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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第四章 森守り姫と狩人王子の仮婚約
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 イリゼはサンクラァールへ戻る途中、警護として来ていた兵士を追い返す。


「それはできません」


「サフィールからの許可は取ってあるから。周りに男の人がいると思うと、ゆっくり温泉にもつかれない。帰って」


「は、はあ、わかりました。では一度、戻ります」


 納得していない兵士を動かし、ようやく自由になったと腕を伸ばす。


「警護、じゃなくて監視だよね」


 せいせいしたと思い、湯気の中へ入る。そこではウルチーモが、シアクとアスールの湯を一対一の割合で汲み、レオンにかけていた。


「おばば。変わる」


「王子から話は聞けたのかい」


「聞いた。だけど自分のせいじゃないって言って、人のせいにまでしたから婚約破棄を伝えてきた」


「まだ王子がしたと決まったわけじゃないだろう」


「サフィールがやったに決まってる! こんなに何本も矢を刺してケガをさせるなんて、実力があるからできるんだよ!」


「でも確か、前のときはわざわざカドネワの葉を採ってきてくれたんだろう? お前の切り傷だって、手当してくれたじゃないか」


「それはそうだけど……でも、サフィールに聞いてみたけど、他にそれらしい人はいなかったんだもん!」


 以前のように、レオンの傷は湯の効能で癒やされつつあるが、まだ完治には至っていない。それだけ深い傷なのだ。日常的に狩りをするサフィールであれば、どんな力で矢を放てば動物の動きを止められるかを把握している。それを他人の仕業だと言う彼が許せなかった。


「外で警護していた兵士も戻したから、人目を気にせずに入れるよ」


「その兵士が王子に確認したら、すぐに戻ってくるんじゃないかい」


「それはないんじゃない? だって婚約破棄を伝えたし、おばばのことはわたしが守るって宣言してきたもの。贖罪のために人を寄越したって、追い返してやる」


「わたしには、どうしてお前がそこまで怒るのかわからないよ」


「どうしても何も、レオンがこんな大けがを負ったんだよ!? 当たり前じゃん!」


「そうかねぇ……あの王子が、イリゼが大切にしているレオナールを傷つけるとは思えないけどねぇ」


「夢ばかり見ていたらダメだよ、おばば。現実を見ないと」


 元気がないレオンが少しでも早く回復するように、配合した湯をかける。気休めでもいいからカドネワも採ってこようと思い、ウルチーモにそう告げた。


 蔓籠を持って滝がある崖までいき、下に置く。あれから何度も採取しているせいで、中腹にあったカドネワの数が少なくなっている。もっと上へ行くとまだあった。レオンのためだと、採取しては籠に入れ、また登る。そうして繰り返し、籠の底が埋まるぐらいまで採れた。


「よしっ。これぐらいあったらすぐに新鮮な葉を当ててあげられるね」


 太陽はすでに真上から大分西に落ちている。想像以上に時間がかかってしまったと思い、サンクラァールへ戻った。


「おばば!? レオン!?」


 湯気を越えると、昨日つけられた傷よりもさらに深手を負っているレオンと、そのレオンを守るように倒れているウルチーモがいた。祖母に駆け寄る。戦ったのか、いつも使っていた杖はぽっきり折れてしまっていた。


「おばば? 一体何があったの?」


「イリゼ……すぐに、ここから離れるんだ」


「何言っているの! こんな状態のおばばとレオンを置いていけるわけないじゃん! あー、器も壊れてるね。物置まで取りに行ってくるから待ってて!」


 物置へ走る。そこには小さい器がいくつかと、緑の肩掛け。特に冷える日に出して、何度も使っていた。サフィールからもらったものだからと、嬉しかったのだ。


 --今は、そんなことを考えている暇はない! 少しでも早く、おばばたちにお湯をかけないと!


 戻ると、ウルチーモがまた弱々しい声で言う。


「本当に、お前はバカな子だよ」


「おばば! ケガしたでしょ? そこに湯をかけるから、出して」


「へぇ、なるほどね。治療できるっていうなら、確かに一儲けできそうだ」


「っ、誰!?」


 ウルチーモに配合した湯をかけようとして、聞こえた声に驚く。全く気配がなかったのに、と思っていると、家の中から茶色い毛むくじゃらが出てきた。


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