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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第四章 森守り姫と狩人王子の仮婚約
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「なんだ、王子も来ちまったのか」


「シカトリス。何を知っているんだ」


「おれは何も? こうして大人しく捕まっているだろ」


「この牢の柵は脆い。逃げようと思えば逃げられたはずだ」


「そりゃぁ、おれだって逃げようと思ったけどな」


「何を隠している。全て吐け」


 話をしていると、風のいたずらのような高い音が耳に届いた。よく聞くと、笑い声のようにも聞こえる。シカトリスを見ると、何もかも諦めたようにため息をこぼした。


「王子。全て話すから、せめてあいつだけは自由にしてやってくれ」


「あいつ? イニオンがいるのか!」


「まったくなぁ……せっかく逃がしてやったのに何をやっているんだか」


「どこだ! イリゼはどこにいる!?」


「そう焦るなよ。ああして笑っているってことは、あの女も生きてたってことだろ」


「ぐだぐだとうるさい。質問だけに答えろ」


「おぉ、こわっ。そんなに眉をつり上げてっと、せっかくの美男子が台無しだぜ」


「シカトリス」


「はいはい、教えますよ。王子の大切なお姫様は、この城の地下にいる」


 シカトリスの話を聞き、すぐに地下へ行く道を捜す。仕掛け扉なのか、どこかに道を開く何かがあるのか。地下牢の前を行ったり来たりしていると、シカトリスが馬鹿にしたように嗤った。


「いつまでそんなところをうろうろしてんだよ。外から回ればいいだろうが」


「何っ!? 外から行けるのか!?」


「おれとしては、あんな場所をどうして知らなかったのか不思議だよ」


「恩に着る!」


 シカトリスの話を聞き、すぐに城を出る。そのときに何人かいた兵士を連れ、境と入口にいた兵士も引き連れ、イリゼを捜す。


「街から離れていない! 森の中も、徹底的に捜すんだ!」


 兵士に指示を出し、シカトリスの言葉を思い出しながら街の周辺を捜す。


 --あいつは確か、外から回れる。俺が知らないことの方が不思議だと言っていたな。それに、城の地下というのは……イリゼが生きているとしたら埋められていない。何かの比喩ではないとしたら?


 丘陵沿いに、それらしい場所がないかと捜す。すると城の真下に当たる場所に、洞窟のような入口を発見した。駆けつけ、中を確認する。縛られたイリゼが、イニオンと話をしていた。


「ここだ! ここにいる!」


 森を捜索していた兵士に向かって叫び、中へ入る。サフィールの声に気づいて逃げだそうとしたイニオンを、押さえつけた。


「いたたっ。痛いっす!」


「うるさい、この大罪人め! 大人しくしろ!」


「サフィール」


 ばたばたと暴れるイニオンの頭を地面へ押しつけていると、名を呼ばれた気がした。それは気のせいではない。縛られたイリゼが、呼んでいた。


 戻ってきた兵士にイニオンを任せ、駆け寄る。そしてすぐに拘束を解く。埃で少し白っぽくなったが、緑の肩掛けを巻いていることに気がついた。ここにずっといたイリゼの体を暖めるように、肩を擦る。


「イリゼっ!? 無事か!?」


「わたしは、大丈夫。その人に、助けて、もらったの」


「どういうことだ? あいつとシカトリスがここへイリゼを連れてきたんだろう?」


「そう。だけど、二日……経ったら、果実を、持ってきて、くれたの」


「そうっす! 王子は自分に感謝してほしいくらいっす! 自分がいなかったら、今頃その子の命はなかったっす」


「そいつを連れていけ。念のため、シカトリスとは離しておけ」


「兄貴、生きてるっすか!?」


「ああ。お前を守ったようだ」


「兄貴ぃっっ! もう、一生ついて行くっす!!」


「そのうるさい男を連れていけ。イリゼの体に障る」


「はっ。かしこまりました!」


 シカトリスがしたことに、いつまでも感動しているイニオンの声が聞こえる。あいつはあんなに騒がしい男だったのだと思っていると、イリゼが腕を掴んできた。


「どうした?」


「ごめ、ん……」


「何がだ」


「サフィール、違うのに……信じようと、しなかった」


「イリゼは知らなかったのだからしょうがない。すぐに治療所へ運ぼう」


「サフィー、ル。ずっと、言いたかった……の」


「治療が先だ。もう話すな。果実だけじゃ、栄養が足りない。城の料理長でも酒場の女将でもいい。すぐに食事を用意させるから、それまで」


 フルフルと頭を揺らす。その様が今にもイリゼが消えてしまいそうで、堪らなかった。


「今、言いたいの。わたし……」


「もう、だまれ」


 いつまでも話そうとするイリゼの、口を塞いだ。突然のことに驚き目を瞬かせる。


「ようやく止まったな。これから治療所へ運ぶ。話すのは、体力が快復してからだ」


 頬を赤らめながら頷いたイリゼに、今度は優しく唇を重ねた。




 こうしてようやく、ヒューツニビレーの存続をかけた事態が収束したのである。

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