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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第三章 色々な親睦会
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25

「おばばー!」


 家に戻ると、ウルチーモが実にいい笑顔を浮かべていた。


「どうしたんだい、イリゼ。そんなに慌てて。まるで着る服が他に何もなかったみたいじゃないか。靴は置いておいただろう?」


「どこに隠したの!」


「いいじゃないか、そんな些細なことは。イリゼの脚は武器になる。若い内はどんどん出しておくべきだよ」


「嫌だよ、こんな丈!」


「まあ、そんなに怒るんじゃないよ。わたしが認める美脚なんだ。とんと自慢しておいで」


「美脚って……あ、そうだ! 思い出した! おばばって、昔緑髪の美脚魔女って言われてたの?」


「懐かしい呼び名だねぇ。そんな時代もあったさ。それがどうかしたのかい」


「前に街に行ったとき、ちょっと変な集まりに強制的に入会させられちゃったんだけど……そこで、おばばの話題が出たの。年齢と見た目が合っていない。若く見えるって」


「そりゃあ嬉しい話だね。まだそんな風に言われているのかい」


「なんか、街の女の人達の間で、ずっと噂されているんだって」


「光栄な話だが、なぜ今その話を出したんだい」


「あっ、そうそう。それで、その強制入会の理由が屋根を壊しちゃったからなんだけど」


「……街に行って、一体何をやっているんだい」


「会員の人達がみんな、おばばに憧れているみたいなの。サンクラァールの効能は伏せてさ、温泉におばばがいるよって言って、解放されるのってダメかな」


「せっかく人と交流できるんだ。わざわざその機会を不意にすることはない」


「だって、ものすごく疲れるんだもん。なんていうか、みんな元気すぎるというか、情熱が迸っているというか」


 どう説明したらメートメートのことが伝わるかと考えていると、ウルチーモが軽く咳をした。


「乾燥しているよね。水、足りなかった?」


「いや、十分ある。しかしね、年のせいか大量に嚥下できなくてね。ついつい少量になってしまう」


「サンクラァールに入ってもダメなの?」


「そうさね、のぼせやすくなっているから余り入っていないんだ」


「そっか……あっ、そうだ! もしかしてさ、わたし以外の人と交流をしてないから体調が悪いんじゃないの?」


「そんなことはないだろう。年のせいさ」


「わからないじゃん。さっきは人と交流するのはいいことだって言ってたじゃん。それってわたしだけじゃなくて、むしろおばばの方が必要なんじゃない?」


「行こうと思えば、いつだって街へ行ける」


「でも、杖ついてるじゃん。足腰悪くしているからレオンに乗るのも、自分の足で行くのも大変でしょ? だったらさ、ここに人が来てもらえばいいんだよ!」


「そうは言っても、その人達は信用できるのかい? ヘタに知られてしまうと、この場所がだめになってしまう。今さら他へ移れと言われても、わたしには難しい」


「大丈夫! 女の人は温泉好きだと思うし、何よりおばばが話し相手になるんだったら悪用なんてしないよ」


「あんまり気が進まないねぇ」


「隠そうとするから、暴きたくなるんだよ。まあ、効能はちょっと特別かもしれないけど、大自然の中の温泉って、それだけで魅力があると思うの!」


 自分が解放されたいという気持ちもあるが、ウルチーモの今後を思っているのもある。


「……それにさ、もし。もしもだよ? サフィールとの婚約が本当になってさ、結婚しちゃったらおばばが一人になっちゃう。そりゃぁ、完全にここから出るってわけじゃないよ。ここでの生活が染みついているから、街で暮らすなんて難しいかもしれないし。結婚しても、すぐ逃げ出して戻ってくる可能性だってある。でも……」


「わかったよ。イリゼがそこまで考えてくれているなんて知らなかった。会いもしないで悪人だと決めつけるのは、年寄りの悪い癖だ」


「おばば……」


「それに、あれだけしつこく言っても聞く耳を持たなかったイリゼが、本気になっているんだ。わたしも動いてみよう」


「だ、だからそれは仮定の話で……そうなる可能性は高くないというか……」


「仮でも何でもいいさ。イリゼが楽しいなら。王子との婚約を本気で頑張って、また話を聞かせておくれ」


「わ、わかった……頑張る」


「街へ行くなら、ちゃんと靴を履くんだよ。将来王子の妻になる予定なら、そういうものにも慣れておくんだ」


 ウルチーモの助言を聞き、物置へ行って靴を履く。普段は裸足で生活をしているから、つま先が広げられなくて窮屈だ。それでも、イリゼが履けるように調整して作ってくれている。細い蔓で編まれたウルチーモ特製の靴。どんな思いで編んでくれたのだろうか。


 ウルチーモに見せに行く。


「ああ、履いてくれたんだね」


「ありがとう、おばば」


「街から戻ったらすぐに着替えられるように、いつもの服を置いておくよ」


「……やっぱり、隠してるんだ」


「ちーとばかし地味かもしれないが、イリゼはわたしの孫。何を着ても似合うから、胸を張って行っておいで」


「なにげに自分の自慢が入っているよね」


「自慢の孫を自慢して、何が悪い。もしどうしても着替えたくなったら、オネットにでも相談してみるといい。普段構ってやれない分、何でも買うと言うだろうさ」


「ん、まあそれはそのとき考える。じゃあ、行ってきます。今日はちゃんと帰ってくるから」


「もし帰らなかった場合は、王子のところに泊まったと思っておくよ」


 笑って送り出してくれたウルチーモに苦笑して、レオンを呼ぶ。いつもなら角を持って飛び乗れるのに、今日はできない。腰を落としてもらい、跨ぐ。


「……この丈だと、跨ぐと服を着ている意味がなくなっちゃうか」


 動き出そうとしたレオンに断り、一度降りる。そして丈を最大限まで伸ばす。そうしてまた腰を落としてもらい、今度は横向きに乗る。


「うー……乗りづらい……」


 普段と違う様子のイリゼが気になるのか、レオンは何度も振り返る。走ってもいいのか窺っているのだろう。


「ごめんね、レオン。今日はゆっくり進んで」


 イリゼの意志を汲んだように、レオンがのっそりと歩き出す。


 --この格好、サフィールに変だって思われないかな。いつものわたしが良いって言ってくれていたのに。


 レオンの背で揺られながら、サフィールと待ち合わせている街の入口へ向かった。



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