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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第一章 森守り姫の生活
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 余りにも勢いをつけすぎて、登りきったところから数秒間宙に浮いた。下には、木に囲まれた場所がある。そこを目指し、レオンの体の向きを微調整した。


 木を緩衝材として着地。しかし殺しきれなかった勢いのせいで、ゴロゴロと転がってしまった。そして、何かにぶつかって止まる。


「いたたた……レオン、大丈夫?」


 ぶつけた腰をさすりながら相棒に声をかけると、どうやら無事のようだった。何が止めてくれたのかと、足下を見る。湯張りされていない、温泉痕のような場所だった。大きな石が円形に並んでいる。その一部が大きく欠けてしまった。


「……つ、使ってないなら、壊れても問題ないよね!」


 囲んでいた木は、まるでこの場所を隠しているようだった。では何から隠していたのかと、ゆっくりと木々の先を見る。


「ふぁぁっ……」


 イリゼの家の、何十倍も大きい建物。三階建てで、人の二倍はあるのではないかと思える高さの窓が、いくつもある。広大な庭園は、左右で対称となるように手入れがされているようだ。建物から入口までの、ちょうど中間の辺りには大きな噴水があった。


 目の前の光景を目の当たりにして、改めて壊してしまった温泉痕を振り返る。


「……ダメ、だよね。あっ、でも、壊れた場所によっては直せるかも。石が欠けただけだったし……」


 見たところ、温泉痕は縁取る石が欠けてしまっただけのように見えた。そうであるならば、粘土を作り貼りつければ修復できるはず。そう思い、まずは材料だと思って周囲の土を集める。


「あとは、水だけど……」


 今いる場所から噴水まで、距離がある。端から端へ行くよりかは近いが、それでも半分。水を取りに行く途中で見つかってしまったら、どうなってしまうのか。


「あれだけ大きい家だから、たぶん偉い人が住んでいるんだよね。使われていないとはいえ、壊してしまったことがばれたら……」


 何をされるのか、想像してみようとした。しかし森で暮らすイリゼにとっては、食事抜きぐらいしか悪いことが浮かばない。叱られているとき、目の前に食べ物があるのに、手を出してはいけないという状況があった。


「……お腹、空いたなぁ」


 くぅ、と腹が鳴った。そうなってしまうとイリゼにとって何か食べることが優先事項になる。ばれないことを望んで現実から目をそらし、欲求には忠実に行動することにした。


 まずは、と周囲の木を見る。残念ながら実がなるようなものではない。


 では次は、と大きな建物を見る。


「……人がいっぱいいそうだから、食べ物もたくさんあるだろうけど……もらえないよね。というか、見つかったらダメだよね」


 諦めが肝心。次の目標を決める。


「あとは、ここの敷地を抜けた先で何かあれば」


 木々の間から、広い庭園を見る。目をこらすと、敷地の入口には兵を確認できた。森で暮らしていると視力を悪くするものがない。むしろ磨きがかって、こんなときにもよく見えて便利だ。


 イリゼが今いる場所から入口までは、幸いにも木々が並んでいる。伝っていけば、見つかることなく移動できるだろう。問題は、レオンだ。


「あの人は悪い人間じゃなかったけど、他の人はわからないよね。レオン、またけがしちゃうといけないから一人で森に戻って」


 呟き、続いてレオンの頭を二度叩いて指示をする。しかし従わない相棒は、背中に乗れとばかりに腰を落とす。普段は角を持って乗り込むが、本来であればこの乗り方が正しい。


「レオン。乗らないってば。何があるかわからないから、森に戻って。お願い」


 目を見て言うと、ようやくレオンは諦めてくれたらしい。木々の間から壁を登り、外へ出た。


 相棒の無事を見送ったイリゼは、早速近くの木を登る。十分な栄養を与えられているのか、森の木とは違い、表皮が滑らかだ。すっと真っ直ぐに伸びているから、登りづらい。足の指に力を入れ、どうにか枝まで行く。


「森の木の方が好きだな。ささくれた皮でケガをするときもあるけど」


 幸いにも、木々の間は森よりも間隔が狭い。勢いをつけなくても飛び移れそうだ。


 枝から枝へ、楽々と移動していく。そうしていくと、すぐに入口付近まで行けた。気づかれないように何本か手前の木で止まり、この後はどうやって街へ行くかと考える。


 子どもの頃の社会勉強は、結局中へ入っていない。父のオネットが月に数回訪れるが、イリゼは街に行かなかった。だから、今日が初めてということになる。


「お父さんと会えたら、お腹いっぱいになるかな」


 オネット商会をやっているとは聞いたものの、その店がどこにあるかは知らない。ウルチーモと話をしていたような気もするが、街へ行かないから興味がなかった。あのとき聞いておけばよかったと、今更ながら後悔する。


 街に近い方の枝へ移動した。


「うわぁ……ごちゃごちゃしてる」


 今いる場所が街の中で一番高いらしく、眼下には家が並んでいる。イリゼの家よりも大きく、背後の建物よりも小さい。壁は白く、屋根は赤茶色。丘陵の斜面に沿うように建てられている。


 屋根と屋根が繋がっているところ、赤と白の二色の天幕が並ぶところ、下の家へ行く梯子があるところと様々だ。天幕が並ぶところに人が多く見える。


 街の様子を見ていると、すぐ近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。視線を向け、葉の隙間から青髪の青年を見つける。


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