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ショッピングセンター『イロイ』

 私達を乗せた電車は時間通り、目的地の駅へと到着しました。


「右のドアが開きます。ご注意ください」


 車内アナウンスが流れると、すぐに右側のドアが開きます。

 多くの人が電車から出ていきました。

 私達もその流れに乗るようにして駅のホームに降り立ちます。

 ほとんどの人が電車を出てすぐ、改札の場所を示す矢印に従って歩いて行きます。

 私達はその流れには乗らず、少し離れた所で人の行き来が落ち着くのを待っていました。


「うっひゃー。本当にみんな降りたよ」


 人の流れを見つめていると、愛花ちゃんが呟きました。

 優里奈ちゃんの言っていた通り、ほとんどの人が同じ駅に降りていて、残った電車は、さっきまでの混雑具合が嘘だったかのように空いています。

 電車が発進するころには、乗客のほとんどが改札に向かっていってしまい、ホームの人はまばらに散っている状況でした。

 そうなって初めて、私達も歩き出します。

 改札から出ると、そのまま案内板に沿ってショッピングセンターに向かっていきます。


 ショッピングセンターは駅と繋がっており、駅の中には『ショッピングセンター イロイ こちらです』といった案内板が至る所に設置されていました。

 私達はそれを頼りに、目的地まで歩いて行きます。

 ショッピングセンター イロイ とは、全国の様々なところに建てられ、私達の住む地域から少し離れた所にも1つ存在しています。

 でも、そのイロイには電車でも数駅、車でも結構な時間がかかるために、気軽に行けるところではありませんでした。

 しかし、今日向かっているイロイは、そのイロイよりも私達にとっては近く、最近オープンばかりの新しいところです。

 駅直通で行けるのも幸いしてか、オープンしてから結構な人で賑わっていると愛花ちゃんが言っていました。

 さらには、イロイとしては結構な規模を誇っているらしく、ここのイロイでしか買えないブランドもあるとかっていうのを聞いたこともあります。

 学校でもイロイことは何度か話題に上がっているのを聞いたことがあり、特に女の子が行きたがっていた印象が強いです。


 イロイに近づいて行くうちに、行きかう人の数が増えてきました。

 そしてついに私達はイロイの入り口にたどり着きます。


「おぉ~」


 愛花ちゃんが中に入るなり、感嘆とした声を漏らしました。


「確かに、広い」


 イロイの中は吹き抜けの様になっているようで、1階から3階までを一気に見ることが出来ました。

 通路は広く設計されているらしく、確かに優里奈ちゃんが言っていたように、あまり混んでいるようには感じませんでした。

 3人が横に並んで歩いても十分通路には余裕があります。


「どこ行こうか」


 優里奈ちゃんが入り口近くの館内マップを見ながら呟きました。

 私としては少しだけ服を見れたらなって思っているだけなので、ここは、一番行きたがっていた愛花ちゃんが言うのを待ちます。


「スポーツ用品店ってある?」

「あるよ。一番端に」

「じゃあ、そこ行きたい」


 愛花ちゃんは優里奈ちゃんに指されたマップを見てお店の場所を確認すると、歩き出します。

 それに続くように私と優里奈ちゃんも隣り合って愛花ちゃんを追いかけていきました。



「広いなぁ」


 愛花ちゃんは目的のお店に向かっている最中も、いろいろと周りを見渡しては何か声を上げていました。

 確かにイロイは予想していたよりも広く、端まで行くのに結構な距離がありました。

 さらに、ショッピングセンターだけあって、その道中には色々なお店があり、目移りして仕方がありません。


「あっ!あのお店よってこ」


 愛花ちゃんがそう言って見ているのは、全国でも有名な洋服店でした。

 割とリーズナブルな値段で、質のいい服が買えるとあって、年齢問わず人気の高いお店です。

 今は何かのセール中なのか、お店の中には多くの人が、商品を見ていました。

 私達もお店の中に足を踏み入れます。


「まぁ、ここは安定だよねー」


 お店の中を見て回っていると、愛花ちゃんがニコニコしながら呟きます。


「見てよ。このスカートなんてめっちゃ安くなってる」

「ほんとだ。20%オフ」


 愛花ちゃんが手に取ったのは、少し記事の薄いロングスカートでした。

 確かに、値札には元の値段から引き下げられた値段が書かれてます。


「でも、愛花にロングスカートは似合わないかな」

「あははは……やっぱり」


 愛花ちゃんは店内にある姿見で、スカートを自分の身体に当てて軽く様子見をしていました。

 それを見て優里奈ちゃんは率直な感想を言います。

 それには私も同感で、頷きました。

 愛花ちゃんはどっちかっていうと活発な印象が強いので、ロングスカートや落ち着いた丈の服はあまり合っていないように思います。

 本人も分かっているようで、苦笑いをするとすぐに元の位置に戻しました。

 ある程度店内を見て回ったところで、私達は何も買わずに店を後にします。


 それから、愛花ちゃんの言ったスポーツ用品店まで、時々寄り道しながら向かいました。

 そして目的のお店にたどり着くと、愛花ちゃんは一直線にテニスコーナーへと歩いて行きます。

 テニスコーナーにはラケットやシューズ、ボールなど様々なものが売られており、愛花ちゃんの目がキラキラしていました。


「やっぱ、全然違うな~」


 簡単とした声を上げながら、いろんな商品を手にとってはワクワクした様子です。


「愛花ちゃん。楽しそうだね」

「確かに」


 私と優里奈ちゃんにはテニスの知識がないのでさっぱり分かりませんが、楽しそうな愛花ちゃんの姿を見ていると、自然と笑みが零れてしまいました。

 しばらく見ていると、満足したように愛花ちゃんが私達のところまで戻ってきます。


「いやー、満足」


 その表情は何かやり切ったように晴れやかでした。


「愛花ちゃん何も買わなくてよかったの?」


 私はそんな愛花ちゃんの手に何も持たれていないことに首をかしげます。

 てっきり何か買うのではと思っていただけに、少し気になりました。


「うん。品揃え見たかっただけだから」


 そう言って私にとびきりの笑顔を見せてくれる愛花ちゃん。

 本当にそれだけだったようで、満足そうな顔をした愛花ちゃんを連れ、私達はお店を出ていきました。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「理子はどこか行きたいところとない?」


 あれから少しの間3人でイロイの中を見て回っていると、優里奈ちゃんが私にそんなことを聞いてきました。


「うーん」


 私は特にこれといった目的があってきたわけではなく、服もこれまでにいろんなお店を見てきて満足していたので、少しだけ考えます。


「何でもいいよー。せっかくイロイに来たんだから、見たいとこ見ないと」


 愛花ちゃんにもそう言われ私は、近くのマップを見て気になるお店がないか探します。

 雑貨店はさっき行ったし、ゲームセンターもありましたが私はあの大きな音が苦手ですから、あまり行きたいとは思えません。

 映画館もありますが、今は違うでしょう。


「書店ってどこかにある?」


 私はマップで探すのをやめて、優里奈ちゃんに聞きました。

 興味があるといったらそういったところだけです。

 するとすぐに優里奈ちゃんが教えてくれました。


「それなら3階にあるよ」

「行きたいかな」

「よーし。3階にレッツゴー」


 ということで、私達は今いる2階フロアからエスカレーターで3階に上ってきます。


 書店は3階の中心ぐらいのところにありました。

 私は書店の前いくと文庫本を探して、その新刊コーナーを見て止まります。

 今月に入ってから、まだいつも行く本屋に行っていなかったので、どの新刊が出ているか分かりません。

 もしかしたら私の買っている小説の新刊が出ているかもと思い、上から順に見ていきます。


「何かあった?」


 優里奈ちゃんが私の隣に立つと、新刊コーナーに目をやりました。

 しかし、私は棚を見終えたところで首を横に振ります。


「ううん。まだ出てないみたい」

「そっか。理子ってどんな本読んでるの?」

 

 優里奈ちゃんが一冊の本を手に取り、その表紙を見ながら私に聞いてきます。


「なんでも読む……かな」


 私は今まで読んできた本を思い出すようにしながら、呟くように言いました。

 こうやって聞かれて思い出してみると、自分が特定のジャンルとして読んでるものがないことが分かりました。小説であれば何でも読んできている気がします。

 今買っている小説はミステリー物ですが、だからといってミステリーが一番好きだと言われると首をかしげてしまうのも事実だったりします。

 恋愛物も同じぐらい好きですし、ファンタジーもたまにいいなって思う時もあります。


「へぇー。じゃあ、理子は読むのが好きなんだ」

「多分そうだと思う」

「私は無理だなー。文字見てると眠たくなるんだよね」


 優里奈ちゃんはそう言うと、手に持った本を棚に戻しました。


「あははは。地味な趣味だよね」


 私はつい自虐的な声が漏れてしまいました。


「そんなことはないと思うけど。むしろ私はすごいと思う。ちゃんと好きなことがあるって、それだけ私としては憧れる」

「……ありがとう」

 

 優里奈ちゃんの優しい言葉に素直にお礼を言います。

 はっきりとそういうことを言ってくれる優里奈ちゃんは、本当にすごいと思いました。


「そういえば愛花ちゃんは?」


 私は、ここに入ってから姿の見えない愛花ちゃんが気になって優里奈ちゃんに聞きました。


「あー。愛花ならあそこだよ」


 そう言って優里奈ちゃんが見たのは、スポーツ本のコーナーでした。

 そこには、テニスと書かれたところで足を止めいろんな本を手にとっては中を見ている愛花ちゃんがいました。

 私は優里奈ちゃんと一緒に愛花ちゃんに近づきます。


「難しい」


 私達が近づくと、愛花ちゃんがどこか真剣な表情で本を棚に戻しました。


「どうかしたの?」


 私は珍しく真剣な表情の愛花ちゃんに聞いてみます。

 すると愛花ちゃんは頭をかきながら、少し自信なさげな声を出しました。


「なんかさー、本っていろんなことが書いてあって混乱するんだよね」


 愛花ちゃんはそう言うと項垂れます。


「学校の図書館にあれば、借りられるからゆっくり読めるけど、買うのはなー……」

「図書館にないんだ」


 優里奈ちゃんがそう呟きます。

 確かに、学校の図書館には小説や社会本ばかりがあり、スポーツ系は置いてありません。

 ですがそれは、これまで希望した生徒がいなかっただけで、本当に欲しいなら一言美世先生に言えば注文用紙を渡してくれたはずです。

 

「注文すればたぶん、図書館に置かれると思うよ」


 私はそのことを愛花ちゃんに伝えます。


「そうなの?」

「うん。美世先生に言えば注文用紙もらえたはずだから」

「知らなかった。じゃあ、あのファッション雑誌とかも誰かが希望したから置いてあるの?」

「確かに授業の時に見た気がする。学校の図書館にしてはこんな雑誌あるんだって思った記憶あるわ」


 愛花ちゃんや優里奈ちゃんが言ったように、図書館には雑誌も結構な種類があります。

 ファッションからアニメ、アイドルまでの様々な雑誌が数冊だけど常に完備されていて、月刊のものばかりで、毎月新刊が図書館には届きます。


「うん。過去の生徒の誰かが希望したんだって」

「へぇー結構自由きくんだ」

「じゃあ、今度美世ちゃんにお願いしてみようかなー」


 愛花ちゃんがそう言うと、また数冊本を手に取り中を見始めました。

 どうやらどれを注文しようか選んでいるようで、近いうち、学校の図書館にテニス本が並ぶかもしれません。

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