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森守り姫と狩人王子の仮婚約  作者: いとう 縁凛
第二章 狩人王子の仕事
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 --イリゼにばかり準備をさせてしまっている。これでは俺のいる意味がない。しかし、イリゼにやってもらうばかりで何もしないのでは、男の沽券が下がる。仮とはいえ、婚約をするまでの仲にならないといけない。イリゼに頼ってもらってこそ、それらしく映るだろう。


 何をするのか気になるイリゼの動きを追うことを止め、薪を作ることだけに全ての力を注ぐ。そうしてようやく、十分な量の薪を準備できた。


「あ、できたね。お疲れ様。わたしが一人でやるよりも早かったよ。男の人は投げつける一回の力が強いんだね」


「そ、そうだな。もっと力が必要なことはないか? どんどんやるぞ」


「薪ができたから、火の準備をしよう」


 サフィールが必死になって薪を作っている間、イリゼは着実に食事のための仕度をしておいてくれたらしい。二叉にした一組の枝が地面に刺さり、その間には円形に石が置かれ、サフィールが集めていた小枝もあった。先程イリゼが作っていた道具は横に置いてある。


「作った薪を石の輪の中に入れて。火が燃えやすいように斜めに立てかけるようにしたらいいかも」


 指示に従う。


「後は、火起こしだね。この方法でやるのは久しぶりだけど、つけられるかな」


「力仕事か?」


「力、というよりかは速度かな。わたしがやるよりもサフィールの方がいいかも。手が大きいから、その分擦る面も大きくなる」


「任せておけ。どうすればいい?」


 イリゼは細工をしていた板と棒を持ってくる。そして枯れ草を細かくし、板をその上に置いた。


「簡単だよ。この棒を、板につけた窪みのところでとにかく速く回転させるだけ」


「それだけか?」


「そう。でも、これが中々つかないんだ」


「イリゼが難しいというのなら、俺がやったら相当時間がかかりそうだな。だが、やろう。期待して待っていてくれ」


「わかった」


 イリゼから任された仕事をするため、板の前に座る。窪みから棒が外れないように、両手で挟んで素早く滑らせた。すぐに摩擦で手が熱くなってきて、これなら火もつくだろうと板を見る。


「……何も変化がみられないのだが……」


「やっぱり、この方法だとつかないか。煙も出ていないもんね」


「煙が出るものなのか」


「そう。窪みの先に、少し切り込みをしてあるでしょ? 削られて出てきた木くずがそこに入って、摩擦熱で火種ができて、それを枯れ草に移して燃やすの。そうしたら周りに火が飛ばないように手で囲って、息を吹きかければ火がつくんだ」


「……火を起こすことは、簡単にはできないのだな」


「いつもやっている方法なら、もっと楽にできるんだけど……少し時間をもらえたら作れるけど、どうする?」


「男が一度やると決めたら、その方法をやり通す。このままやる」


「わかった。棒で擦れて痛いかもしれないけど、頑張って」


「ああ」


 --イリゼに期待されている。これは、是非とも応えなければ!


 ただひたすら、いかに速く手を滑らせるかだけに集中する。諸々の準備をしている間にすっかり日は落ちて、周囲は暗くなってきた。しかしそのおかげで、小さい火種を発見。すぐに枯れ草へ移し、息を吹きかける。すると手に熱を感じられるほど火が大きくなり、薪に移した。


「あっ。ついたんだ。良かった」


 どこかに行っていたらしいイリゼが戻ってくる。カドネワの葉をいくつも持っていた。


「イリゼ。どこか怪我をしたのか」


「違うよ。わたしじゃない。サフィール、手が痛いでしょ?」


 言われてから、自分の手がひりひりしていることに気づく。ところどころ、皮が剥けてしまっている部分もある。


 イリゼがカドネワの葉を揉み、そこに当ててくれた。


「わたしもね、最初はこの方法だったんだ。それで何度もサフィールみたいな状態になったの。手の皮は厚くなったけど、時間もかかるし、他の方法はないかなーって思って、今は簡単なやり方で火をつけているの」


「簡単なやり方?」


「そう。自分の手くらいの弓を作って、それを押さえる石か板を用意するの。棒を弦で捻って、左右に動かすんだ。そうすると、今サフィールが手でやってくれたことと同じ作業になるの」


「なるほど。それは速く火を起こせそうだ」


 採ってきていたカドネワの葉を、全て渡される。


「これから鴨を焼くから、仕上がるまで待ってて」


「手伝う」


「いいよ。サフィールには十分手伝ってもらったから。それに、ケガもしてるでしょう? カドネワで治療しつつ、川で手を冷やしてくるといいよ」


「わかった。その言葉に甘えよう」


 イリゼに背を向け、川へ行く。


 --っ、予想よりも冷たいな。


 川の冷たさが骨身にこたえる。冷たすぎて一瞬、手の感覚がなくなった。それでも何度か繰り返していると熱くなっていた手が冷えてくる。カドネワの葉を当ててイリゼの元へ戻ると、三本の枝を使って作った道具を持ち、鴨の前で正座していた。


「どうしたんだ、イリゼ」


「や、えーっと……もう、死んじゃっているのはわかっているんだけど、どうしても刺せなくて」


「鴨に刺せばいいのか? 先に羽をもがないと駄目だ」


「そ、そうなの? そっかぁ。羽を……かわいそうだけど……」


「俺がやろう」


「やってくれるの? あ、でもまだ手が痛いよね」


「川の水で冷やしてきた。準備をするくらいなんてことはない」


「ほんと? じゃあ、お願い」


「わかった」


 カドネワの葉をイリゼに預け、鴨から羽を取る。イリゼが息を呑んだとわかったが、作業を続けた。枝と鴨を掴む。そして一気に刺した。隣で、イリゼが小さな悲鳴を上げている。


「これでいいか?」


「うん。ありがとう。ごめんね……」


 最後の一言はすでに息絶えてから時間が経っている鴨に言ったようで、枝が刺さっている部分に手を当てている。


 鴨の丸焼きはどうやってやるのかと、イリゼの行動を見守る。すると、二叉にした枝の上に鴨を刺した枝を置く。


「なるほど! そうか」


「わかった? 初めてやるからできるかどうか不安だったけど、うまくいったみたい」


 イリゼは蔓で作った持ち手を掴み、くるくると回す。時々カクカクと不思議な動きをするが、手作りした台だからそれも仕方ない。



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