」
「おう、そうだった。イノシカとバッファローの肉をくれ。量は………そうだな、じゃあ両方30キロずつ買うは」
「オーケー、毎度あり。すぐに用意するぜ~」
ソーマが買出しに来た時はいつものやり取りなので、慣れた
様子で手をぷらぷらしながら肉屋の旦那は肉を用意する為店の中に入っていく
ドカっ!
ガシャン!
それと入れ違いになるようにソーマに隣の通りからやって来てソーマにぶつかったのは先程のスリの二人組のリザードマンの方で手に壺を持っていたらしくぶつかった拍子に落として割れてしまった
「ありゃ?これはスマん―――」
「どこ見てんでぇ?割れちまったじゃねぇか、ああァん」
「おい、またテメェか、クソジジィ。おいおい、どう責任取ってくれるんだ」
「おい、爺さん、俺たちに少~し付き合ってもらおうか。何、誠意ってモンを見せてくれたらスグ終わるからよォ。ここじゃ周りの迷惑になるしチョっと向こうでお話しようや。」
「なるほど、ガハハ、いいぞ了解した」
チンピラ3人に囲まれて裏路地へと進むソーマ達を買い物客や商店の店主を憐れみの目で見ていた。しかし、下手に関わって自分に火の粉が掛かるのが嫌なのだろう。誰も助けようとする具体的な行動は取らない
やがて、ソーマ達は街角横丁から離れた裏路地の闇へと消えていった
「さぁて、じいさん。アンタが持ってる袋の中身、ちょっとくれないかな~」
「大人しく渡してくれたら痛い目には合わさないからよォ」
「わぁ~、俺達って優しい~♪」
「「「ぎゃははは」」」
ソーマは小さく呟いた。
「はぁ、あっちを立てたらこっちが立たないと来た。まったく、どうしたもんかな」
「あぁ?」
何のことだ、とサマックが言うことが出来なかった。目の前のカモが消えて視界が急に歪み建物の隙間から空が見えた。それを呆然と見ている事しか出来ず、背中に強い衝撃が走った。この時になってようやくサマックは自分がカモだと思ったオッサンに蹴飛ばされた事を把握した。
ソーマは最初に3人のボス格であろう熊人族の男に急速に接近、すぐさま蹴りを与え、男を吹っ飛ばす
(まずは一人目っと)
更に、蹴りを加えた時の衝撃を推進力に利用してリザードマンを派手な回し蹴りで建物に叩きつけてダウンさせる。
「グヘッ!」
自分以外の仲間が瞬く間にやられた所でようやく兎人族の男は行動を開始する。
(兄貴達が一瞬でやられるやられるようなバケモノに勝てる筈がねぇ。何とかして逃げなきゃ)
しかし、行動に起こすには遅すぎた。ズンが回避行動を取ろうとした時には、ソーマが回転を使ったラリアットが眼前に迫っていた。
「はへ?」
その時の行動は殆ど無意識だった。最近使えるようになった自身の『動』のスキルを応用した派生スキル『カバー』を発動した。このスキルは事前に設定しておいた半径5m以内の何かへ急速に移動するというスキルで高位の盾職冒険者なら大抵扱えるスキルの一つである。このスキルにより、ズンは自身の右方で壁に叩きつけられていたマキナの下へ急速に移動。動きについて来れなかったソーマがバランスを崩している間に逃走した。これにはソーマも感嘆した
「なかなかやるのォ、だが甘いわッ!」
だがソーマはすぐさま立ち上がり角を曲がり逃げ切ろうとするズン目掛けて石を蹴りつける
「アタッ!」
バタりと3人のチンピラが倒れる。こうして静かに騒動は収まった。
チンピラ達は知らなかったのだ。只の酔い潰れに見えたオッサンの正体がとある大派閥クランの頭領だということを。
そして、街角横丁の人達が憐れみの目で見ていたのはソーマでは無く自分たちだと