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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第三章 色々な親睦会
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 サフィールに言われた通り、木の陰で待っていた。するとよほど必死に走ったのか、汗だくになった彼が大きな緑の布を持ってくる。


「肩掛けだ。本来は肩から掛ける防寒具だが、腰に巻けば脚を隠せる。形ができているものもあったが、服の大きさがわからなかった」


「ありがとう。早速使わせてもらうね」


 サフィールから受け取った肩掛けを、腰に巻く。巻けるし、脚も隠れる。しかしそれだけだと、少し動けばすぐに落ちてしまう。


 巻くから落ちる。では、結んでしまうのはどうだろうと試してみた。正面に結び目が来るようにすると、動く度に緩くなってしまう。それに、歩きづらい。


 では、結び目を横にしたらどうかとやってみる。今度は、脚が自由に動けるし解けない。腰骨で止まるように長さを調整する。途中で解けないようにきつく結ぶと少し短くなってしまうが、布の端を垂らすようにすると前も隠れた。膝上くらいの丈だが、十分なはず。


「サフィール。どうかな」


 その場でくるりと回ってみる。いつもと同じように動こうとして、半分未満の歩幅に思わず体が傾ぐ。


「危ない!」


 転倒しそうなところで、サフィールに助けてもらった。そして、支えながら立つ。


「ありがとう」


「い、いや、イリゼに怪我がなくて良かった」


「ね、それよりどうかな。これで少しは隠せたでしょう?」


「そ、そうだな。まだ少し丈が短いような気もするが、今はこれくらいでいいだろう」


「よかった。いつもみたいに歩幅を広げられないから不便だけど、持ってきてくれた肩掛け、暖かい。改めて、ありがとう」


「い、いや、礼には及ばない。それなら街中を歩いても平気だろう」


「良かった。じゃあ行こう。サフィールのお母さんが呼んでいるんだよね」


 サフィールと一緒に、街の入口へ向かう。すると、門の所に兵士がいなかった。


「ねえ、サフィール。お城と街の間には人がいたけど、入口にはいないの?」


「いや、いるはずだ。いつも二人体制で外の様子を窺っている。交代の時間にしては、まだ少し早いようだが……」


「何かあったのかな」


 疑問に思いながら進むと、上の方から息を切らせた兵士達がやってきた。


「持ち場を離れるとは何事だ!」


「も、申し訳ありません! 自分達が見たことを、少しでも多くの仲間に伝えないといけないと思いまして……」


「見たことを伝える? イリゼ。街の入口で何か不審なことはあったか?」


「さあ……何もなかったと思うけど……」


 二人して首を傾げていると、兵士がイリゼを見て、サフィールへ視線を戻した。


「そ、その……サフィール王子の隣にいる方は、街で噂されている、思い人ですよね?」


「はっ!?」


「ち、違うのですか!? でも、その方の髪色にあった織物を巻いておりますし……」


「ちょっと待て。なぜ髪と同じ色の肩掛けを巻いていたら、そんなことになるんだ」


「サフィール王子は、ご存じないですか? 今街では、意中の相手の髪色と同じ色の織物を贈ることが流行っているのです」


「そ、それは、知らなかったな……」


「以前、サフィール王子が人目を憚らずにそちらの女性を追いかけていたことも、皆知っています。それに加え、今し方の一件で信憑性が出たと。サフィール王子が女性に織物を渡すまでは、疑っておりました。ですが贈り物をすることをしっかりと確認したので、急ぎ知らせなければと」


「……その心遣いは、ありがたいのだが……なぜ、知らせようと思ったんだ。別にそれほど火急な用件ではない」


「いいえ! あの、サフィール王子に思い人が現れたとあっては、街の秩序が乱れます」


「……詳しく、説明してもらってもいいか」


「はい! 街の女性達の人気を二分する、しかも今までそれらしい人物は一度も現れたことがなかったサフィール王子に、思い人が現れた。オパル王子は、声をかければ構ってもらえる。でもサフィール王子は何もしてもらえない。想いは募るばかり。でもいつか、いつかはきっと、想いをぶつけていれば振り向いてもらえるんじゃないか。いいや、贈り物を受け取ってもらえるだけでいい。そんなに高望みはしないわっ!」


 途中から、まるで演じているかのように口調を女性のようにして話す兵士。どんどん気分が盛り上がっていったようで、最後は性別の垣根を越え、女性に見えた。


 --うん。サフィールはやっぱり、女の人に人気があるんだね。


 イリゼと同じように、サフィールも兵士に幻覚を見たのか、唖然としている。そんな彼を見た兵士が我に返って、頭を下げた。


「も、申し訳ありません! つい、興奮してしまいました」


「い、いや、街の声を聞けたのは良かった。それで、俺に思い人が現れると、なぜ秩序が乱れるんだ」


「はい。説明いたします。先程のように、サフィール王子を推す方々は、常にもやもやとした気持ちを抱えています。そんな中、サフィール王子と一緒に歩くご婦人を見かけたとなると、長年の想いを砕かれた方は何をするか……ああ。いえ、すみません。また興奮してしまいました。サフィール王子を推す女性は、影から見守る姿勢の方々です。何かするというより、その寂しさを埋めるために部屋に閉じこもってしまいます。街中から女性が消えてしまうのは、由々しきことです」


「なるほど。母上から人の機微をもっと理解しろと言われていたが、まさかそこまでだったとは……」


「先日の一件があるので、心の準備はできている方も多いと思います。ですが、いよいよそのときが来たぞと改めて伝えて参りました。持ち場を離れてしまい、申し訳ありませんでした」


「じ、事情はわかった。だが今後、軽々しく自分の持ち場は離れるな」


「はい! かしこまりました!」


 敬礼してきた兵士に見送られ、街へ入る。その瞬間、全方向から視線を感じて、一度門の外へ避難した。


「……サフィール。結果としてはいいと思うけど……」


「ああ、あの視線の多さには少し辟易するな。だが、正しく求めていた結果だ。すぐにでも婚約を発表して、金の流れを作ってもいいかもしれない」


 門から外へ出ているのに視線を感じ、サフィールと入口を見る。今では兵士のみならず、何人もの街人がこちらの様子を窺っていた。


「……サフィール。どうしてこんなに注目されるぐらい、女の人と仲良くしてこなかったの」


「思う相手がいなかったのだから、仕方ないだろう。兄上のように、誰でも声をかけるなどとあり得ない。寧ろそうしてこなかったからこそ、婚約発表に信憑性を持たせられるとも言える」


「……まだ入口だからあれぐらいだけど、お城に行かないといけないんだよね? 一番奥まで行くのに、耐えられるかなぁ……」


「俺も、ここまで注目されるとは思ってもいなかった。だが、これは好機だ。いっそのこと、もっと衆人の目に触れてもいいんじゃないか。そうだ、酒場なんてどうだ。イリゼに約束した、料理も食べてもらえる」


「でも、サフィールのお母さんが呼んでいたんでしょ? すぐ行かなくていいの?」


「もう、今さらだろう。あの兵士の行動で、母上にも話は伝わっているはずだ。イリゼに会いたがってはいたが、それほど急いでいる様子はなかった」


「そっか。じゃあ、もう少し街中で行動してみてもいいのかな」


 今後の方針が決まり、街へ入ろうと歩いて行く。


 --ここまで注目されているなら、腕を組んでみた方がいいのかな。サフィールの思い人という扱いなら、わたしからは何もしない方が、より信憑性を高めるのかな。


 悩みながら、サフィールと一緒に門を抜けた。わっと、人の熱気に包まれる。ここまで注目されていながら、何も反応を示さないのは逆に不自然かと想い、偶然目が合った人に会釈した。


「こりゃぁ、別嬪さんだ」


「サフィール様ぁ……」


「緑髪の麗人だ! 第二王子が、冷血魔女と一緒にいるぞ!」


「なに馬鹿なことを言っているんだい。昔振られたからってそんなことを言うんじゃないよ。ほら、見てごらん。あの子がそんな風に見えるかい」


 良かれと思ってした行動は、街の人たちが話し出すきっかけになってしまったようだ。


 --おばば……どれだけ噂されてるの。前に会長から話は聞いたけど、まさかこれほどとは……。


 周囲の熱に戸惑って足を止めていると、サフィールが心配そうに戻ってきてくれた。そしてイリゼにだけ聞こえるよう、小声で話す。


「平気か? もし無理そうなら、イリゼを担ぎ上げてでも即座に移動するが」


「やめて。そんなことしたらもっと注目されちゃう。今さらって感じはするけど……」


 ひそひそと話をしていると、それが仲睦まじい様子に映ったらしい。


「ふー! 見せつけてくれるねえ!」


「サフィール様……女性は、人が多い場所はあまり好みませんわ」


「そのまま! いや、もっとだ! もっと近づけば」


「静かなところでしてやんな!」


 揶揄してくる人、何かを心配する人と反応は様々だ。男性はからかい、女性は場所の移動を促す。一体どういう状況なのか。


 --あっ、そうか! サフィールの顔が近いんだ!


 改めて状況を確認すると、今の近さに焦ってしまう。掠めるという一件もあり、すぐにサフィールを見ていられなくなった。


「わ、わたし、先に行くから!」


 肩掛けを結んで動きづらい状況で、必死にサフィールから離れた。


「逃げられてるぞー」


「追っかけろ! 追っかけろ!」


 そんなからかいの声が、後ろから聞こえた。


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