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にっこり笑うと、まずは、と一つずつ胸の下に当てられる。そこから一度、コルセットで胴を締め上げられた。
--く、苦しい……。でも確かに、これだと何も食べていなくてよかったかもしれない。もし少しでも胃に入れていたら、吐いてしまったかも。
普段は見ることのない谷間が見える。確かにこれはすごいと感心していると、コルセットの締め上げが緩んだ。
ほっと息をつく。
「お姉様。イリゼ様は想像以上に細いですわ。一つだけでは少し心許ないです」
「そうですね」
そう言うと、今度は二つずつ胸の周囲に当てられた。そしてまたコルセットで締められ、また息が詰まる。
「あ、あの……苦しいのですが……」
「これは失礼いたしました。締めがいのある細腰でしたので、やりすぎてしまいました」
少しずつ締め方を調整してくれ、ようやく呼吸が楽にできるくらいになった。そうしてできたのは、上から見ても豊かそうに見える胸。
「す、すごい……」
「鏡で見てご覧なさい。全身を確認できると、もっと感動するわ」
ジュネスに言われ、部屋に置かれていた鏡の前へ移動する。そこに映るのは、十六年間見たことがない自分の姿。
「ぷ、ぷるぷるだ……」
コルセットで絞られた胴の上。それはまさしく、胸と言っても過言ではない。今までの暮らしで自分の胸がもっとあった方がいいと思ったことはないが、目の前の姿を見ると、あっても良いような気がした。
コルセットから出ている部分が、まるで元からそこにあったかのように主張している。
「どうかしら、イリゼちゃん」
「は、はい……すごいです。わたしの胸が、こんな風になるなんて……」
「そうでしょう? 一度この姿を体験してしまうと、もう戻れないわ。人前では身なりを整えるように、公の姿では底上げした自分でいたくなる」
「それは、少しわかるような気がします。こんなに良いのがあったら、そうしたくなっちゃいます」
「少しは、元気が出たかしら」
この部屋に来る前のイリゼの様子がおかしかったことを、気にかけていてくれたらしい。ジュネスの心遣いに感謝して、満足そうな笑みを返して応える。
「イリゼ様。次はこちらの、ローブ・ア・ラ・セーズに袖を通して下さいまし」
言われるがまま、肩から足まで覆えるようなものを羽織る。
「仕上げはこちらです」
まだコルセットが見える状態だったが、胸部に留めつけるものをヴァンが持ってきた。ドレスの装飾と柄を合わせている物だ。
「ストマッカーをはめて……と。完成です」
「うわぁ……」
コルセットで大分安定していたが、ストマッカーで押さえるとさらに胸元が落ちつく。仮に走っても、恐らく崩れない。この仕組みを知らなければ、もともとこの大きさなのだと主張できそうだ。
「すごいですね、本当に」
「ふふ、そうでしょう? 双子の二人は息がぴったりで、急を要するときでもすぐに仕上げてくれるのよ」
ぴょんぴょんと、何度か跳ねてみる。
「ぷるぷるだし、ふわふわだし……」
全く崩れない。ドレスに合わせて少し高さのある靴を履いて足下がおぼつかなくても、関係なかった。くるくると回って鏡の前で自分の姿を確認していると、ジュネスが近づいてきて肩に手を置く。
「ねえ、イリゼちゃん。今の姿、サフィールに見てもらいましょうよ」
「サフィールに……いや、止めましょう。そのままの姿がいいと言ってくれていたので、こんなに変わってしまっては言葉に困ると思います」
「あらあら、あの子ったらそんなことも言っているのね。でも、見せてみるだけしてみましょう? もしかしたら、顔色を変えるかもしれないわよ」
「……それはそれで、今後が大変になりそうです。毎回こうして準備するのは骨が折れます」
「慣れてしまえば、盛り付けてもらっている間は寝ることもできるわ」
「その状態になるまでは、大変なんですよね……」
「体面を保つためには、多少なりとも努力は必要よ。あの子を呼んでくるから、隣の部屋で待っていてもらえるかしら」
「わかりました」




