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「なんだ、王子も来ちまったのか」
「シカトリス。何を知っているんだ」
「おれは何も? こうして大人しく捕まっているだろ」
「この牢の柵は脆い。逃げようと思えば逃げられたはずだ」
「そりゃぁ、おれだって逃げようと思ったけどな」
「何を隠している。全て吐け」
話をしていると、風のいたずらのような高い音が耳に届いた。よく聞くと、笑い声のようにも聞こえる。シカトリスを見ると、何もかも諦めたようにため息をこぼした。
「王子。全て話すから、せめてあいつだけは自由にしてやってくれ」
「あいつ? イニオンがいるのか!」
「まったくなぁ……せっかく逃がしてやったのに何をやっているんだか」
「どこだ! イリゼはどこにいる!?」
「そう焦るなよ。ああして笑っているってことは、あの女も生きてたってことだろ」
「ぐだぐだとうるさい。質問だけに答えろ」
「おぉ、こわっ。そんなに眉をつり上げてっと、せっかくの美男子が台無しだぜ」
「シカトリス」
「はいはい、教えますよ。王子の大切なお姫様は、この城の地下にいる」
シカトリスの話を聞き、すぐに地下へ行く道を捜す。仕掛け扉なのか、どこかに道を開く何かがあるのか。地下牢の前を行ったり来たりしていると、シカトリスが馬鹿にしたように嗤った。
「いつまでそんなところをうろうろしてんだよ。外から回ればいいだろうが」
「何っ!? 外から行けるのか!?」
「おれとしては、あんな場所をどうして知らなかったのか不思議だよ」
「恩に着る!」
シカトリスの話を聞き、すぐに城を出る。そのときに何人かいた兵士を連れ、境と入口にいた兵士も引き連れ、イリゼを捜す。
「街から離れていない! 森の中も、徹底的に捜すんだ!」
兵士に指示を出し、シカトリスの言葉を思い出しながら街の周辺を捜す。
--あいつは確か、外から回れる。俺が知らないことの方が不思議だと言っていたな。それに、城の地下というのは……イリゼが生きているとしたら埋められていない。何かの比喩ではないとしたら?
丘陵沿いに、それらしい場所がないかと捜す。すると城の真下に当たる場所に、洞窟のような入口を発見した。駆けつけ、中を確認する。縛られたイリゼが、イニオンと話をしていた。
「ここだ! ここにいる!」
森を捜索していた兵士に向かって叫び、中へ入る。サフィールの声に気づいて逃げだそうとしたイニオンを、押さえつけた。
「いたたっ。痛いっす!」
「うるさい、この大罪人め! 大人しくしろ!」
「サフィール」
ばたばたと暴れるイニオンの頭を地面へ押しつけていると、名を呼ばれた気がした。それは気のせいではない。縛られたイリゼが、呼んでいた。
戻ってきた兵士にイニオンを任せ、駆け寄る。そしてすぐに拘束を解く。埃で少し白っぽくなったが、緑の肩掛けを巻いていることに気がついた。ここにずっといたイリゼの体を暖めるように、肩を擦る。
「イリゼっ!? 無事か!?」
「わたしは、大丈夫。その人に、助けて、もらったの」
「どういうことだ? あいつとシカトリスがここへイリゼを連れてきたんだろう?」
「そう。だけど、二日……経ったら、果実を、持ってきて、くれたの」
「そうっす! 王子は自分に感謝してほしいくらいっす! 自分がいなかったら、今頃その子の命はなかったっす」
「そいつを連れていけ。念のため、シカトリスとは離しておけ」
「兄貴、生きてるっすか!?」
「ああ。お前を守ったようだ」
「兄貴ぃっっ! もう、一生ついて行くっす!!」
「そのうるさい男を連れていけ。イリゼの体に障る」
「はっ。かしこまりました!」
シカトリスがしたことに、いつまでも感動しているイニオンの声が聞こえる。あいつはあんなに騒がしい男だったのだと思っていると、イリゼが腕を掴んできた。
「どうした?」
「ごめ、ん……」
「何がだ」
「サフィール、違うのに……信じようと、しなかった」
「イリゼは知らなかったのだからしょうがない。すぐに治療所へ運ぼう」
「サフィー、ル。ずっと、言いたかった……の」
「治療が先だ。もう話すな。果実だけじゃ、栄養が足りない。城の料理長でも酒場の女将でもいい。すぐに食事を用意させるから、それまで」
フルフルと頭を揺らす。その様が今にもイリゼが消えてしまいそうで、堪らなかった。
「今、言いたいの。わたし……」
「もう、だまれ」
いつまでも話そうとするイリゼの、口を塞いだ。突然のことに驚き目を瞬かせる。
「ようやく止まったな。これから治療所へ運ぶ。話すのは、体力が快復してからだ」
頬を赤らめながら頷いたイリゼに、今度は優しく唇を重ねた。
こうしてようやく、ヒューツニビレーの存続をかけた事態が収束したのである。




