26
レオンに街まで送ってもらい、森へ戻した。それから、待ち合わせている入口にサフィールがいないことを見て、木の後ろへ隠れる。
サフィールが約束を違えることはしないだろう。しかし、それにしてはイリゼが来るとわかっているのに、まだ来ない。
木の陰でじっとしていると、出している足から体が冷えていく。生地は厚手だが、外気に触れている面積が大きい。さすがに少し寒いと思い、足を抱え込むようにしゃがみこむ。風が当たるのは少なくなるが、引っぱられた裾が上がってしまう。
--もうっ。やっぱりこの丈だと不便!
座ることもできず、立っていても寒い。なぜサフィールは来ないのかと思っていると、駆けてきた彼がようやく街の入口に現れた。周囲を窺っている様子を見て、ようやく木の陰から出る。
「イリゼっ!?」
気づいてくたサフィールが、慌てて近づいてくる。
「イリゼ! なんて格好をしているんだ。そんな、あ、脚を出すなんて……」
忠告しながらも、サフィールはイリゼの脚に注目している。ちらちらと、何度も視線を動かしては泳がせた。
「やっぱり、変だよね。家にあった服を着てきたんだけど……ちょっと、おばばのせいでこれしかなくて」
「い、いや、駄目なわけでは……いや、駄目だ。そんなに脚を出していたら風邪を引いてしまう」
「風邪を引くとまではいかないと思うけど、確かにちょっと寒いかも。サフィールは何か持ってる?」
「すまない。今日は街で過ごすと思って、特に防寒具を用意していないんだ。このままだと、イリゼが風邪を引く。どうにかしなければいけないが……仕立屋へ行くか? いや、そこへ行くまでの間にイリゼの脚が公に晒されてしまうのは……なら、オネット商会は? あそこなら仕立屋よりも少しだけ近い。いや、それも変わらないか」
「オネット商会に行くの?」
「いや。オネット商会は街の中心部にある。そこまでイリゼを連れて行くのは」
「お父さんのお店って、服も売ってるんだ」
「お父……って、イリゼはオネットさんの娘なのか!?」
「そう。普段は忙しくて、なかなか森まで来れないみたいだけど。わたしも、特に会おうとはしなかった。だから知られていないかも」
「オネットさんは、髪が青緑……いや、それにしてもイリゼの髪色と違いすぎる」
「わたしは、お母さん譲りだから」
「そうか、緑髪の魔女の孫だったな。女系の血を多く継いでいるんだろう」
「魔女って、サフィールもおばばのこと知っているの?」
「いや、母上が……あ、そうだ。イリゼ。母上が呼んでいた。すぐにでも迎えに来ようと思ったのだが、母上に捕まってしまったんだ」
「朝帰り、の?」
「そうだ。母上と話をしていたら兄上も面白がって……いや、それはいいんだ。ともかく、街へ行こう」
「わかった。お城へ行くなら、途中でお父さんのところに寄って良い? さすがに、このまま行くのはちょっと……偉い人と会うのに、少しでも見た目を良くしておかないと」
「特に、畏まって服装を改める必要はないが……そうだな。イリゼの脚が晒されないように対策しないと」
「わたしの脚が見られるのは別に……あ、でも計画のためにサフィールと一緒にいるときに、変な噂が流れちゃうかな? サフィールが悪く言われちゃうのは嫌だから、どうにかしよう。ここで待っているから、お父さんのところで何か買ってきてもらえるかな? わたしのことを話せば、お金はいらないって言ってくれると思うし」
「……一つ、訂正をしておく。イリゼの足を晒してしまうことで、俺が何か悪く言われることはない。言われるとしたら、それは揶揄するようなことだ。計画のためには、必要かもしれない。だが、俺がいやだ」
「やっぱり、こんなに脚を出すのはダメだよね」
「そうじゃない。俺が、見せたくないんだ」
「サフィールが? でもさっき、計画のためには、出してからかわれた方がいいって言わなかった?」
「っっっ、と、とにかく! オネット商会でイリゼの足を隠せるようなものをもらってくる。誰にも見られないように、木の陰にいてくれ!」
「わ、わかった。待ってるね」
--かなり慌てていたみたいだけど……サフィールは、わたしの脚を少しは認めてくれたのかな。そうだったら、いいなぁ。おばばは、わたしの脚が武器になるって言っていたけど、よくわからなかったし。でも、武器っていうのは、この脚で誰かを蹴り上げろということなのかな?




