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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第三章 色々な親睦会
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「ごめんなさい! わたしがやりました」


「えっ……イリゼちゃんが?」


「はい。街の入口まで行くのが面倒だなって思って、裏から入ったときに。もう使われていないんだって勝手に決めつけて、そのままにしてごめんなさい」


「う、裏から入った?」


「はい。欠けちゃったところ、直そうと思って土は集めたんですけど、粘土を作るのに水が遠くて……いや、罰を受けることを承知で、噴水から水を持ってきていたら良かったんです。い、今からでも直せます!」


「そ、そう。この穴は動物ではなかったのね。それは安心したわ。欠けている原因もわかった。どうやら壊れているのはこの部分だけのようだから、湯を張りましょう。直すのは、後で職人に依頼するから、イリゼちゃんは気にしなくていいわ」


 ジュネスの笑みが引きつっている。彼女の話を振り返れば、この温泉は王から贈られた大切なもの。それを壊したまま放置してしまったのだと、あのとき空腹に負けずに直しておけばよかったと後悔する。


 せめて湯張りを手伝おうと申し出ようとして、青ざめているジュネスを見て言葉を失う。


「ま、まさか、湯を出す場所も……?」


「い、いいえ。イリゼちゃんのせいではないわ。入口が一つしかないのがいけないのよ」


「ご、ごめんなさい。何度謝っても謝りきれません。ジュネスさんの大切なものなのに……」


「形ある物はいつか壊れるものよ。でもどうしようかしら。この温泉に入ることが最大の催しだったのに」


「あ、あの! それならわたしに一つ案があります。というか、そうさせてください」


「あら、何かあるのかしら」


「わたしが暮らす場所にも、温泉があります。そこまで距離はありますが、五つあるので、大人数でも楽しめる、か、と……」


 話している最中から、ジュネスが両手を組んできらきらと目を輝かせていた。彼女だけではない。イリゼが暮らす場所にも温泉が、と発言した時点で、この場にいたほとんどの女性達が同じように目を輝かせた。一人、女の子だけは悠然と構えている。


「イリゼちゃんが暮らす場所、ということは、つまり、ウルチーモ様も暮らす場所ということですわねっ!?」


「そ、そうなります」


「その提案、乗りましたわ! こんなところでのんびりしている暇はありませんね。早く馬車を手配しないと。皆さん、仕度が調うまで先程の部屋でお待ちになって」


 指示を出すと、ジュネスは王妃ならざる速度で城へ駆け戻っていった。ぞろぞろと移動する中、女の子がまたじーっと見てくる。


「な、何かな」


 話しかけると、ぷいっと顔をそらして行ってしまった。一体何なんだと思いながら、部屋でジュネスが戻るのを待つ。


 手持ちぶさたに、アッシィにメートメートでの仮面の意味を聞くことにした。


「あの仮面ですか? あれは、ジュネス様のご厚意です。本音を語る場所で顔が見えてしまうと、ついつい相手の身分を考えて言えなくなることも出てくるからと。誰が誰だかわかっていますが、一枚隔てるだけで、物怖じせず言えるようになるから不思議です」


「それだったら、皆同じ仮面でもいいと思うんですけど」


「まあ、それは……ジュネス様の好みですね。同じじゃつまらないと仰って、他国へ足を伸ばしてまで全て違うものにしていますから」


「な、なるほど。じゃあ、帰るときは? まさか、つけたままじゃないですよね」


「それはもちろん。着替える場所も用意されていますよ」


 アッシィと話していると、ジュネスから準備ができたと声がかかる。城の入口を抜けると、大きな馬車が一つと、小さな馬車が二つ用意されていた。


「イリゼちゃん。どちらの方がよろしいかしら」


「木がたくさん生えているので、小さい方がいいと思います」


「そう、わかったわ。お前達、大きな馬車は下げておいてちょうだい」


 ジュネスの指示で、小さな馬車が二つ残る。それぞれに五人ずつ乗った。イリゼは、ジュネスとアッシィ、グラァス、それに女の子と同じ馬車だ。


 二台目も全員乗ったことを確認すると、馬車が動き出す。


「イリゼちゃん。確かまだこの子のこと紹介できていなかったわよね?」


「あ、はい。ずっと気になっていたんです。ジュネスさんに似ていますよね」


「わたくしの娘ですもの。似ていて当然よ」


「あ、やっぱり。こんにちは」


 話しかけると、馬車に乗る前のときのようにぷいっと顔をそらしてしまう。


「あらあら、ルビちゃんったら……人見知りをするような年齢でもないでしょうに」


「ルビちゃんは、いくつなんですか」


「今年、十四になるわ。あと二年もしたら、この子のお婿さんを捜さないとね」


 ジュネスは顔を背けるルビの肩を抱くが、本人は態度を変えなかった。どうしてこの場にいるのかと疑問に思うほど、つれない。


「ウルチーモ様は、突然大人数で押しかけても気分を悪くされないかしら」


「大丈夫です。元々、ジュネスさんに温泉のことを伝えると言ってありますから」


「あら、そうなの?」


 まさか、メートメートを退会するために提案しようとしたとは言えず、理由を聞かれる前に話を広げようと、温泉の話題を出す。


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