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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第四章 森守り姫と狩人王子の仮婚約
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 --あれほど違うと言ったのに、どうして信じてくれないんだ。


 イリゼの元で警護を担当していた兵士が戻ってきたとき、彼女への苛立ちを思い出してそのままぶつけた。落ち込んでいる内に、沸々と怒りがわいてきたのだ。一方的に拒絶され、レオンを傷つけた犯人と思われる。もっと信用されていると考えていたのに、それはサフィールの思い違いだったのだ。


 兵士は驚いていたが、異を唱えることなく本来の持ち場に戻った。




 イリゼと口論をしてからすでに二日。新年まではあと五日に迫っている。


 彼女の言動に怒り、すぐに婚約破棄を発表しようとした。しかしそれを王へ報告しようとして、冷静になる。


 イリゼは何も悪くなく、寧ろ被害者なのだと思い至ったのだ。街の存亡をかけた一大事だったとしても、森で暮らす彼女には関係ない。それでも協力してくれたのは、サフィールが見せたレオンへの誠意があったからだと。


 それから計画のために行動を共にするようになった。イリゼは森での暮らし方を熟知していて、勉強することも多い。一緒にいて、飽きるどころかもっと長く隣にいたいとまで思っていた。


 そんなイリゼに幻滅され、深い痛手を受けていたサフィールは、どうすれば関係を修復できるのかと悩み、部屋に籠もっていた。時間が過ぎれば過ぎるほど、その機会は失われていく。


 --あのとき、周りの目なんて気にしないで追いかければよかったんだ。それをしなかったのは、王子としての体面。


 兵士も戻してしまった手前、今さらイリゼのところには行けない。それなのに、イリゼとの関係が終わってしまったことを嘆くばかり。


 そんなサフィールの元に、街と城の境で働く兵士がやってきた。


「失礼いたします。サフィール王子はいらっしゃいますか」


 外には出ていないのだからいるとわかっているだろうに、遠慮して中へ入ってこない兵士を迎えに行くために立ち上がる。


「っ……」


 二日間、誰と会うことも拒絶していた体は、かなり筋力が落ちていた。まともに歩くことすらできない。足に力を入れようとすると、膝から力が抜けた。


「サフィール王子!?」


 扉を開け、駆け寄ってくる兵士に肩を借り、椅子へ座らせてもらう。


「勝手にお部屋に入ったこと、申し訳ありません!」


「いや、いい。用件は」


「あっ、はい。いつ置かれたのかわかりませんが、こんなものが門のところに」


 兵士から一通の書簡を受け取る。サフィール宛てのそれを開くと、書かれていた内容に血の気が引いた。


 --イリゼを、誘拐しただと!? 誰がこんなことを……。


 手紙を見て蒼白になったサフィールを見て、兵士が窺うように聞いてきた。


「あの、その書簡にはなんと……」


「すぐに兵をっ……っ」


 急に立ちあがり、またよろめいたところを兵士に支えてもらった。


「サフィール王子、いけません。二日間、何も食べていないのです。イリゼ様に婚約を断られて気落ちするのはわかりますが、まずは何か食べてください」


 --俺が振られたと思って誰も来なかったのか。そりゃ、そうだな。場所を移動したとはいえ、はっきりと言われたんだ。そんな噂が立っていても不思議はない。


 自暴自棄になりかけたとき、兵士が告げる。


「男女が喧嘩をすることなどよくあります。自分も、よく妻と口論になります。ですが、すぐに、お前と別れたくないと言って許してもらいます」


「それは、なぜだ」


「なぜって……妻のことを、愛しているからです。別れて暮らすなんて考えられない」


「愛……それは、どういう気持ちだ」


「えっ!? サフィール王子もイリゼ様にそう思われていたのではないのですか!?」


「一緒にいて、楽しかった」


「それでいいと思いますよ。お二人は出会ってから、まだ日が浅い。一緒にいる時間が長くなれば、もっと違う気持ちも抱きます」


「食べている姿は、もっと、見ていたいと」


「そうです、そうです。そういう気持ちです。良かった。サフィール王子も、そういう気持ちを持っていたのですね」


「それは、どういうことだ」


「み、身分をわきまえず申し訳ありません!」


「いい。話せ」


「は、はい。兵士達の間で、お二人の婚約が早すぎるのではないかと噂が立っておりました。イリゼ様は、ノール森林に住む魔女と言われる方のお孫さんです。サフィール王子が魔力に惑わされただとか、何か言えない事情があるのではないかとか、色々と言われていたんです。親密になるのに時間なんて関係ないだろうと言う者と、いやおかしいと異議を唱える者と半々でした」


「そうか……」


「あっ、いや、でも、異議を唱えていた者達も、サフィール王子とイリゼ様の関係が本物だと、今は信じております」


「なぜだ」


「お二人が互いに思っているとわかる普段の様子ですとか、ここ二日のサフィール王子の様子などを見ていれば、そう思わざるを得ません」


「互いに、思っている……?」


「はい! サフィール王子はもちろんのこと、イリゼ様からも慕う気持ちが見えていました。酒場での一件を偶然目撃してしまったのですが、勝手に見ていたこちらが照れてしまったほどです」


「酒場……? 何か、あったか」


「自覚のないところがサフィール王子たる所以ですね」


「どういう意味だ」


「あっ、申し訳ありません! また身分不相応のことを言ってしまいました。自分の妻がサフィール王子推しなので、醜い嫉妬を……」


「……まあ、いい。食事をする。食堂まで、連れていってくれ」


「でしたら、こちらへお持ちします。部屋で休んでいてください」


「そうだな。まだ思うように動けない。よろしく頼む」


「は、はい! かしこまりました!」


 わざわざ敬礼する兵士に、また座らせてもらう。


 --一体、誰がイリゼを連れていったんだ。見つけたら、ただじゃおかない。


 持っていた書簡を握りつぶす。その音で我に返り、改めて内容を確認した。


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