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「いらっしゃ……ああ、これはサフィール王子。よくぞいらしてくださいました。婚約者様へ贈り物ですか」
「ああ。こういったことは初めてなのだが、どういった基準で選べばいいのだろうか」
「人それぞれですね。自分が勧めるものを買って下さる方もいらっしゃいますし、贈る方の髪や瞳と同じ色、逆の色、合う色などと様々です。いかがいたしましょう」
「そうだな。少し店内を見させてもらう」
「かしこまりました。決まりましたらお声がけください。奥におりますので」
「わかった」
店主はそう言うと、扉の奥へ行く。ちらりと見えたその部屋には、見たことがない道具が置かれていた。石の細工や装飾品を作るためのものだろう。
イリゼに贈るのは何色がいいかと考えていると、奥に行ったばかりの店主が慌てて戻ってきた。
「サ、サフィール王子!」
「何事だ。それほど大声を出さずとも聞こえる」
「も、申し訳ありません。作業の納期がありまして、中々伺えなかったのですが、数日前におかしな硬貨を発見したのです」
「なに? 現物はあるか?」
「はい。こちらに」
店主の手には、百モネ硬貨が三枚あった。
「おかしな、というのは具体的にどのようなことだ」
「はい。些細な感覚なのですが、受け取ったときに、街で流通しているものとは少し違う気がしました。ヒューツニビレーはユージィがあるから他の地域よりも新しい硬貨が手に入りやすいと思います。古い硬貨と新しいものでは違いが出るのかもしれません。ですが、新しい硬貨だと考えると、輝きが少し鈍く、軽い気がするのです。新しければそれだけ人に触れる機会が少ないはずなので、これはおかしいなと」
「それはどのようにして手に入れたのだ」
「はい。偶然訪れていた旅人から、注文を頂きました。作業を終え、宿へ行ったときに支払われたものの一部です。他の硬貨には、違和感はありませんでした」
「旅人から? ということは、硬貨は外から持ち込まれたものか」
「いえ、自分も違和感があったので宿の主人に伺ったんです。するとその旅人は、五日ほど滞在していたと」
「五日か……そうなると、街の中で出回っていたものを使ったかもしれない。五百モネであれば、その旅人が持ち込んだ可能性もあったが……その旅人は、まだ宿にいるのか」
「いえ、自分が品物を届けたときに出立されました」
「そうか……この三枚、借りていてもいいだろうか」
「はい。もちろんそのつもりです」
「ありがとう。貴重な意見、感謝する」
宝石店を出る。日光の下で見てみても、サフィールには違いがわからなかった。
--最初に話を持ちかけてきたのも、こうして違いを指摘してきたのも、どちらも宝石商だ。オネット商会が人の出入りが激しい店だとすれば、宝石店は、金が動くときは一気に動く場所。宝石商から話を聞いていたのに、今まで一度も利用したことがなかったから盲点だった。
件の硬貨を持って、急ぎオネットのもとへ戻る。度々店を一時的に閉店してもらうことを詫びながら、三枚の百モネ硬貨を見せた。
「これが……言われてみると、少し違うかもしれないというだけで、はっきりとはわからないですね」
「そうか……」
「これが偽造されたものだとすれば、ユージィのシカトリスに聞いてみるのが一番だと思います。硬貨の専門家ですから」
「言われてみれば、そうだ。ありがとう、早速行ってみる」
オネット商会を出て、ユージィに向かう。その途中、以前の様子を思い出す。
--偽造硬貨の話を出したとき、シカトリスはイニオンを隠すように移動していた。あれは、嘘がつけないイニオンを庇っていたのでは? ユージィと両替商だ。やり取りをする中で、懇意な間柄になっていたとしてもおかしくはない。
行き先を変更し、イニオンのもとへ行く。すると、ちょうどシカトリスが出てきた。




