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物置へ行き、持って行けるものはあるかと捜す。しかし食糧は随時採りに行っているし、秋に収穫して乾燥させている茸類は、残されるウルチーモ達のために持って行けない。
--どうしよう。何かあったときに、身を守るようなものを持って行きたいけど……。
石斧や蔓を見る。武器にはなるだろうが、相手は二人だ。失敗する可能性の方が高い。では、ともう一度見回して、緑の肩掛けに目が止まった。
「……サフィールに、謝りたいけど……」
イリゼから一方的に拒絶した。今頃は街でもサフィールの婚約は破棄されたと発表をされ、大騒ぎになっているはずだ。イリゼの役割は終わっている。今では、街へ入れるかどうかもわからない。
--サフィールに会えないなら、持っていてもいいよね?
緑の肩掛けを取る。その拍子に、細い布が一緒に出てきた。
--そっか。これも一緒にしまっておいたんだっけ。
かすり傷だったのに、わざわざ自分の防寒具を裂いてまで手当してくれたサフィールを思う。
--あぁ……サフィールは、優しい人だったのに、どうして信じられなかったんだろう。
あくまでもサフィールとは、今回の一件を解決するまでの関係だと思っていた。だからこそ、それ以上のものではないのだと自分に言い聞かせてきたのだ。いつか終わる関係なら、と自分の気持ちに目を向けないようにしていた。それが、彼を信じ切れなかった要因なのかもしれない。
前にサフィールがしてくれたように、ネッカチーフの端切れを同じように結ぶ。口を使いながらどうにか解けないようにした。
肩掛けを持って、物置を出る。
「遅いっすよ! 待ちくたびれたっす」
「イニオン。女っていうのは出かけるのに時間がかかるもんなんだよ」
「さっすが、兄貴! 経験が豊富なだけあるっす」
「準備ができたんだったら、さっさと行くぞ」
シカトリスが前を行き、イニオンが後ろに立つ。どうにかこれで、ウルチーモとレオンが逃げられる時間を作れた。どこに連れて行かれるかはわからないが、せめてその移動時間に安全なところへ逃げてくれと思う。
シカトリス達に連れられていったのは、意外にもヒューツニビレー城の真下だった。
「あの獣を仕留めようとしたときに発見したんだ。いい場所だろ?」
かつては使われていた通路らしく、上へ続く階段があった。しかし木でできていたそれは既に朽ち、今は使用されていないことは一目瞭然だ。埃も溜まっていたらしく、イリゼ達が入ったことで、日光に照らされて相当な量が舞っているとわかる。
「婚約破棄をしたのなら、この女にも用はないだろ。仮に捜していたとしても、まさか自分たちの足下にいるとは思うまい」
「よっ! 兄貴ってば天才!」
「当たり前だ。おれがその理由だけでここを選んだと思うか」
「ど、どういうことっすか? 他にも理由があるっすか」
「ああ、そうだ。この女を売り飛ばす相手が決まるまでここに置いておけば、便利だろう」
「なるほど! この子に食事を運ぶっすね」
「それもあるが、イニオン。おれ達は今、どこに住んでいる? この街の住民だろう? 怪しまれずに王家の様子を探ることもできる。婚約破棄したと言っていたが、痴話げんかなんてよくある話だ。もしかしたらまだ、その話も生きているかもしれねぇ。そうなったら、金を請求する相手を変えるんだよ」
「さっすが兄貴っす! そこまで考えていなかったっす!」
「お前は浅はかなんだよ。ここにいる意味がわかったんだったら、さっさと女が逃げないように縛っておけ」
「了解っす」
イリゼにしっかりと顔を見られているのに気にしていない。金の請求が済み次第命はないのだろうと思う。
「イニオン。女が声を出せないよう、口に何か入れておけ」
「そ、そこまでするっすか」
「当たり前だろう。この辺りに人が来たらどうする? 叫ばれたらそれで終わりだろうが」
「なるほど! 了解っす! それで、何を入れるっすか? 何も持っていないっす」
イニオンから言われ、シカトリスも何かないかと自分の体を触る。そして何もないとわかると、イリゼに視線を向けた。
「そういえば、持ってきたそれで寒さは凌げるよな? イニオン。その女の服を裂いて口に入れろ」
「えぇっ!? そ、そんな、女の子の服を裂くなんて恥ずかしくてできないっす」
「男のくせに腰をくねくねと動かすな! 気持ち悪い。もういい。おれがやる」
シカトリスが近づき、イリゼの腹部付近の服を裂く。そしてそれを口へ突っ込み、肩掛けで包み、その上から全体を縛った。
「これでいいだろう。ほら、イニオン。街の様子を探りにいくぞ」
「了解っす」
全身を縛られているが顔だけは出ている状態で、イニオンが壁に寄りかからせてくれた。状況が状況だったが、気遣いを見せたイニオンに目礼する。
「時間がかかりそうだったら、何か食べるものを持ってくるっす」
そう言い残し、イニオンも出て行く。
今は使われていないという、城へ続く階段を、サフィールへ繋がる道を、じっと見上げた。




