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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第四章 森守り姫と狩人王子の仮婚約
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「サンクラァール、はどうでしょうか」


「それはなんだ?」


「ノール森林にある、温泉ですわ。サフィールから疑われていると少しでも思うのなら、その男が偽造の犯人であれば、他の金儲けの話を考えるかもしれない。そんなとき、不思議な効能がある温泉の話を聞いたらどうでしょう? 偽造をやめて、そちらへ手を延ばすのではないでしょうか」


「ふむ……その可能性はあるな。あえて行動しやすいよう、何か企画してもいいかもしれん」


「待って下さい! ノール森林ということは、イリゼが危険に晒されるのではないですか!?」


「ええ、そうでしょうね。イリゼちゃん達はあそこに住んでいるから。もし実行するのなら、先に了解を得ないといけない」


「母上! イリゼを危険な目に遭わせるわけにはいきません!」


「なんのためにあなたがいると思っているの。今は婚約者としての立場があるのです。話が通ったら、死ぬ気で守りなさい」


「は、母上……」


「情けない声を出すんじゃないの。この話が進むかは、サフィール次第よ。あなたがイリゼちゃんを守れないというのなら、他の案を考えましょう」


「いえ、それは問題ないですが……」


「なら、決まりね。早く食堂へ移動しましょう。料理長が首を長くして待っているわ」


 話をしに行くのは、また自分なのだなと思いながら、三人で移動した。


 そして食事を済ませ、早速イリゼの元へ行く。以前レオンに乗ってやってきた方向へ進むと、湯気が立ち上る場所に着いた。


「イリゼ。いるか?」


「サ、サフィール!? ちょ、ちょっと待って!」


 湯気で視界が悪い。温泉だと聞いていたから万が一でも裸を見てしまわないように、声をかけた。慌てるイリゼの様子から、その判断は正しかったようだ。


 少し待つと、湯気の中からイリゼが出てきた。予想通り温泉に入っていたらしく、頬が赤くなっている。


「ど、どうしたの!?」


「イリゼは確か、祖母と暮らししていたな。話があるのだが、少しいいか」


「わかった。温泉が溢れてて足下が滑るから気をつけて」


 イリゼの案内の元、ウルチーモがいる家に行く。寝床や焚き火を見て、本当にここで生活をしているのだと驚いた。ウルチーモから用事を聞かれ、イリゼが使っているという寝床に腰を下ろす。本人はウルチーモの隣に座った。


 街の事情を話し、容疑者をあぶり出すためにこの温泉の噂を広めたいと伝えた。


「なるほどねぇ。イリゼから仮の婚約だと聞いたから何事かと思っていたが、そんなことになっていたのかい」


「街の人たちは、この温泉地のことを聞いても悪用しないと断言できます! 俺が見回りをしてきて感じた人の温かさは、嘘ではありません」


「おばば。わたしもそう思う。だって、サフィールがわたしを連れて歩くだけで、からかいつつも幸せになれって言ってくれる人達だよ? 信じてもいいと思う」


「そうかい? イリゼがそこまで言うなら、いいのかもしれないね」


「ご協力、感謝します。お二人には危険が及ばないよう、手配しますのでご安心ください」


「わたしはもう年だから別にいいけどね、何かあったときはイリゼを頼んだよ」


「おばば! そんなこと言わないでよ! メートメートの人達が来たときみたいに、予言っぽく聞こえる」


「そうならないといいね。ところで王子。こちらは協力を惜しまないが、何をすればいいんだい」


「いえ、危険に晒してしまう可能性があったので来ました。実際は、街の中で温泉の噂を流し、浸透してきた頃に森へ出かける行事をしようと計画しています」


「なるほどね、では噂を流すのはどうするんだい? 発信者を決めないといけないだろう」


「それなら、メートメートの人達にお願いすればいいと思う。わたしも全員は知らないけど、会長のジュネスさん曰く、街の女の人ほとんどが入会してるらしいから」


「わかった。早速母上に伝えよう。城に戻り次第、こちらへ警護の者を手配する。事情が事情だから温泉があると伝えなければいけないが、イリゼ。自分が暮らす場所だからと言って、油断するなよ?」


「大丈夫だよー。仮であっても今はサフィールの婚約者だもん。サフィールへの接し方を見てたら、覗きなんてしないってわかるよ」


「いや、まあ、それはそうなんだが、あいつらも男だから間違いがあってはいけない」


「イリゼは、王子に愛されているようだね」


「なっ……」


「なんだい、違うのかい」


「い、いえ……そんなことはないですが……」


「おばば! サフィールを困らせないでよ! 仮の関係だって言ったでしょ!」


 イリゼから仮だと強調されると、胸の奥が痛んだ。


「そ、そうです。俺は義務を果たさなければいけません。事は一刻を争います。すぐにでも報告しなければいけないので、ここで失礼します」


 自分が傷ついたと思ってしまい、サフィールの発言でイリゼが顔を歪めたことなど、見る余裕はなかった。


 サンクラァールから街までは遠い。往復すると、それだけで一日の大半は過ぎてしまう。城へ戻り、ジュネスに伝えると、すぐに動いてくれた。



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