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愛花ちゃんの見たところ

 イロイの一件以来、理子っちと優里っちの仲がいまいち上手くいってない。

 いつものように私含めた3人で話していても、この2人は何だかぎくしゃくしているのがよく分かる。

 私から見れば2人ともお互いのことを気にしているみたいなんだけど、気にしすぎていてうまく会話が噛み合ってない。

 理子っちはその大人しい性格からか優里っちに一歩踏み出せずにいるし、優里っちも優里っちで、自分の発言が原因でこんな状況をつくってしまった手前、何も言えないでいる。

 こんなことになるぐらいなら、あんなこと言わなければいいのにーって私だったら思っちゃうけど、でも、優里っちの気持ちも分からないわけじゃない。

 最初こそ、優里っちの言ったことに対して私も怒ったけど、後から考えてみたら優里っちの言ってることって理子っちを想ってだってよく分かった。それに、この私が気づいたんだよ。理子っちが気づかないとは思えない。

 だから、私の一番の心配は理子っちじゃなくって、理子っちに対して避けているようにも見える優里っちの方だったりする。


「それじゃあ、今日の授業はこれで終わりね」


 美術の先生が私たちに対して、授業の終わりを告げ美術室から出ていく。

 それを見計らい、同じクラスの子達も続々と席を立ち、3階にある教室に戻っていってる。

 私もそれにならい立ち上がると、理子っちと優里っちの方へと歩いて行く。

 3人の中で、美術の時だけは私が2人から離れた席になる。理子っちと優里っちは隣同士だ。

 授業中、この2人を見ていたけど、会話しているようには見えなかった。いつもだったら2人して楽しそうに話している姿に、遠くで見る私が嫉妬するっていうのが当たり前なのに、ここ最近はそんなこと思ったこともなかった。あまつさえ、私の近くの子から「あの2人、何かあったの?」って聞かれるぐらいだ。

 あんまり2人と関わったことのない子からも分かるぐらいに、理子っちと優里っちの仲は目に見えて冷えているように見える。

 それでも、どちらも席を立たずに私を待っているところを見るに、どっちもこの状況を悪化させるつもりがないのが分かるので、まぁ私としては今はそれで十分だった。

 それに、これから会うであろう人を思うと、理子っちも優里っちも1人では動きづらいのかもしれない。

 私は沈んだ2人の空気を壊すつもりで、明るく声をかける。


「お待たせー!行こうぜ~」

「うん」


 私の声に反応したのは理子っちだけ。

 優里っちの方は無言で立ち上がって理子っちが立つのを待ってる。

 それを見ると、2人はぎくしゃくしているだけで、仲が悪くなっていないことは簡単に理解できた。だけど、こういうのって当人同士だとなぜか気づかないよね。

 理子っちは優里っちに見つめられると、慌てたように教科書とノートをまとめて、立ち上がった。


「優里っち……」

「うん…わかってる」


 私は優里っちに対して注意するように肘で軽くつつく。

 優里っちは理子っちのことを気にするあまり、理子っちを見る視線が鋭くなることがある。理子っちはそのせいもあって、優里っちに対して何も言えないままなのだ。

 何かを言いたそうにしているのは、理子っちを見ていれば分かるけど、優里っちの視線を受けると口をつぐんでしまうというのを、私はよく見ていた。

 私の声に、優里っちは視線を柔らかくしようと頑張るも、うまく出来ていない。

 そんな2人を連れて、私は美術室の横開きのドアを開ける。

 タイミングよく、私たちの向かいから先輩たちが移動教室のため教室から出てきて、階段に向かって歩いてきていた。

 その中にある2人の姿を私は見つけると、後ろにいる理子っちに声をかける。


「理子っち、平津先輩だよ」


 そう言って理子っちを私の前に移動させる。

 理子っちもその目で平津先輩を確認すると、顔を赤くして固まってしまった。

 純粋な乙女の反応につい私は可愛いと思ってしまう。

 だけど、優里っちだけは複雑な表情を浮かべている。

 私はそっと優里っちの隣に移動して、理子っちを見ていた。


「新菜さん」


 もう私たちの間では恒例となったやり取りを繰り広げる。

 平津先輩が理子っちに話しかけて、理子っちも楽しそうに話すといういつもの風景。

 だけど今日はちょっと違った。

 理子っちは今日に限ってはいつもより緊張していたのか、


「あ、あのそれでは!」


 急にそんなこと言って顔をさらに真っ赤にすると、平津先輩の隣を駆け抜け、そのまま階段を上がって行っちゃった。

 これには、流石の私も驚いた。平津先輩も驚いたように理子っちの方を見ていたけど、理子っちの姿が見えなくなると、私たちに気まずい表情を見せた後、石井先輩と一緒に階段を降りていった。

 私はそんな理子っちの様子を見て、いつもと違った様子に少しだけ考える。

 平津先輩のことを嫌いになったなんて考えられない。だって、平津先輩だと私が言った時の理子っちの表情は嬉しさに溢れていたかのようなぐらい、いい顔をしてた。

 顔を真っ赤にしてたんなら、多分、思っていた以上に今日は平津先輩がかっこよく見えたとかそう言った理由かもしれない。まぁ、私が考えても分かんないことだらけだけど、とにかく理子っちが平津先輩を嫌であんな行動をとったとは私には見えなかった。

 ほっと胸をなで下ろして、私は優里っちを見る。

 優里っちの顔は、理子っちの行動を受けて沈んでしまっていた。

 まぁ、仕方ないと思う。

 私には理子っちのこと、平津先輩を嫌いになったわけじゃなくて、好きだからこそ恥ずかしくなっちゃったんだって映ったけど、きっと優里っちの目にはそうは映らなかったと思うから。

 自分のせいで……って思ってるんじゃないかなって私は勝手に思ってる。

 そんな優里っちを連れて、私は階段を上がって行く。

 途中、私は沈んだ顔のままの優里っちの背中を思いっきり叩いた。

 バンバンっていい音がなるぐらい。


「なに、愛花」


 優里っちが怒ったような声で私に言ってくる。

 だけど本当に怒ってることなんてないこと、私はよく分かってるので代わりに悪戯っぽい笑みを返した。


「はぁ……あんたが羨ましいよ」


 疲れたようなため息を出す優里っち。

 なんでそんなに疲れているのか、私は全て分かったうえで、私はらしくないと自覚しながらも声のトーンを穏やかなものにして優里っちに語りかける。


「優里っちは考えすぎなんだよ」

「なにが?」

「理子っちのこと」


 なんで分かるっていうような顔をしたけど、誰だって優里っちを見てれば分かるよ。

 優里っちはこういう時、理子っちよりも分かりやすい。

 そして、いつもみたいに冷静に物事を判断できなくなる。

 だから、私は優里っちに対して話す。全然分かっていないようだから、ゆっくりと分かりやすく。


「理子っちは優しい子だよ。あんなことで優里っちのこと嫌いになんてならないって」

「……そんなの分からないじゃん。だって、私は理子の好きな人の悪口を」

「だけどそれは理子っちのことを想ってでしょ?」

「それは、そうだけどさ。でもやっぱり私は嫌われても仕方が」

「もーう!」


 私はいつまでもうじうじしてる優里っちにたまらず大きな声を出しちゃった。

 優里っちが私の声に私の方を向く。


「優里っち!分かってないみたいだから言ってあげるけどね」


 私はそう前置きして、優里っちに向き合った。


「優里っちのその優しさってさ。前に優里っちが気持ち悪いって言った平津先輩の優しさと同じだと思うよ」

「え……?」


 優里っちの驚いた表情に私は心の中だけで「やっぱり」って呟く。


「理子っちが幸せになるなら私は嫌われてもいい。優里っちそんなこと思ってるんじゃない?」

「それは……」


 優里っちは今はこんなに落ち込んだ感じだけど、それって理子っちの前だと一切出さない。

 まるで、あのことなど気にしていないかのように振る舞ってる。

 だから、私は優里っちの本当の気持ちに気づくことが出来た。

 優里っちは黙ったままだ。

 沈黙は肯定の証ってのは、何かの漫画で読んだことある。

 優里っちの肯定に対して私はさらに言葉を続ける。


「それってさ、他の人が助かるなら自分のことなんてどうでもいいって、優里っちが気持ち悪いと思ってる優しさと何が違うのかな」

「……」


 優里っちは黙ったまま、反論してこない。

 私たちはもうすでに教室の前まで来ていた。ドアを開ける前に、私の思ってることを優里っちに伝える。


「そしてね、優里っち。理子っちが好きになったのは、そんな優しさを持った人なんだよ」

「―――!」


 私の言葉に優里っちは大きく目を見開いて止まる。

 やっと気づいたか。

 私はそんな優里っちを連れて、教室のドアを開けると、じっと自分の席に座る理子っちに近づく。


「理子っちー。どったの?急に走り出して」


 私の声に理子っちは真っ赤の顔を上げると、勢いよく立ち上がる。


「え、えっとね!えっと!」

「おうおう。落ち着きなさいな」

「う、うん」


 理子っちは深呼吸をするかのように数回、息をゆっくりと吸ってはいてを繰り返し、意外なことに最初に向いたのは優里っちの方だった。


「優里奈ちゃん!」


 理子っちには珍しい、感情を露わにしたような大きな声が教室中に響き渡る。

 クラスメイトの視線が一気に理子っちに集まるも、そんなの気にした様子もなく、理子っちは優里っちに詰め寄っていた。

 そんな理子っちに優里っちは戸惑い気味だ。


「ありがとう」

「…え?」

「優里奈ちゃんのおかげで、私、ちゃんと平津先輩のこと見ようって思えた。しっかりと平津先輩がどんな人なのか理解しようって思えたの」

「う、うん」

「それでね私気づいた。やっぱり私平津先輩のこと好き!こんなにも愛おしくて、守ってあげたいなんて思ったの初めて!」


 そう捲し立てる理子っちに優里っちが気圧されている。こんな2人を見るのは私でも初めてだ。


「何かあったの?」


 理子っちを落ち着かせるため、私は理子っちに声をかけた。

 理子っちは私の声に反応して、優里っちに詰め寄っていた身体を戻し、ゆっくりと話してくれた。

 前の休日に、美世ちゃんと平津先輩に本屋で会った時のことを。



「おばあちゃんたち家族と別れてね。平津先輩が見せた顔が今でも忘れられない。人助けをしたはずなのに、笑っていなくて、むしろ苦しそうだったあの変な顔を。どうしてって何回も思ったよ。いいことしたはずなのに、なんで平津先輩はあんな表情を見せたんだろうって。だけど、それを美世先生に聞くわけにはいかないなって思って」

「なんで理子っちはそう思ったの?」

「だって、私が気づいたんだもん。きっと美世先生も気づいてたと思うの。だけど、何にも言わないってことは美世先生だって隠したいことなんだって思ったから。だから、私ずーっと考えてたんだけど、理由なんて私には見当もつかなかった。でもね、1つだけ確かなことがあったの!」

「それって?」

「うん。それはね、そんな平津先輩を私は支えてあげたいって思った。もっとそばにいて、助けてあげたいって思った。だからね優里奈ちゃん」


 そして理子っちは私に向けていた視線を優里っちに向ける。


「全部優里奈ちゃんのおかげなの。こうやって平津先輩のこと想えたのも、表情に気づけたのも全部、優里奈ちゃんが私にああやって言ってくれたから。表面だけに惑わされないでって言ってくれたからだよ」

「理子……」

「優里奈ちゃんがそう言ってくれなかったら、私気づけなかったと思うから。だから優里奈ちゃん!ありがとう!」


 そう言って理子っちは優里っちに抱き着いた。それはもう、大人しい理子っちからは想像も出来ないほどの力で。


「う、うん。分かったから。理子、離れて」

「ああ!ごめんね」

「いいよ。それに私の方こそ、前はごめん」

「ううん。むしろ、私嬉しかった」

「嬉しい……?」

「だって、優里奈ちゃん私のことを想ってああ言ってくれたんだよね」


 理子っちは優里っちに笑いかける。

 私はそんな2人を満足といったように見てから、理子っちに問いかけた。


「じゃあさ、さっきはなんであんなことを?」

「それ、私も気になる。てっきり私のせいで平津先輩を嫌いになったんじゃって思ってたから」

「うん。それがね、本当に好きだって思ったら、何だか平津先輩と話しているうちに……恥ずかしくなっちゃって」


 そう言って理子っちはさっきのことを思い出したかのように顔を真っ赤にしていた。


「なんだ、そっか」


 理子っちの言葉に優里っちは安心したように息をホッと吐く。


「あーこほん!」


 すると、教壇の方から咳払いが聞こえてきた。

 3人して仲良くそちらに振り向く。


「3人とも仲がいいのはいいけど。席についてね」


 そう言って教壇に立っていたのは美世先生だった。

 時計はすでに授業開始時刻を示していた。


『ご、ごめんなさい』

「いいのよ~面白いの聞けたしねぇ」


 私たちは慌てて自分たちの席に座って授業の準備に取り掛かる。

 その間も私は隣の席の優里っちの顔を盗み見た。その顔は美術室を出るころには想像も出来ないくらい、微笑みに溢れてた。

 私はそんな優里っちを見ながら心の中で呟く。


 ほーら。だから言ったじゃんか。理子っちが優里っちのこと嫌うわけないってさ。


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 ちなみにこれは、おまけみたいなもんだけど。

 あの後、クラスでは『新菜理子には平津先輩っていう好きな人がいる』と少しの間だけ話題になったりしていた。

 地味に男子の間では人気の高かった理子っちのこの事実に、一部の男子は落胆し、そして、女子の間では黙って見守っていこうとする条約が出来たほどだ。

 まぁ、その両方とも当の本人は一切知らないんだけどね。

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