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「イリゼちゃん!」
城へ着いた途端、目を輝かせた赤髪の女性が出迎えてくれた。
「えっと、会長、さん?」
「そうよー。こちらの姿では初めましてよね。サフィールの母です。よろしくね」
ぎゅうっと抱きしめられる。その際、豊かな胸が顔に当たった。そして早速移動しようと手を引かれる。
「あの……本当に会長ですか」
「あら、どうしたの? そうよ。わたくしがメートメートの会長であり、王妃であるジュネスです」
「わたしの記憶違いかもしれないんですけど、ここ数日で体型が変わっているような気がするんです」
「ええ、そうね。あそこは解放される場所だから……って、ここで話すよりも移動しましょう。今日はイリゼちゃんの歓迎会を開くのよ。もう参加できる子達がみんな集まっているわ」
「歓迎会……」
「ええ、そうよ! 仲良くなりましょうね」
歓迎会の場所へ移動するためか、ぐいぐいと手を引かれる。振り返ってサフィールを確認すると、そのまま行けと頷かれた。
参加する人達が集まっているという一室に連れて行かれる。そこには五、六人とジュネスに似たピンク髪の小さい女の子がいた。
「皆さん! 遂にイリゼちゃんが来たわよ!」
ジュネスが声をかけると同時に、女性が一人駆け寄ってきた。がしっと手を掴まれる。
「ああ、イリゼ様! 緑の織物を身につけているということは、サフィール様との噂は、本当なのですねっ?」
「そ、そうです……。あの、ごめんなさい」
「何を謝っているのですか。そんな必要は全くありません。むしろ、わたし達サフィール様を推す面々としましては、サフィール様の心を動かしたのだと喝采しています」
「アッシィ。ひとまずそれぐらいにしなさい。話が進まないでしょう」
「失礼いたしました」
--サフィール派の人が、アッシィさんか。
オパル推しのグラァスはどこにいるのかと捜していると、急に背中に指を這わされた。
「ひっ」
「相変わらず、イリゼさんは素晴らしい背中をしていますねー」
「グラァスさん……」
「あらー。名前を知っていただいて光栄ですー」
「グラァス。どこに行っていたのですか」
「すみません。イリゼさんがまだ来なさそうだったので、オパル様のところへ行っていましたー」
「そう。まあいいわ。これでイリゼちゃんの歓迎会に参加する顔ぶれが揃ったわね。紹介するわ。右から、ミディ、ロザーンジュ、クード、アデュルトと」
「スヴォンさん……」
「こんにちは、イリゼさん」
「あら、二人は知り合い?」
「オパル様が引き合わせてくれました」
「スヴォンさん、あのときはごめんなさい。邪魔、しちゃったんですよね?」
「気になさらないで。むしろあの後、イリゼさんのおかげでオパル様と濃密な時間を過ごせましたの。逆にお礼を言いたいですわ」
「んっんー」
スヴォンと話をしていると、ジュネスに咳払いをされてしまう。ひとまず話を聞こうと、ジュネスを見た。
「本当はもう少し集まっていたのだけれど……サフィールの話が出てから、あの子を慕う子達が辞退してしまったの。まだ心の準備ができていないって」
「それは仕方のないことです。わたしのように、自ら強く志願して残る方はいません」
「アッシィさん。負け惜しみはみっともないですよー」
「なっ……別に、そのようなつもりは一切ありません。それに、わたしはサフィール様を慕う人達に、イリゼ様のことを伝える責務があるのです。時間を潰すためにこの場を離れるようなあなたと一緒にしないでいただきたい」
「そもそも負けてないですしー、何より時間は有効に使うものですよー」
「グラァス、良いことを言ったわ。そう。時間は有効に使わなければならないわ。だから皆さん。移動しますよ」
「ここで開かれるんじゃないんですか」
「イリゼちゃんの美脚はわかっているけれど、ウルチーモ様のお孫さんの体を、じっくりと観察してみないとね」
怪しく笑うジュネスの言葉に、思わず身を守るように体を抱きしめる。
「あらやだ。そんなに怖がらないで。ただここにいる皆さんで、温泉に入ろうというだけよ」
「温泉?」
「そう。お泊まり会でも舞踏大会でも良かったのだけれど、せっかく今回は作ってもらった温泉があるんですもの。それを活かさない手はないわ」
「今年、作ったんですか」
「そうよー。わたくしの誕生祝いに、王が贈ってくださったの。一人で入るのは寂しかったからずっと使えなかったけれど、これだけいればきっと楽しめると思うわ」
上機嫌で先頭を歩くジュネスに従い、この場の全員が移動する。
--温泉って、もしかして、もしかしなくても、あれだよね?
レオンと裏から入ったことを思い出す。あのときは温泉痕だと思っていたが、どうやらこれから初めて使うらしい。それなら湯張りされていなかったのも頷ける。
ここで服を脱いで、それから移動してと、嬉々として説明をするジュネスの足を止めようと先を急ぐ。
「な、なんてことっ!」
時既に遅く、イリゼが壊してしまった温泉痕に、ジュネスが行ってしまった。
--ああ……どうしよう……。
まるでイリゼのことを戒めるかのように、ジュネスに似た女の子が、じっと見つめてくる。
「こ、この穴は何かしら? まさかこの辺りに何か動物が来ているとでもっ!?」
ジュネスの悲鳴が続いている。これは早く謝罪をしなければと、彼女の元へ行く。
石で丸く縁取られている温泉の前で、ジュネスが呆然と立っていた。駆け寄った早々、すぐに頭を下げる。




