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--助かった!
扉を少し開けてすぐ、背後から押さえられてしまった。
「もう、終わりにしちゃう?」
冷や汗が流れる。一縷の希望が絶たれ、足が固まった。オパルにされるがまま、体の向きを変えられる。にこにこと微笑む様に、絶望した。せめて次の行動を把握できるよう、目をそらさないようにじっと見つめる。
「イリゼちゃんの熱い視線、大歓迎だよ」
「ち、違う! どうしてこんなことするの? オパルは、たくさん恋人がいるでしょう?」
「そうだねぇ。僕を好きな子はたくさんいるけど、僕から逃げる子はイリゼちゃんだけだ。捕まえて、困らせてみたくなる」
「遠慮する」
「イリゼちゃんが遠慮しても、僕がしちゃうんだなー」
「ひっ……」
笑いながら、ドレスの裾をたくし上げられる。そうして露わになった足と足の間に、オパルの足が入れられた。
「今、この瞬間にサフィールが来たら、実践的な体勢を教えてあげられるんだけどなー」
「はっ? 実践?」
何を言い出したんだと睨めつけていると、誰かが駆け寄ってくるような足音が聞こえてきた。
「あ、来たかも」
呟かれたオパルの言葉を聞き返そうとすると、ドレスをかき分けてサフィールが現れた。眉間にしわを寄せて、いつもよりも目力が増している。
「兄上っ! 何をしているのですか!」
「何って、これが股ドンだよ」
「はい!?」
そう言い、にっこりと微笑むと足を抜く。危機が去ったのだと思い、腰を抜かした。悪びれる様子を見せないオパルの腕を掴んだサフィールが、強引に腕を引いて出て行く。
戻ってきた彼が、手を伸ばしてくれた。
「何もされなかったか」
「たぶん、遊ばれたんだと思う」
サフィールの手を掴もうとして、足に力が入らないことに気づく。すると、急に抱き上げられた。
「ちょっ、サフィール!?」
「動けないんだろう? 長椅子まで運ぶ」
有無を言わさずに移動するサフィールの首に、手を回してどうにか体を安定させる。長椅子に下ろされると、不自然に顔をそらされた。ゆっくりと顔を動かして、自分の状況を確認する。
「ご、ごめん!」
すぐにドレスの裾を下ろし、足首だけが見える状態になった。それでも顔をそらしたままのサフィールに、これ以上は隠せないと告げる。すると、間仕切りの奥から布を持ってきた。
「ありがとう」
「いや、いい。それよりも、どうしてそんな格好をしているんだ」
「あれ? ジュネスさんから聞いてない? これと、もう一つ候補があるんだけど、婚約発表のときのドレスだって」
「そのドレスは駄目だ。肌を見せすぎている」
「そんなこと言っても、もう一つもそれほど変わらないと思うよ。少し、胸元は隠れるかもしれないけど」
「ならば、そちらのドレスにしてくれ」
「わ、わかった。ところでさ、この姿を見て、何か思わないかな」
「肌を出しすぎだ」
「いや、そこじゃなくて。体の上半分を見てみて」
胸を見ろとは言えず、言葉をはぐらかして盛りつけた姿を見てもらう。しかし、サフィールは首を傾げた。
「少し、大きさが変わったか?」
「少しじゃないよ! そっかぁ、そんな反応か……」
顔色を変えるとか、褒めてくれるとか何かしてくれると期待した。しかしサフィールは、サフィールのままだった。
--ま、まあ、この姿を気に入られても、困るけどさ!
サフィールは何をすれば顔色を変えてくれるのだろうと思い、着替えようと思って布を取る。すると、胸には全く反応を示さなかったサフィールが、さっと顔をそらした。
--あれ、もしかしてヘタに何かしなくて良かったんじゃない? 確かに、サフィールはそのままでいいと言っていた。それに、丈の短い服を着たときに、焦っていたはず。なんだ、そっか。このままでいいんだ。
底上げをした姿は、今まで見たことがなかった。しかしそれでは、サフィールの顔色を変えることはできない。ウルチーモが言っていた、イリゼの脚は武器になるという言葉が、ようやく理解できた。




